Loose.


01

二度目の人生なので好きに生きようという気持ちと、上手に生きようという気持ち、それからちょっとした諦めを携えて生活をしてきた。 漠然と、学校の先生になろうと考えてたんだけど、親戚が警察関係者だったこともあり、なんとなくそっちに意志が動き高校の進路相談で警官になりたいとこぼすようになっていた。
ぱっと思いつくのは交番のお巡りさんってやつで、後は白バイ隊員とかカッコイイよなくらい。ああ、花形といえば刑事かな?あれもカッコイイ。
…… なんて、親戚の人と話をしたのはいつだったか。
採用試験に合格したのちに警察学校には通ったが、大抵の卒業生が交番や署で研修・勤務する所をすっとばし、最初からしれっと刑事になる試験を斡旋されて、合格したので刑事になった。これが親戚のコネってやつなのかもしれない。まあ、もっとコネもっててエリート街道まっしぐらな奴は人事関係に進むらしいけど。

まあ、がんばろう。それなりに正義感はあるつもり。結構真面目な性分だし、人の為に行動するのは好きだ。
「———松田が入って来てもう一年か、早いものだな。慣れたか?」
「慣れた……うーん、刑事でいる生活には慣れたかもしれませんね」
刑事局局長の夜神さんに声をかけられたので、仕事帰りに大衆酒場で隣り合って座っていた。
入局した時に俺の面倒を一番見てくれたのはこの人で、いろんな意味での先輩である。彼の正義感は実直で、時々驚く程だったけれどついてけないという程でもない。むしろ局長がこうあってくれたからこそ、自分はまだほけほけと刑事をやれるのだとも思っている。いわば安心材料のようなものだ。
日本酒が入った徳利を傾けながら、俺は今までの生活をちょっとだけ振り返る。
基本的に二人組で行動する上に、俺についてるのはベテランや中堅の先輩刑事なので、大変頼りになった。場面によっては二手に分かれることもあるが、急いでるか本当に一人で良い場面ばかりなので、そう難しいことではない。今の所は。
このまま場数を踏んでって、それなりに叩き上げられてくものなんだろうなあ。
「そうか、それはよかった」
局長は猪口を置いてふっと笑う。
それから思い出したようにこっちを見た。
今度の休日うちに遊びに来い、と言われたのはなんかの間違いかと思って聞き返そうと思ったが、とりあえず頷くことで了承した。上司が部下を家に呼ぶ事はおかしなことじゃない。
一年経ったことを祝いたいとか、息子さんも刑事になりたいそうだから若い刑事の姿を見せてやりたいってとか、理由はちゃんとあった。
信頼されてるってことなのだろうと、ちょっとばかり喜んでおくことにする。

「夜神月です。父がいつもお世話になってます」
手土産を持って訪れた上司の家で、好青年が俺を出迎えてくれたとき、俺はぱちぱちと瞬きを繰り返してしまった。
「———松田さん?」
「どうしたんだ、松田」
親子が俺の顔を心配そうに覗き込んで来る。
彼らの向こうには奥さんと娘さんも居て、どうしたのーなんて声が聞こえる。
「ええと、しっかりしたお子さんだなって。聞いてたよりもかっこいいし」
「父さん、僕の事をどう説明したんだよ」
俺いつもの調子に戻って、お茶目に笑ってみせた。
いけないいけない、変な名前に驚いたなんて言えない。漫画の主人公とそっくり!なんて言えない。
俺が松田という苗字であることも重なって嫌な偶然だと思ったけど、ここがあの漫画の世界だなんて信じられるわけないし、ライトくんはとっても好青年だった。今時こんな良い子いるかよって思ったけど粧裕ちゃんだって良い子だし、そもそも局長も奥さんも良い人な訳だから。そう、自然の摂理。


「あ、松田さん!」
「へ?」
ある日、本庁のロビーで俺は急に呼び止められた。
先を歩く先輩の背中から視線を外して声のする方を見ると、ライトくんがこちらを見て軽く手をあげていた。彼と向き合っていた局長も振り向いて、俺を見た。手には紙袋を持っていたので荷物の受け渡しだと思う。
先輩も足を止めた俺に気づいて、局長とライトくんを視界に入れる。そして俺の肩をぽんと叩いてから、短く先に行くことを告げて歩いて行った。
「呼び止めてしまってすみません、つい、知ってる姿を見つけたので」
「松田は外回りの帰りか?」
「こんにちはライトくん、久しぶり。そうです、外回りに行ってました」
歩み寄って行くと、ライトくんは少し申し訳無さそうに笑う。
「局長とライトくんはどうしてこんな所に?」
「ああ、着替えを持って来てくれたんだ」
「そうなんですか。たまにはお家に帰らないと———と言いたい所ですが、局長が居ないと困るので何とも言えませんねえ」
「嬉しい事を言ってくれるが、しっかりしろ松田」
激励するように背中をパンパンと叩かれ、苦笑を漏らす。ぺーぺー刑事に期待をしないでいただきたい。
二年目にはなったけど、俺はまだ聞き込みしかしてないし、会議で報告をするのだって殆ど先輩に任せきりだ。事件に関して意見を出すこともほぼないし、集めて来た情報で上の人達が判断するのを待つのが現状である。
そして確実に、ライトくんの方が推理力はあるだろう。
「ライトが入庁したら、お前の部下になるかもしれないんだぞ」
「えっ、すごいプレッシャー」
俺はへらっと笑いながら薄ら寒さを感じた。
この、三拍子どころか三三七拍子くらい揃った優秀な人物が俺の後輩になるわけ?仕事辞めたい。
「松田さんと一緒に捜査できる日を心待ちにしています」
「あはは……実際組むのはもっとベテランの人だと思うけど」
「そうですか?残念だな、松田さんと組んでみたかったのに」
「いやいやいやいや」
俺はぶんぶん手と首を振った。
「また、遊びにいらしてくださいね。粧裕も母も会いたがってました」
もちろん僕も、とライトくんは笑った。
やだこの子良い子……。



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主にヒロイン成り代わりシリーズとうたってますが、デスノートのヒロインは松田さんだったような気がするので……間違ってない筈。
Aug. 2016

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