04
春になって、竜崎さんはライトくんと同じ学校に入学したらしい。入学式がちょっと見てみたくなった。それをこぼしたら相沢さんに遊びじゃないんだって言われたし、模木さんにはああまたコイツアホ言ってるって感じで一瞥された。
「見に来ても良いですよ……仕事が終わればですが」と、唯一優しい言葉をかけてくれたのは意外にも竜崎さんだったけど、どっさり仕事を置いて行った。
「竜崎さんのいじわる……!」
「あれは竜崎なりにコミュニケーションなんだと思うぞ、松田」
「うそです!うそです!」
宥めてくれた局長だったけど、あのドヤ顔を思い出して先ほど奴が出て行ったドアを指さした。
そういえば局長もライトくんの入学式だっけ。まあでも、正直大学の入学式はビッグイベントでもないか……。
「あの人、絶対目立ちますよ。入学挨拶までするんでしょ?」
「そうだ。———彼自身も危険な賭けに出ている」
「あー、ですね」
模木さんは北村次長の娘に、竜崎さんはライトくんにLだと名乗り出るのだった。
俺はちょっとだけ忘れかけていた事実を確認し、目の前の仕事に戻った。
あの格好で入学式に参加してザワザワされてる竜崎さんを眺めたい、とか思ってごめんなさい。
それから数日後、局長が倒れた。次長に呼び出されて行った先でのことだったので、俺達は後から連絡を受けて相沢さんと宇生田さんが代表して見舞いに行った。竜崎さんとライトくんなんか当日に行って来たらしい。俺も行きたいけど、多分自分に構わず捜査を続けてくれって言われるだろうから諦めた。はぁ〜お仕事お仕事。
俺達はとりあえず南空ナオミさんの足取りを追うしかなく、ちまちま聞き込みを行っていた。そんなある日、さくらテレビがキラの声を配信し始めた。
あーこれは、あれだ、ミサミサだ。
ライトくんに彼女ができるのかあ、だとしたらやっぱり、キラなのかなあ。
テレビ局に向かった宇生田さんが倒れ、局長が護送車で突っ込んで行くのは驚いた。
こんな身近に居た人が犠牲になるとは思ってなかった。
南空ナオミさんの遠ざかる背中と宇生田さんの飛び出して行く背中を脳裏に描く。それから竜崎さんたちがバタバタと対応しているのを眺めているしかできなかった。
よく考えたら、ライトくんがキラなら最後は死ぬんだった。新しいキャラクターの登場とか主人公の最後だけは知ってる。他はよく知らない。
ワタリさんは、竜崎さんは、相沢さんは、模木さんは、局長は、最後にどうなってたっけ。
もうよくわからないので、俺はやっぱり必死に捜査していくしかなさそうだ。
味方としては局長の味方で、願望としてはライトくんがキラじゃない方向なんだけど、竜崎さんを信用してるのと、俺の無駄な予備知識のせいでライトくんを心から信頼できないのが現状だ。
そんなライトくんは第二のキラがあらわれてから、推理力を買われて捜査に参加することになった。一応偽名で通すそうだけど、俺は名前を知られてるのであんまり意味がない。
ホテルのロビーに迎えに行くと、ライトくんは俺の登場にちょっとだけ驚いたようだった。まさかキラ捜査に参加してるとは思わなかったか、もしくは南空ナオミさんの件で後ろ暗いところがあるのか……。できれば前者であれば良いなとは思う。
「一緒に捜査できる日がこんなに早くくるとは思いませんでした」
「そうだねえ」
「一緒に頑張りましょうね」
「うん、がんばろ」
エレベーターの中で短い会話をしてから、部屋に案内をする。
竜崎さんはキラの映像をライトくんに見せ、あざといポーズで質問をして第二のキラであることをライトくんだけの頭で推理させた。ほーすごいすごい、俺だったら絶対分かんない。
これでライトくんの推理力が認められて捜査に加わる理由にもなる。彼にはキラを演じてもらうってことになったのだが、俺はなんとなく二人のかけひきってやつを感じてしまってあんまり楽しめなかった。俺の偏見だったらいいのになあ。あーあ。
竜崎さんとライトくんの軽口の応酬が寒くて仕方ねえ。
キラと第二のキラでテレビメッセージのやりとりを重ねた後、俺達は第二のキラが現れるかもと言われた渋谷と青山に行く事になった。
「朝日さんの様に目をギラギラさせたいかにも刑事と言う人は除外します」
「……うむ……」
俺は声に出さずに笑う。
「ということで、松井さんお願いします」
「へ、えッ??ぼくですか?」
「あなたが一番刑事に見えません」
「あ、そうですか……一番若いですしネ」
アホな声をあげると、竜崎さんはじっとりとこっちを見た。
「じゃあ僕も行くよ」
「ライト……」
「大丈夫だよ父さん、青山・渋谷はたまに行ってる所だし、松井さんと一緒にウロウロしてても一番不自然じゃないのは僕だ」
俺は頷くしか無い。えー別にライトくんが行くなら行くで良いけど、それならいっそ俺は行きたくなくなってきた。
結局俺とライトくんが一緒に行く事になったので、俺は帰り際タクシーに乗り込むライトくんに明日にでも予定を決めとこうねと声を掛けた。
「捜査とはいえ、松井さんと出掛けるのを楽しみにしています。……もちろん、捜査もですけど」
は〜お口が達者でらっしゃる……と思いながらタクシーを見送ると、竜崎さんから電話がかかってきた。
「なんですか?」
「……なに肩落としてるんですか?」
「え、みてんの?みてんの?」
きょろきょろするが、当然竜崎さんは居ない。
「上からに決まってるでしょう」
「ですよねえ。……肩を落としていたのはライトくんのお世辞が相変わらず重たいからですう」
「お世辞?」
「お父さんの教えなのかもしれないですが、なんだろうな、あの人よく俺を立てるんですよね」
「どんな風に?」
「俺と一緒に捜査するのとか、出掛けるのが楽しみとか〜、口説かれてるみたいでむず痒い」
「……。青山・渋谷での行動はライトくんに合わせ、当日はライトくんの事も注意深く観察してください。これは内密にお願いします」
「あ、は〜い」
のんびりお返事をして、ホテルの中に戻った。
22日の青山では、俺はライトくんが通っていた予備校で塾講師をしていた大学院生、太郎さんということになっている。基本研究室か塾の往復しかしてないからたまには青山や六本木に連れ出してあげようと思ってさ、と言うとライトくんが連れて来た大学の友達は軽く笑う。
おいくつなんですか?塾では何を教えてるんですか?研究は?なんて聞かれてもライトくんが用意してくれた回答があるのですらすら答えが出た。細かく聞かれる事は無いし、そうなったらなったでライトくんがフォローする約束になってる。あんがとうねえ。
「松井さんって彼女は?」
「いないよ、研究とバイトばっかりだから」
「だから、彼女作ってデートすればいいんじゃないですか!」
「そうかな」
東応といえど女子大生はきゃぴっていた。
「だめだめ、太郎さんは彼女募集してないから」
「あはは、なんで夜神がそこまで仕切ってんだよ〜」
男連中がライトくんの話に乗ってくれたので、俺は笑って済ませられた。
next.
上司や先輩にはぼく、ライトくんと竜崎には俺。
松田さんの偽名は松井ですが、朝日さん同様最初の方だけしか使われていないこともあって、まぎらわしいかもしれませんが一応意識して漫画と合わせて使っています。誤字じゃ……ないです。
Aug. 2016