Loose.


08

ミサを使ってヨツバに探りを入れた後、なんだか勝手な行動をして火口がキラだという証拠を見つけて来た。俺も勝手な行動をしたので人の事は言えないんだけど。
その間に二手に分かれていた捜査チームもやっぱり合同にもどり、ミサが持って来た情報を使っていかにしてキラの殺人手口をあぶり出すかという話になったが、なんということでしょうここにきて俺がまた活躍する事になる。
活躍っていうか、まあ囮であって命も危険なんだけど。
「———やります」
死んだ筈の俺がテレビにでてればキラは焦るだろう。松田さんが死にます、と言われたけど俺は間髪いれずにやると答えた。
一応俺は最後まで生きてたと思うけど、ライトくんがもしかしたらキラじゃないのかもしれないし……と信じきれてない俺が自分が死なないと信じる事もできない。でもこれをやるのが一番手っ取り早いと思った。

テレビの準備は三日で恙無く行われ、その間ミサに煽られた火口は犯罪者裁きを停止していた。
三日間凄く平和だったなあと思う。
前日、俺は一度家に帰ったらどうだと局長に言われたけど、別に良いですと答えて残った。
その日の晩、俺は自分の居住スペースのベランダに出て一服する。明日死ぬかもしれないし、まあ上手く行けば死なないだろう。うーん、あんまり実感が沸かない。
一本吸い終えてベランダから戻ると、ちょうど部屋に来客があった。局長が激励にきたのかな……とも思ったけど、やってきたのは竜崎さんとライトくんだ。
どうしたどうした、ととりあえず部屋にいれると、一服してる所をすみませんと竜崎さんが断りをいれた。多分俺から煙草の匂いがしたんだろう。
「いや、もう吸い終わったので全然。ところで、明日の事でなにか?」
「私は特に用はありませんが、ライトくんがあるというので」
「僕も別に用というわけじゃないんだけど……そういえば最近話せてなかったから」
「まあ明日殺されたらもう喋れないもんね」
ふふっと笑うと、ライトくんは困った顔をした。
「———松田さんはどうして、キラを追うんですか?」
「さあ、どうしてだろう」
ソファに腰掛けた二人に向かい合って座る。竜崎さんには煙草どうぞ、と言われたのでお言葉に甘えて二本目に火をつけた。
「以前から聞いていましたが、警察になったのに特に理由はありませんでしたよね」
「うん、ない」
用は無いと言う割に竜崎さんが普通に会話を繋ぐ。
「ライトくんには前に言ったことがあったけど、小さい頃は学校の先生になりたいなって思ってたくらいだし、親戚に警察関係者が居たから興味はあって、でも心からの憧れとか尊敬はなかったかな」
ライトくんは多分お父さんの影響も有るんだと思うけど、と言うと彼は小さく頷いた。
「本当になんとなく、刑事になれたら格好良いよねっていう感じで入って来て、でもそれなりに正義感は有る方だし……局長のことは尊敬してマス」
「それは知ってます」
手を合わせてぺこりと頭を下げる。二人に対してというより、今ここには居ない局長にだ。
「見ていて思いましたが、それなりの正義感はあれど、夜神さんや相沢さんのように真っ向から熱い刑事というタイプでもなく、かといって模木さんのように冷静沈着で物事を見据えているのとも違います」
「はぁ」
なんか人事部の人と面接してるみたい。昇進かな?むしろ昇天するかもしれないんだけど。
内心でブラックジョークを吐きながら、竜崎さんが初めて俺に対する分析を言ってるのを聞いた。でも刑事が全員刑事らしいわけじゃないだろうし、刑事じゃないライトくんがこんなに熱いんだから個人差もあるだろうよ。
「一応、俺も責任は感じてるんだよねえ、ちょっと余計な事しちゃったなって」
「でもあれは……なんとかなったし、良いきっかけにもなった筈です」
「あの時は松田の馬鹿と思いましたが別に恨んではいませんよ」
「……ドウモ。でも責任だけで死ぬ覚悟をしたわけじゃないからね、ぶっちゃけ死ぬかもっていう実感もあんまりないし」
煙を上に追い上げるようにぷんぷん手を振って否定する。
「もともとキラの捜査に残ったのは刑事としての選択だけど、初めてキラの事件が起こったとき———、新宿の通り魔の」
「はい、最初の犠牲者とも言われていますね」
「うん、あの中継をテレビで観てて、なんとなくピンときた」
「どういう意味ですか?」
ライトくんは訝しげに首を傾げた。
竜崎さんも同じようにして、俺の言葉を待つ。
「既視感とか、運命とか———わかんないけど、これは大変だって」
ライトくんのことを考えたとか、前世の記憶や妙な勘を持ってるんでしゅーとは言えないので言葉を濁した。
「既視感ですか」
「うん、まあ本当に勘です。それで段々、ここがこの世界の中心なのかもって思った」
すっかり短くなった煙草を灰皿に押し付けて火を消した。
「大げさな言い方だけど。だから俺は出来る事ならここに居たいと思うし、最後までLとキラの勝負の行く末を見たいし、キラが誰なのか知りたい……———いわば興味です」
竜崎さんは大きな目を一度ぱちりと瞬きをしてから、ふにっと口元だけで笑った。
「最初に話したときに聞けなかった事を聞けてよかったです」
「そりゃよかった———ライトくん、幻滅した?」
何の反応も示さなかったライトくんの顔を覗き込むと、えっと驚き顔を上げた。
「いや、なんか……自分で言うのもなんだけど……期待をされていたような気がしてたので」
お世辞だったかもしれないけど、と言い繕いながら照れ隠しをする。
「そうですね、松田さんのことは尊敬してましたけど……一緒に捜査している中であなたがどういう人間であるかは分かっていたつもりですし、それでも人として尊敬しています」
「ありがとう……」
「明日は、宜しくお願いします」
すっと手を出して来たのでそれを握り返し、ライトくんの照れくさそうな笑顔を見た。

多分あれが、最後にみた彼の無垢な笑顔だったような気がする。
次の日俺は神妙な面持ちで皆と分かれてスタジオ入りをし、途中で火口がやって来るとのことだったので絶対に顔を見られないように送迎車の中で大人しくしていた。
ライトくんと再会したのは、火口が死んだ後のことだった。



next.

タイトルのルーズは、「自由」「開放」だけど元のタイトルはルーズリーフで、……ノートとかけつつ、リーフは紅茶とか煙草を意味してたりしていなかったり。LooseLeafでダブルL→LとLightっていうシャレも……いや、無いです。
Aug. 2016

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