Loose.


09

ライトくんは帰って来るなり無事で良かった、と俺に笑いかけた。
俺はへらっと笑って皆おつかれさまですと労った。
皆が死神見えるよっていうからノートに触ってみたけど、本当にレムという死神が居たのでぶっちゃけ本気でびびった。グロ……。

ノートには変なルールがあって、それによりミサとライトくんの嫌疑は晴れた。ライトくんは監視はされないが捜査を続けると言い張り、ミサは監視を外れてここから退場の措置をとられた。
「じゃあ僕とミサが会う時は外でと言う事になるな」
「あっ、会いたいんですか?」
「———竜崎、あれだけ好きと言われ僕の為に命がけで捜査協力してくれた女性だぞ」
「命がけなのは松田さんもですけど」
「……」
「ぼくをそこに入れないで大丈夫ですしライトくんのためじゃないんで」
矛盾点をあおりたいのか、竜崎さんは俺の名前まで出す。
やっぱりあれは多分カモフラのためだったんだよう!
「ライトくんはミサを好きになったんだよね?」
「そうですね……今まで気づかなかったけど、……そうなのかもしれません」
本当にライトくんがミサを好きなのかは置いといて、否定するのもおかしいしどっちでもいいなって思ったのであえてその方向に賛同する。
「ミサが聞いたら喜ぶよ、おめでと!」
「おめでとうって……」
俺の祝福に、ライトくんは若干ひきつった笑みを浮かべた。

数日後、ノートを手に入れたは良いが結局キラへの足取りは見つかりそうになく、地道な捜査が始まった。とにかく人の死因を見て調べて合わせて比べる。ひいーと声を上げるといつのまにか本部に戻って来た相沢さんがそんな声を出すなと言われた。

ノートについて色々と話し合っている間に、俺はなんだか胸が痛くなって来た。
「……松田?どうした……息が荒いぞ……」
「はあ、は、いや、なんか……胸が痛くて……疲れてるのかも」
「!?」
相沢さんが俺の不調に気がついたので素直に言うと、皆過度な反応をしめした。あ、心臓麻痺じゃない、心臓麻痺じゃない。多分。
レムはいるし……、誰も何もしてないし……と思いながらレムを見ると目が合う。
「なんか、嫌な予感が……」
新たな犯罪者裁きが始まってからというものの、竜崎さんはやっぱりもう一度ミサを疑っているようだし、ライトくんもまだ白ではないという態度だった。
ノートを実践してみようという意見が出たあたりで胸が痛み始めたので、多分ただの緊張とか驚きなんだろうけど。
「ノートを使うなんて竜崎が言うから驚いたんだろう……?」
「そうじゃないんです、そりゃその発言は……やばいですけど、冷静に考えるとそうするのが一番良いです」
「松田さん……!」
ライトくんが遮るように俺の名前を呼ぶ。
「———ワタリ、条件にあてはまる各国首脳に」
「竜崎無茶だ待て!」
俺とライトくんを一瞥した竜崎さんは、モニタに向かってそう告げた。駄目だ、と言いかけたが声は出ない。何で駄目なんだかわからない。俺もその案しかないと思ったけど。ライトくんが俺の顔を覗き込み、顔色が悪いです……休んだ方が、と言って視界を遮ってしまう。
レムは、と視線をさまよわせたら、もうどこにも居なかった。
ぞっと背筋が凍る。
がしゃん、と言う物音がワタリさんのWが映るモニタの方から聞こえる。それから、全てのデータが消去されたというメッセージが表示された。
ようやくレムが居ないということになって皆が当たりを見回すと俺は自由になったので、竜崎さんの肩に触れた。
「まつださん……?」
「りゅ……」
竜崎さんは俺を見上げる。それから目を見開いてゆらりと倒れた。とっさに掴んだけど腕だけで支えられなくて、床に倒れてしまう。
「竜崎!?」
ライトくんが俺の代わりに竜崎さんを受け止めて頭を打たないようにはしていたけれど、もう遅い。彼の頭越しに、上手く息の出来ていない竜崎さんの愕然とした顔を見た。
今、ライトくんはどんな顔をしているのか。

見つめ合う二人をよそに、ライトくんの横から竜崎さんの顔に手を伸ばした。口元に指を這わせると、少し戦慄いている。
瞼を伏せて行く直前、竜崎さんがこっちを見た。閉じられて行く瞳に行かないでと懇願するように首を振ったが、Lと呼んだが、彼は息を引き取った。

殺される、とライトくんが言うので皆怯えた。けれど一向に誰も倒れる気配はない。さっきまで胸が痛かった俺は随分心配されたけど、そんなことはなく、竜崎さんに付き添って病院へ行った局長が戻ってくるまで殆ど会話をせずに項垂れていた。
「……竜崎は死んだ」
「くそっ……」
ライトくんは机を叩いて席を立ち、死神を捜し始めた。
俺は頭がぼんやりして、耳鳴りがするので煙草を吸って少し落ち着けないかと思ったが指先や唇が震えて、上手く火をつけられないし煙草を咥えていられなかった。

ほどなくして、白い砂を発見したとライトくんが報告をして来たので、俺も皆と一緒にそっちへ向かう。
「遺灰みたい……」
ぽつりと呟いて、砂を指ですりあわせた。
ライトくんは仇をうつと意気込んだ。俺はそれを聞いてゆっくり立ち上がり、そうだねと頷いて部屋を後にした。

その夜も、俺はこの建物で寝泊まりをした。もう亡くなってるのに悪いな、とは思うけどすぐに出て行く事は難しいし、ここが一番職場に近いのでしかたがない。
「今、良いですか?」
深夜に訪ねて来たのはやっぱりライトくんで、俺は頷いて彼を部屋に通す。
「どうしたの、こんな時間に」
「松田さんの様子が気になってしまって。すみません」
「ああ……ごめん、結構ショックだったみたい。情けないね」
前髪をくしゃりと握ると、ライトくんの手が制すように伸ばされて、腕をとられた。
指先を絡めとられ、掌を指の腹がくすぐるように滑って行く。
「松田さんは捜査をつづけるんですか?」
「なに?……邪魔?」
「そんなことはありません」
ここでは一番俺がポンコツなのは分かってたので、ライトくんの問いにショックは受けていない。
けれどライトくんは比較的明るめに笑った。ポンコツが居れば居る程嬉しいかな?
「でも、Lの居ない捜査本部ってなんだか変な感じだ」
「どうしてです?一応日本の捜査本部は最初Lがいなかったでしょうし、また警察に戻れるんでしょう?」
「それだけここは、竜崎さんの存在が大きかったんだと思う」
「たしかにそうですね。……でも、あなたが興味を持ってるのはLではなくてキラでしょう?」
腕をとられたままそう言われて、俺は初めてライトくんの目を見返した。
黒い目がこっちをじっと見ていて、端正な顔に表情はあまりない。
怒ってるのか、それとも、呆れているのか。
「そうだった……うん、だから俺は竜崎さんがいなくても捜査に残るよ」
「はい、———その言葉が、聞きたかったんです」
彼の手が伸びて来て、俺の顎をとらえる。
薄暗い部屋のなかで見る、少し怖い雰囲気のライトくんにのまれた俺は目を瞑ることすら出来ずに、魂を食われるようなキスを受け入れた。



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Aug. 2016

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