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粧裕ちゃんとノートの交換の為にアメリカに入り、つつがな〜くノートは奪われた。俺と相沢さんはNという新しい勢力SPKのトップが伝えた、メロという誘拐犯の恐れがある人物について調べる為に、イギリスのワイミーズハウスへ行った。
ロジャーさんという養護施設の責任者が俺達を出迎えてくれて、もうLもワタリもいないのだから良いだろう……とワイミーズハウスがLの後継者を育てる養護施設だったと語る。
俺はその話を聞いている最中に、外で聞こえる子供の声に耳をすませた。
「その中でも総合的にトップにいたのが、ニア。そしてメロが二番手だった」
「ニアと、メロ」
窓にやっていた視線をロジャーさんの方へ戻しながら復唱する。
なんとなく、記憶が呼び起こされそう。しかしそもそも、ちゃんと記憶していたわけではないので思い出すもくそもない。だめ、やっぱ知らん。新キャラ?
相沢さんはお礼をいいながらロジャーさんと別れようとしたが、俺はふと思い出して彼を見る。
「Mr.ロジャーは、Lにお会いした事がありますか?」
「いいや」
「ニアとメロも、Lには?」
彼はゆっくりと首を横に振った。別にLの思い出語りがしたいわけでもなかったが、久しぶりに本当のLの片鱗を生活の中で見つけて、感傷的になっていたのかもしれない。
たとえばこの孤児院で育ったとかは……ないか。Lの後継者を育てる為の施設なんだから。
でも一度遊びに来て子供と接していたとか思い出があったら良いのに。
結局そんなことはなくて、情報は得られたがLを感じることもなく、ワイミーズハウスを後にした。
「さびしいか、松田」
「え?」
ロンドンに戻る列車の中で言われて、眺めていた窓にうつる相沢さんを視界に入れた。
思わず振り向いて首を傾げると、相沢さんは前の座席に視線を戻す。
「お前は、竜崎と仲が良かっただろう」
「———はい……さびしいです」
「ああほんとうに、さびしいな」
相沢さんが同意までしてくれるもんだから、俺はちょっとだけ泣きそうになった。
次長に頼んで遺骨を分けてもらったが、それは今もペンダントの中に入れて首にぶら下がっている。基本スーツでネクタイをしているので誰にも見られないけど、一種のお守りだ。
Lがここにいるから、俺はずっとキラの捜査本部に居て、彼のように何か出来る訳でもないけどそれでもLの代わりに居ようという気持ちになる。
きっとキラを、Lと俺の目前に……。
「俺は結局大したこともできないと思いますが……でも最後までキラを探すことはやめないでいようと思います。何も、出来なくても、ただキラがその正体を暴かれるまでは絶対に、この姿勢は崩したくないです」
「そうだな」
小さな声で言っていた所為か、俺の声はすこし震えていた。
ニアとメロの似顔絵を見て、んーなんとなく見たような。という思いを抱きつつも結局だからどうしたって話で、俺はアメリカの拠点で捜査に参加するだけの日々を送る。
大きな事態といえば、アメリカの大統領から電話があったことかな。誘拐犯に脅されているらしく、それから逃れる為にライトくんに助けを求めた感じだ。
アジトの場所は分かってるって言ってるけど、多分はったりだろうなあと電話を聞いてる。ただしそれでアジトの場所が本当にわからないままで居る人じゃないのでどうにか見つけるんだろう。ミサの目とかを使って。
案の定ミサからの電話を受けて部屋を出て行くので、井出さんがこんな時に……とたしなめる。
「いいじゃないですか、別に今すぐやらなければならないこともあるんだし。恋人を優先するのが良い男って、ネ」
「———……、もう二日も徹夜ですし、突破口は見えましたしね」
俺が味方をすると、ライトくんは苦笑してから、皆も休んだ方が良いと言って部屋を出て行った。
「……休息も必要か……」
「まあさっきの大統領を味方につけるのは中々だったじゃないか……」
「休息できるんですかねえ、ミサと二人で」
「松田!!」
「え?ごめんなさい??」
ちょっと下ネタっぽかったかな……と思って相沢さんに素直に謝った。
しかし翌日のライトくんは普通に手がかりをつかんで来たので、やっぱりミサを使ったんだなあとお察しする。
「やっぱり休んでないんでしょう、ライトくん」
「松田さん」
疲れた顔はしてないけど、多分ちゃんと休んでいないのは本当だろう。皆はなんでここに突っ込まないのか不思議だ。ミサと会って来て情報を得てくるなんて変だ。まあ、ミサと会わずに調べものしてたといわれればお終いだけど。
それからのライトくんは頻繁に外に出て行く姿を見かけた。ミサと会ってる体でなんかいろいろやってんだろうな。
そんなことをしてたら今度は、新しいアジトを発見してくる。完全にここに怪しむ人は居ないとでも思ってんのか。
俺がライトくんを信じきってないことくらい分かってるはずなんだけど……それはあれかな、とるにたらない事だったかな。
Lごめん、俺ではプレッシャーすらかけられないようです……。
そっと胸に手を当てて心の中で謝罪した。
「松田さんって、時々ここを触る癖がありますよね」
たまたまライトくんと二人きりになったとき、そういえばと口を開いた彼は自分の胸をとん突きながら言った。
「前に、仮眠あけでシャツを緩めていた時に見たんですが、アクセサリーしてるんですか?」
「あ、うん」
今日も仮眠から戻って来た所だったけど、しっかり胸元は正して来たしペンダントを思うような仕草はしてなかったはずなので、ただ唐突に思い出しただけなのかもしれない。
「お守りというか……ペンダント」
「へえ、ペンダント」
伸びて来た手を見守っていると、ネクタイは容易く緩められた。
「な、なに?」
「大事そうにしているので、見てみたくて」
「なんでよー、お、お守りは他人が触ったら効力が無くなるんだよ?」
ぐぐぐ、とさりげなく力を込め合い攻防が繰り広げられる。お互い笑顔である。
「別に触りたいわけじゃありませんから」
「本当に見たいだけ?見たいだけ?」
「そう言ってるじゃないですか、なんか必死で気になっちゃうなあ」
なんで俺急にいじわるされてんだろう?と思いながら襟と首の隙間に親指を差し入れてチェーンを引っ張る。まさかそれでぐっと掴まれ、そのお守りの効力はもう無いとか言われるのかな。いやぶっちゃけお守りっていうか遺骨……形見みたいなもんだから、お守りの効力もクソもないけど。でもなんか、キラであろうライトくんには触れられたくない気もする。
「普通のペンダントですね……」
「珍しいデザインでもないよ」
「いや、結構珍しいですよね……何かを入れる所がついている。写真ではなくて、そう、たとえば遺骨とか」
「———……、よくわかったね」
さすがライトくん凄く賢い。下に蓋がついているのをあっさり見破った。そそくさとシャツの中にしまったのでもう触れられる事は無いけど、観念してLの遺骨をわけて貰ったと吐露した。
「ふうん……」
気づいたらソファに背中を押し付けられていた。というか、押し倒されていた。
ライトくんは下から見てもイケメンです……いやそんなこたあどうでも良いんだが。
胸を押しても彼はどく気配がないどころか、俺の首筋に顔を埋めて吸い付く。シャツを閉めた状態でやりやがったので、シャツの襟で隠せない所だ。俺はどうやって言い訳をしたらいいの!
「なにを……」
「酷いな、松田さん。僕の気持ちを知っていながら、竜崎のことばかり考えてるなんて」
「いやそんなに考えてな———」
口を塞がれたので言い訳は出来なくなる。
「き、気持ちもなにも……ライトくんミサと付き合ってるじゃん……」
なんとか顔を背けて喋る機会を得て、今まで思ってたけど言わなかった事をたたきつける。
「僕は彼女を恋人だと思った事もありませんけどね」
「あはは……ひでえ……」
引きつった笑いを零すが、マジで笑い事ではない。
ミサを捨てるための理由にされてるんじゃないかとさえ思えて来たが、どうだろう。
「ミサのことを好きになったのかもって言ってたのは、嘘だったの?」
「あれは……松田さんがあんなことをいうから……ああいうしか無かったんです」
「はい?」
俺何言ったっけ。多分ミサの事好きなんだろお前さん系のことは言った気もするが、それでも最初にミサに会うと仄めかしたのはライトくんだ。良き友人として、とでも言うつもりだったのか?ありえないよね、疑われてるんだから。
「俺の所為にするのは勝手だけど、それじゃあミサが可哀相だろ」
「———そうですね、そろそろ別れを切り出すつもりです」
先日の襲撃に失敗し、おそらくメロのところに死神が現れ、なおかつ顔だけで人を殺せることがわかった。だから、多分メディアに出ているミサの存在が邪魔なのかもしれない。
俺は濡れた首をおさえながらソファから起き上がり、やるせなさに打ち拉がれた。
ペンダントを握りそうになるけどそんな事をしたらまたライトくんが目聡く見つけてきそうだったのでなんとか堪えて、けれど首をおさえた指先をさりげなく襟の隙間にいれてチェーンの存在を確かめ、部屋を出た。
その後俺は井出さんと相沢さんに首をガン見され、顔を出したミサに思いっきり指摘をうけ、ぎくっと震える。絆創膏でも貼るべきだったか。いや、虫さされって顔をしておけば良いと思ったんだけど。
「やだマッツーえろい!キスマークばっちりじゃん!」
「ちが、ちがいますう、これはあれですう」
「なになに、誰につけられたの?」
普段はあんまり入り込んで来ないミサだけど、今日は俺をからかう為にわざわざソファの肘掛けに座って俺によりかかった。ライトくんは何も言わないし、皆も俺のこの首の正体が気になったのか、とがめる事は無い。
おまえの彼氏に付けられたんだよ!とは言えないので路地裏で襲われて命からがら逃げてきました……とヘタレな事を言うはめになった。
next.
シリアスもBLもどんどんぶっこみます。
Aug. 2016