12
次長は粧裕ちゃんを取り戻してから日本に帰り、家族と暮らしていた。警察自体は辞めておらず、次長兼、捜査本部長を担っているのが心の救いだ。そんな部長のもとには時々メロからの電話があるんだけど、今回初めてキラからの電話があった。
キラはノートを悪人に奪われたと言い、自分の持つノートを俺達のところへ届けると言った。そのノートと共に部長と日本で待機していた模木さんがアメリカへやって来て、全員が揃う。
「目の取引は、ぼくがすれば良いですか?」
「松田?何を言っている……!」
一応指揮官はライトくんなのでちらっと見たが、ライトくんもぎょっと驚いた顔をした。あれ、意外なんだ。それとも、演技かな。
俺の肩をぐっと掴んで首をふる次長に、へらった笑う。
「ぼくはこのくらいのことしかできませんし、ライトくんは失えないし、この中で一番寿命も長いでしょうから、まあ大丈夫でしょ」
「寿命が長ければ長い程引かれる年数も大きいだろう」
「でも短い人をさらに短くしてどうするんですか……?」
「究極の選択だな……」
相沢さんと井出さんが苦い顔をした。
キラの言いなりになって寿命を縮めるなんて、と井出さんは言うけれど、キラは奪われたのは日本捜査本部の責任だと言いたいんじゃないかと言うと、全員が黙り込んだ。
「キラは絶対に捕まえたい。そして皆でその瞬間に立ち会いましょう。宇生田さんと、ワタリさんと、竜崎さんを知るぼくたち全員欠ける事なく」
「松田……」
「だから一番長く生きられそうなぼくで良いんです。メロを捕まえるのはキラを捕まえる為の一歩じゃないですか?こんなところで迷ってる暇はないですよ!」
死神の前で立ち尽くす次長の傍までいく。レムもそうだったけど、死神ってやっぱデカいなあ。さ、次長どいて?って思ったが彼は一向にどかない。
「いや、目の取引は私がする」
さすがにライトくんも皆も止めたが、結局決意が変わらず、俺が何をいっても、ライトくんが何をいっても、固い決意は変わらなかった。こういうところは本当に尊敬してしまうが、やっぱり俺には出来ない刑事ってやつだなあと思う。
しかし襲撃はほとんど失敗という形に終わった。メロの本名を得ることはできたが誰も素顔をみることは出来ず、だからって撃つこともなく、爆発に便乗して逃げられた。
そして素顔を見た次長は、搬送先の病院で死亡した。
取り乱す彼に抱きついてなんとか落ち着かせようとすると、ライトくんは今度は次長ではなく俺にしがみついて泣いた。
俺がメロを殺せばよかったのか、それは分からない。次長を撃った男がノートを奪う為に拳銃を構えていて、その時はすぐに発砲したのに、メロに皆で銃を向けた時はそれに倣ってしまった。
ノートこそあるが、欠員のショックは大きく、ライトくんも少し調子が悪そうだった。
数日もすればアメリカのニュースで副大統領がキラに屈する発言をして問題になった。アメリカの総意としてとられるのだから、あんな決断を一人ですることないのに……。そう思ったけど、結論を出さなければならない立場でもあるんだろう。
日本は誰もそれを発言しないが、各々で賛成と反対は議論されていて、いずれ国はどちらか選択を迫られることになる。
その時は、日本と言う国がどうなるのか、俺には全く想像がつかない。
「キラなんて……いなければいいのに」
「松田?急にどうした」
「よく、わからなくなってきました」
相沢さんが心配そうにこっちを見る。ギブスをした腕で、俺の肩を掴んで顔を覗き込んだ。
「キラが悪なのか正義なのか」
「なんだって?」
「日本国民の刑事の立場から言うと、我々のルールに則らないで人を裁く者はみとめられません……キラは確実に人殺しです」
「そうに決まってるだろう」
井出さんが何をおかしなことを、と言いたげな顔をした。
「でも日本がアメリカみたいに結論を出してしまえば、キラは間違いなく国に認められたことになるんです」
「それを避けるために俺たちがいるんだろう?」
「そうですね。———俺、普通に平和に過ごしたい……キラなんて居なけりゃよかったのに……。悪も正義も考えなしにして、ただそう思ってしまうんです」
刑事としての意見ではなく、ただの俺の意見だけど、そう零した。
先輩達三人は沈痛な面持ちを浮かべて、ぽんぽんと頭をなでた。
いい年した男が情けなくてごめんなさい……。
皆に順番にぽんぽんされてふっきれた……わけでもないけど、ライトくんが真面目に語った後に今度は皆が神妙な顔になっちゃったので、俺は逆にやべっと思って場の空気を取り繕う。
話は終わったが、日本の状態を確認してみるとメディアがすごいことになっていた。
リュークという死神は、相変わらず俺達と一緒にホテルに滞在してりんごを食べている。
「あ……」
「ん?食いたいのか?」
大きな口で、むしゃむしゃりんごを豪快に食らうリューク。
はは、と笑いが零れてしまう。いや、笑うところじゃないんだけど。
「えるしっているか———」
「あ?」
「死神は、りんごしかたべない」
リュークを指さして、思い出した事を言っただけだった。でも皆があまりに驚いて、じっとこっちを見るから、今度は俺が驚く。
「懐かしいな、と思いまして」
「ああ……———懐かしいって、お前なあ……」
「あの時は本当なんだこれって思ったけど、これのことだったのかあ」
皆からため息を頂いた。
すみませんね、どうでも良い事ばっかり口にして。
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Lの痕跡はもちろん殆ど残ってないけど、不意打ちで思い出せた、ただそれだけの話です。
Aug. 2016