Loose.


13

メロから電話がかかって来た。模木さんか俺に電話が来るだろうと話をしていて、模木さんだといいなあって皆が言ってた所だった。
二代目Lとして俺の名前を言ってあるから違うだろう〜なんて言ってたけど、なんで俺なんだ。間違えたのかな?
「松田か?」
「……はい」
間違えてなかった俺だった。実際には本部の意向を言わせているだけ、という次長の言葉をそのまま受け取ったのか。ほぼ正解、一番のポンコツは俺です。
模木さんなら下手な事を喋らないだろう、と皆が言ってた手前なんか申し訳なく思う。ごめんなさいね、俺もなるべく喋らないようにするね。
一人か?と聞かれていいえと答えながら席を立つ。結局電話は聞かれているので部屋を出ても意味が無いんだけど、電話を聞きながら皆がお話し合いを出来るように少し距離をとった。
俺に会いに来いよ……NYへ……!とロックバンドの誘い文句みたいなのを聞いて少し考え込む。
しかしメロがすぐに返事をしろというので、行きますと答えた。それからコートを羽織ってメロの指示通りの場所へ向かう。

俺が案内されたのはニアのアジトだった。
白い頭の子供が居る。
「こんにちははじめまして、ニアです」
「……」
背中を向けられているので顔は見えないけど、彼はあっさり動いて顔を見せた。日本の捜査本部とも、メロとも繋がっている状態なので、俺はもう何を言われても口を割らない方が良さそうな気がしてきた。シャツを少し肌からはなすふりをしながら、そっとペンダントを握る。
ニアが最終的にキラを捕まえるのかと思っていたが、メロと組んでいるようなので今彼の味方を出来そうには無い。
「松田さん、でしたね」
協力しろ、イエスかノーだけでも良いと言われると何も出来ない。少しでも首を動かしてしまえば動揺を誘われる。俺は目を瞑ってメロとニアの頭の良い会話をなるべく聞かないようにした。

キラを捕まえる組織にいながら、俺は興味本位でここに居るとLに言ったことを思い出す。
そしてライトくんがキラなのかそうでないのか、未だにまだ自分で答えは口に出来ないでいる。頭では、キラだと思ってる。でもそう思いたくないと否定し続けていた。
それなのに俺はいつか、物語の通りにキラはかならず捕まるという可能性だけは確信していて、ニアだろうがメロだろうが、新たな組織だろうが日本捜査本部だろうが、誰でも良いくらいに思っている。
俺の目的はキラを捕まえることではない。もちろん、正体を暴きたい捕まえたいという気持ちはあるんだけど、今の現状に合わせた、自分に最も納得がいく答えは、最後まで見ていること。だから口は割らない、これから何をいわれようとも。
二日間まるまる耐えて、三日目になると、もう声を出さないようにとか思わなくても声が出なくなって来た気がする。声でるかなあ、と試したら台無しなので敢えてそれも我慢した。
しかし驚いた事に、三日目はニアのアジトを襲撃する人間が現れた。
ライトくん俺も殺す気だな?やっぱりもう信じねー!信じねーでよかった!

レスター指揮官と呼ばれたごっつい男の人に連れられて逃げるのを手伝ってもらって、思わずときめきかけた。いや、俺は重要参考人ですし。キラ……というかライトくんに殺されかけたってことで俺の気持ちも緩んでたっていうか。
三日間ほとんど動いてなくて碌に眠ってもいないので体力はほとんどなく、ふうふうと疲れて息を吐いている俺にタオルを差し出してくれたリドナーさんも、水をのませてくれたジェバンニさんも元はと言えば正義の人なわけで……。早くお迎えに来てくれないと俺こっちに懐きそうです。
ところがどっこい、俺はまたしても死んだ事にされた。
俺は一度死んだってことになって相沢さんと井出さんにやたらと怒られたんだぞ。理不尽にな。
松田死んだ死んだ詐欺やめろ、二番煎じだよ、って言いそうになった。軟禁されてから一番危なかった。情報は吐かないけどくだらない事は言う可能性高いの、俺って。
「ネクタイを緩めるぞ、ボタンも少しあける」
レスター指揮官の細やかな配慮に感謝しつつ、うわあペンダント見えるなあとちょっと遠い目をする。俯いたらボタンが開けにくいだろうから上をむくしかない。
腕を後ろで縛られる体勢って結構窮屈だな、当然だけど。
「これは……中に物が入れられるタイプだが……」
「機械反応はありませんでした……ただのシルバーかと」
「これ、遺骨入れじゃない?」
三人がよってたかって俺のペンダントを確認した。俺はそれでも、うんともすんとも言わない。
「恋人か……家族のかしら」
頷いても問題ないものだけど、それでも反応を示したということできっかけにされてはたまらない。
それから数時間後、相沢さんから電話がありニアはあっさり俺が生きていることを告げ、受話器を耳元にあてられた。
「———松田です」
ちょっと掠れたので喉を何度かならす。
「松田、俺も今からそっちに行く。そしてまず話を聞き、こちらが話せる事を話そうと考えている」
「……ぼくもそれが良いと思います」
「喋れたんですね、松田さん」
受話器がそのまま離れて行くので、喋れますよと答えた。まだ情報は漏らしてはいけないと思うが、だとしても喋らないでいる必要も感じないので、ニアの方を見た。
「ここに来る前に丁度、メロから連絡があるとしたら松田か模木だろう……模木だといいな、忍耐力有るしな……って言われてたので、————絶対しゃべるもんかと」
ふへっと笑うと、皆それぞれしょっぱい顔をした。ニアは無表情だったけど。
喋らない方がイメージよかったみたい。知ってた。
数時間後、相沢さんがやってきたのを確認させられて、その後感動の対面をはたした。
といっても、今は目に何かを付けているので声だけでしか俺を確認できないようだけど。

俺も喋って良い状態になったとはいえ、基本的には先輩に情報選別を任せて口を閉じておく。あのう、そろそろ俺は腕を外してもらえても良いんじゃなかろうか。
相沢さんの話が長くなりはじめると、俺はそっと腕を外してもらえたのでレスター指揮官ににこっと笑って会釈をする。彼も少し苦笑して肩を叩いたので多分労ってくれたんだと思う。やだ男前。
俺達は……結局俺はなんも喋ってないけど、……喋るだけ喋ってお礼を言われて帰らされる事になった。
新たな電話番号を得たけど、まあ俺は基本自発的には動かないだろう。
自由になった手でペンダントを正し、襟のボタンを閉めてネクタイをを直した。
「———やけに大事そうにしていますね、それ」
去り際にニアがゆっくりと振り向きながら、俺を見る。
「大事なものです」
俺は胸に手を当てて彼を見て笑った。



next.
最初は模木さん成り代わりにしようかとも考えてたんですけど、ポジション的には松田さんがよくってだな(言い訳)
Aug. 2016

PAGE TOP