Loose.


14

出目川ディレクターがやっているキラ王国は、出目川ディレクターの死によって打ち切りになり事態は変わった。
うん?第三のキラ的なのがいるんだっけ。あーこの辺複雑で全然わかんないんだよなあ。
出目川ディレクターの死後は世界中のテレビ局がキラの争奪戦のように番組を始めた。
「とんでもないなあ……」
「まったくだ」
伊出さんが眉を顰めて俺の言葉に同意した。
ライトくんなんか冷静な意見という体で、「Lへの支援者は減り世界はキラの思い通りに動いていると認めざるを得ない」なんて言ってるし。俺は若干引きつった顔をしながらモニタにうつる複数のCM映像を眺めた。

相沢さんと一緒に本部に戻って来てから、俺はライトくんの監視役というものを任されつつある。よかったね、俺が監視役で。
相沢さんもなるべく一緒に居るが、模木さんがミサの監視をやっているみたいなのでそっちとの打ち合わせもある時は俺一人に任される。伊出さんもいるが、別室で作業する事があるとライトくんと二人きりになる。そういう場面は多々めぐってきた。
あくまで監視なので揺さぶりをかけたりとか、話を引き出そうとかはする必要はないんだけど、ライトくんは俺と二人になるとわりとくだらない話題も振って来る。
こうしていると普通の人に見えるので、俺はなんだか単純にほっとしてしまう。
この間も普通に、日本に帰ったら食べたいものを二人でリストアップしたし、お好み焼き屋さんなんかはヒートアップしておすすめのお店を教え合い、なおかつ好きな具材の話まで発展した。戻ったら食べに行きましょう、とあまりに簡単に誘うからすぐに頷いた覚えがある。
寝る前になって、二人で普通にお好み焼き屋さんに行ける日なんてくるのか?とようやく思い至るくらいに俺は単純だった。

ライトくんが普通すぎて困る。
模木さんと偶然一緒になったのでそう零したら、ちょっと労るような眼差しを受けた。
「大丈夫か?」
「……ぼくが監視したって、ライトくんは油断しないと思うんですけど」
「監視が抑制力になるのは事実だろう」
そういわれちゃ頷くしか無い。
———本当に困っちゃうなあ……。
のんでいた缶コーヒーをゴミ箱に入れてから、同じく監視に徹している模木さんとお互いにがんばりましょーと言って別れる。
本部へ行くと伊出さんとライトくんが出てくる前と殆ど変わらない体勢のまま仕事をしていて、俺はのんびりとお疲れさまでえすと声をかけた。
俺と伊出さんはライトくんの背後でノートパソコンに向き合って仕事をしていたが、三十分後には相沢さんが戻って来て、伊出さんとやらなきゃいけないことがあるとかいって出て行った。そして俺はまたしてもライトくんと二人きりにされた。
勝手に気まずさでそわそわして耐えきれなくなったので、煙草と一人ごちホテルのベランダに出る。
窓ガラスの向こうにいるだけなので一応目を離した事にはならないだろう。
あ〜しみる〜、と煙を吸い込んでいると、ライトくんが窓の向こうでこんこんとガラスを叩いた。俺と目が合うと、ゆっくりと窓を開けてにこっと笑う。
「ご一緒しても良いですか?」
「え、煙草を?」
箱を向けると、それは断られた。
「一緒に居ても、良いですか?」
「……どーぞ?」
とりあえず笑顔で煙草を持つ手をかえてライトくんから離した。
「目が疲れちゃって」
「そりゃそうだよなあ……寝て来たら?たまには家に帰ったって良いと思うし……皆も止めはしないんじゃない」
「止めないだろうけど、疑われる行動は控えるべきでしょう。それに僕は別に家に帰らなくても眠れますから」
「そういうこっちゃないけど」
家には一応婚約者がいるんじゃないの……という眼差しを向けると、ライトくんは困ったような顔をする。
「———ミサは違うと言ってるじゃないですか」
「すいません」
家に帰ってはいないけど、結局一緒に住んでるようなもんじゃん。
そう思いつつも素直に謝っておく。
両の手をあげて降参するようにして、わざとらしいポーズで肩をすくめた。ベランダの柵に肘をついて少し俯くライトくんは肩越しにこっちを見る。ちょっと恨めしい顔だ。
「怒った?」
「いいえ、別に。松田さんが僕の事を本気にしていないのも、考えられないのも承知していますから」
「あはは」
俺も同じようにライトくんの横で柵に寄りかかる。
視界に煙がふわりと映り込み、思い出したように煙草を咥えて吸うと、俺の肘をライトくんがそっと掴んで注意を引いた。
口から離した煙草を外側へやりながら顔を向けたら頬を支えられ、これはまさかと目を見開く。ま、毎度固まる俺じゃなくってよ。
顔に煙を吐きかけると、ライトくんは反射的に目を伏せて少し距離をとった。
「……ベッドルームに行きます?」
「普通に触るなって意味だよ馬鹿」
顔を顰めつつも笑うライトくんの頭を、軽くぐりぐりした。
煙草をぐしゃぐしゃにして火を消しながら、携帯灰皿の中にぽとりと落っことして部屋に戻ると、ライトくんはにこにこしながら俺の後についてきた。閉め出してやればよかったかな。いや、相沢さん達が帰って来たら何やってんだって怒られるからやらなくて正解だけど。



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害のないライトくん(外面良好)に困惑する。
漫画読んでる立場だとすっごい悪役面さらしてくれるから良いけど、リアルだと全然そう見えないから困るんですよね。
Sep. 2016

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