Loose.


15

「あ、タッキィだ」
日本での情報を確認する担当の俺は、日本でキラの声を発信する代弁者が人気のアナウンサーに決まった事で思わず声を上げた。今まで気にしていなかったけど、この人たしかライトくんと一緒に歩いていた人だ。
「どうした、松田」
「新しいキラの代弁者が決まったみたいですよ」
「それがタッキィ?」
模木さんと竜崎さんくらいしか知らないだろうし、俺も一度顔を見ただけだから記憶も曖昧なので特に言わないが、ライトくんは何も口にする事は無い。
珍しく全員が本部に居たので、模木さんと一瞬だけ目を合わせたが、すぐに二人で抜け出して会話をするのは変だから目を伏せて視線をそらした。

模木さんが最初に声を掛けたのは相沢さんのほうだった。まあ当然だけど。
二人は買い物に行くと外へ出ていき、俺達に後を頼むと言う。
けれど数分程経ってから、俺の携帯に電話がかかって来た。それは模木さんの方からの電話だったけど多分呼び出したのは相沢さんの指示だろう。数分で良いので抜けて来られないかと問われてとりあえず頷く。
「相沢さんがお財布忘れて来たそうなのでいってきまーす」
もはや何故呼び出されてるのかも分かっているだろうから、てきとうな理由をつけて外に出てきた。
「松田、ライトくんと恋人関係にあるというのは事実か?」
「は!?」
到着するなり俺は単刀直入に聞かれて目ん玉をひんむく。
「ないですないです、模木さんが言ったんですか?」
「い、いや……」
まごつく模木さんだけど、どう報告したんですかね。
「お付き合いしてるわけじゃないです……ただ、時々口説かれるくらいで」
「口説っ……!?……っ、おまえ……」
肩をすくめて素直に報告すると、相沢さんは絶句する。
「ライトくんはミサと繋がりを持つ前後に色々な女の子達と親しくしてましたよね、あれと同時期のことです。だから……俺の事も……カモフラージュにしてるのかと」
「うむ、……そうか……しかしなんで松田なんだ?」
「一番味方につけやすそうとか」
「それならわざわざ、告白までする必要は無いだろう」
「知りませんよう」
捜査本部の人には俺に思いを寄せているのを隠す為のカモフラージュとして女の子に接近している、と勘違いしてほしいのかもしれないし。よくわかんないので手をあげて降参ポーズをとったら俺の携帯に今度はライトくんから着信がある。
「松田さん、まだ相沢さんと模木さんと別れていませんか?」
「はい」
「これから捜査について大事な話が有ります、なるべく早く戻って来てくれるように伝えてください」
「———だそうです」
二人にもライトくんの言葉を伝えると、買い出しは後にすると言って三人でエレベーターに乗った。

俺達は捜査拠点を日本に戻すことになった。
飛行機に乗るのは普通ライトくんと相沢さんかなって思ってたんだけど、ライトくんはしれっと俺を指名した。
「え、俺?」
「はい、何か問題が有りますか?」
もともと俺が一番ライトくんの監視を任されていたこともあって、ライトくんが俺を選ぶのはおかしなことじゃない。というか、ライトくんが選ぶとすれば俺で間違いないのかもしれない。ただし全員が揃った場合相沢さんが一番の古株になるので、組み合わせ的にはライトくんと相沢さんが行動を共にするのが相応しいような気がする。
特に目立った行動をする必要がない俺と伊出さんなんかが一緒でも良いし。
「ない、です」
問題あるよう!と言えるわけがないので頷いた。
相沢さんは俺達の微妙な関係を聞いておきながら助け舟を出して来る気配はないし、肩をぽんと叩いて、よしじゃあすぐにチケットを手配しよう、と言うだけだ。

「———僕と二人は不満ですか?」
「二人じゃないじゃん」
「死神は人に数えませんよ」
空港は人でごった返しているけど、死神がいるのでライトくんとはぐれる心配は無さそうだった。ちらりと彼の後ろの怖い顔を見ると、裂けた口はいつも通り笑っているように見えた。
「別に不満じゃないよ……ただ、俺を選ぶと思わなかったから」
「どうせ飛行機の中で何をするってこともないんですから、僕は一緒に居たい人を選んだだけです」
あはは、と笑うので俺も同じように笑う。
ちょっと気障というか、ふざけた感じで俺の背中を一度叩いたライトくんは搭乗口の方へ足を踏み出し、俺はそれに続いた。
飛行機の中では極々普通に過ごした。荷物をしまおうかとか、飲み物頼もうかとか、細やかな気遣いをしていただいた上にちょっとだけ会話をした後は、眠かったら寝てくださいと気を使われ、俺はあっさり寝た。目を覚ますとライトくんも眠っているところで、そういえば初めて眠っている所を見たかもしれないなあと思う。
俺の方に首を傾けているので端正な寝顔が伺える。
長めの前髪を少し撫でてみるが、耳にかけるほどでもなく、いたずらに頬をくすぐることになってしまいライトくんの睫毛が震えた。
周りの人もほとんど眠っている時間帯で、飛行機の音と微かな寝息、それからわずかな人の声が聞こえる。
「ん……?」
「ごめん、おこした?」
「いま……何時、……」
目を開けたライトくんに謝ると、眠たそうに目を何度か瞬きさせていた。
寝ぼけているのか、小さな声でうとうとしながら時間を聞いて来るのでアメリカの時間を答えると瞬時に日本時間を計算して呟いた。
「まだ四時間近くあるから、もう一度寝たら?」
「はい」
背もたれに米神を擦り付けてきゅっと目を瞑ったライトくんに、こっそり苦笑を零した。
俺は暇だったので映画を見ながら過ごし、いつの間にかまた眠って起きたらライトくんがすっかり目を覚ましていて、飲み物は頼みますかと聞いてくるので寝ぼけ眼のまま頷いた。

日本に到着した俺たちはまずコーヒーを買って一休みをした。ライトくんはコーヒーを片手に携帯を操作し、喫煙スペースの傍で隠す事無く高田さんに連絡をとった。
俺は煙を吸い込みながら、リュークがじーっとライトくんを見ている光景を観察する。話の内容も聞こえて来るが、なんというかすごい……調子の良い男だなあと思ってしまった。こんなんで良いのか……タッキィ、ミサ、———そして俺。
いや俺の場合は、こんなんばっか見てるからライトくんを信じてないんだけど。
「うわきもの」
電話を切ったあとの彼に近づきながらからかうように言うと、きょとんと目を見開いてから口元をおさえて笑った。
……別に俺は彼女面して言ったわけじゃないです。



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うわきもの(ハート)
Sep. 2016

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