18
「すみません、松田さんがあまりにも僕を信じてくれないので、ムキになりました」退いてくれたライトくんにつられて俺も身体を少し起こす。
「ミサや高田さんだけじゃなくて、俺はライトくんの過去の女関係も知ってるしなあ…」
アハハと笑い飛ばすと、あれは若気の至りとか高田さんのは捜査の為とか色々言い訳をしてくれた。そういえば前はミサから情報を引き出す為に仲良くは出来ないと言ってたわりに、高田さんとはほぼ100パー捜査の為に会ってたよなあ。まあ、オトナになったってことで、突っ込むつもりはないんだけど。
「そもそも、松田さんは彼女たちとは違うじゃないですか」
「へえ?」
「考えてみてくださいよ、僕があなたを口説くメリットを上げてください」
「ねーよ」
「そうですよ、ないのに口説いてるんです」
きっと見つめられて、うひっと肩をすくめた。俺達はなんちゅう話をしてるんだろう。
起き上がってベッドに座った俺の隣に、ライトくんも座る。
「そりゃ失礼しました、でも公私混同はよく無いんじゃない」
「すみません」
今度はライトくんが肩をすくめて謝った。
「———四年前、言ってましたよね」
「ん?」
ライトくんはベッドから立ち上がる。
俺も彼を送り出す為に立ち、首を傾げた。
「今は何も考えられないからって。もちろんまだ事件は終わっていないので考えられなくていいと思います。———でも、全て終わったら、考えてくれるんですよね」
ドアの前で、端正な顔が期待するようにこっちを見た。
「そうだね」
顔を傾け、考えているような頷いているような、曖昧な返事をして笑う。ライトくんはほんのわずかに目を見開いたけど、口を結んでふんと息を吐く。
「なら、少しは行動で示してくれても良いと思いませんか」
俺はライトくんがキラだと知っている。そしてライトくんはその事を知っている。
彼にとって俺は早いうちから傍観者ということになっていて、味方ではないが敵でもない存在なんだと思う。殺すか殺さないかという考えすら抱かないのか、それともずっと見ていたなら当然自分のしもべになるべきと考えているのか。
とにかくニアとの会合の日、俺が来る事が彼にとって不都合なのだ。
言葉にしないまでも、彼の言いたい事をなんとなく察してしまう。そして、それに従うのが最良なんだろうと思った。
でも俺は、キラの行く末を見るだけの、———中立にみせかけてどこかキラよりの———傍観者なんかじゃない。
Lの遺志を継ぐと言ったらおかしいけど、キラが失脚するであろう俺の知る未来まで、立っていようという決意があった。
でも、今この世で最も重要な人物の願いから、避けられる気がしなかった。俺の存在が困ると言うなら俺は如何にしてでもあの場所へ連れて行ってもらえないような、そんな気がする。
わかった言う通りにするよ、と言いたくなかった。
彼の胸ぐらを掴んで引っ張るのが、俺のせめてできる行動で……、その後ライトくんの指示に従い捜査本部から離脱した。
ライトくんが俺を急に外すと言ったときの皆の顔はすごかった。
俺が既にノートに名前を書き込まれていて、操られているのかもしれないと思っただろう。俺もそうかもしれないと思えて来た。
彼らは結局、ニアに監視以外の事をするなと言われているためにライトくんに言募ることも、俺を引き止めることもしなかった。そのかわり、多分相沢さんがニアに報告はするのだろう。
ほっぽり出された俺の身柄をニアに委ねるのはライトくんの本意ではないので、俺が身を隠すべき場所は指示されている。
でも俺はライトくんに従うつもりで離脱したわけじゃない。ライトくんが俺を連れて行かないと言うなら自力で行くし、ニアにだって自発的に連絡をとるつもりだった。
少し、不安だ。
俺はライトくんに操られていないんだろうか。
操られていないとしてもニアが信じてくれるのか。
もとよりニアの望みは全員が集まることなのだから、連れて行ってはくれるかもしれない。
———大丈夫、俺は操られてなんかいない。
言い聞かせるように頷き、ペンダントを握る。
縋るように公衆電話の受話器をとった。
電話に出たのはジェバンニさんだった。
「お忙しいところすみません、松田です」
「ミスター松田?どうなさいました」
「Lの監視が困難になったので、連絡をしました」
自分で言ってて情けなくなってきた。
ジェバンニさんは数秒何かを言いかけるような間をつくってから、違う電話番号を教えてくれた。多分ニアか、他の人に繋がるんだと思う。俺は咄嗟に覚えてすぐにかけ直す。
受話器からは、声変わりが終わっておらず子供の色が残る、ニアの声がした。もう一度情けない理由を伝えると、何故と問われた。
「俺にだって、わかんないよ」
自棄になって素で答える。
どうせニアは子供だし、畏まる必要ってなかったかも。
なんだかんだ、竜崎さんにだって俺、適当に話してたっけな。
レスター指揮官が俺の身柄を拘束した。前のように口をおさえて椅子に縛り付ける程ではなかったけれど、自殺できないようにされている。まあそんな事してても、キラなら心臓麻痺で俺のことは殺せるのだけど。いや、心臓麻痺なんてさせたらライトくんがキラだって言ってるようなもんか。
とにかく俺は倉庫にも同行することになった。
「どういう流れであなたが捜査本部から外れる事になったのか、ミスター相沢から伺いました」
「はあ」
「けれど、私はあなたの口から聞きたい」
話せばながくなるんだけどなあ。
まずは俺が刑事になった理由から話すことになる。おもちゃをいじくって遊びながら、あまり興味無さそうに聞いているので俺も手短にまとめた。要は、刑事たる正義感などは持ち合わせていないってことが伝われば良い。いや、人並みにはあるんだけど。
次に話したのは、Lやライトくんに以前言ったような話だ。キラに妙な興味を覚えたという漠然とした勘、関心があるから捜査本部へ残ったこと、などなど。
「つまり興味があった———と」
ニアが食い付いた。え、よりによってそこ?
「立派な信念が無くて申し訳ないけど……でも命はかけてた、つもり」
「侮蔑しているわけではありませんので悪しからず」
「そう?」
肩をすくめて笑ってみせたけど、ニアの表情は変わらない。目線はまた、おもちゃにもどされた。
「俺は早いうちから、ライトくんを疑ってた」
「それも勘ですか?」
「———……疑っていたというか、信じられなかったのかな」
理由については言えないので、微笑んではぐらかしてから言い直す。
後になって分かったことだけどライトくんが人を殺す瞬間を見たと思う、と美空ナオミさんの背中を思い出しながら零す。
「———段々、どう考えてもライトくんを中心に事件は起こっている気がして来た。ヨツバの件はともかく」
「そうですね、あれだけあって他の捜査員たちが夜神月を疑わなかったというのはおかしな話です」
ジト目を向けられたが、長い事ライトくんは信頼されてたのでニアとは目を合わせられない。俺がこっそりと、竜崎さんはがっつりと、彼を疑ってはいたけど、俺は何も言わなかったし竜崎さんの推理力や考え方に追いつく人はいなくて、誰も理解してなかった。
実際ライトくんはよく隠していた。
頭のレベルが同等ではないと気づけない。
俺が違和感を感じたのは、妙な記憶とやらがあって、先入観があるせいだ。
「まあ、彼も相当頭が良いんだ」
「それは認めます」
「ありがとう」
「あなたが礼を言うのはおかしな話ですね」
「たしかに」
そっと肩をすくめた。
別にライトくんが褒められたから礼を言ってるというよりは、皆が気づけなかったのは普通の人だからしょうがないってことを多少ニアに理解していただけてなによりって意味だけど。
next.
原作からぬるりと逸れます。
女装する理由のように、どこか諦めつつも決めつけてるところがあるので、ライトくんの意志は世界の意志的な思いが若干ある主人公です。
Oct. 2016