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「つまりあなたは、どっちつかずの中立の振りして、キラ側」レスター指揮官とリドナーさんの目が険しくなった。おっと、今俺は人知れず消されようとしている?
「———夜神月はそう、判断したんですね」
間を作るなよ。
ちょっと立ち上がりかけていたリドナーさんが腰を落ち着けたのでほっとする。
実際にそうかもっていう可能性も捨てきれないから拘束してる訳だ。
ボディチェックはされてるのでノートを隠し持っては居ないし、当日だって俺の手は縛ってくれて構わないと言ってある。しないそうだけど。
どうやらニアには自信があるようだ。
ライトくんも自信満々で俺を『待機』させてるわけだが。
俺への尋問はいつの間にか終わっていて、レスター指揮官やリドナーさんへの応対に入っている。二人は当然、まだ俺の処遇を決めかねている。いやでも、ニアが決定しちゃってるじゃん。
納得できないから抗議するし、納得いく説明を求めてる。これぞ捜査員の鑑。
俺は基本的にぽやぽやっとしてて、ぴよぴよ人の後についてってたからな。駄目だな、直さないとな。
「ニア、彼がキラ側ではないというのか?」
「はい」
意外にもきっぱりと言われた。
「ミスター松田に確固たる決意や信念はありませんが、彼は最初から刑事として日本捜査本部側にいます」
リドナーさんは何かを言い淀む。それも振りなのでは、と言いたいんだろう。
「キラ側になるのは、キラが勝利した場合です」
KIRAと書かれた指人形を掲げて、指をさす。あ、すごくブス。
「勝った方につく、ということか?」
「そうです。彼は極々普通の人間———民衆代表とでも思ってください」
ああ、なんかすみません、意志の弱そうな感じで。
「しかしそれはあくまで、彼の普通の性格ということです。そもそもミスター松田はほとんど最初から、夜神月を信じていない」
「……いや、しかしキラだとわかっていて何もしなかったのだろう?」
「何もしないのが正解です。確たる証拠はないのですから」
ちらりと見られたので、小さく頷いた。
美空ナオミさんとライトくんが会っていた可能性が高いことは竜崎さんに報告してある。けれどライトくんをキラだと断定する理由の極々一部としかならないし、キラに突きつける証拠は確固たるものでなければならないと分かっていたから、俺は余計な事は言わずに従っていた……ってことになってるだろう。似たようなものだけど、正直な話俺が出来るこたあねーなと諦めてたのが本音だ。
「言ったでしょう、レスター指揮官」
「は?」
「彼はキラが勝たねば寝返ることはないと」
つまり、我々が勝ちますのでありえない未来です、とニアは言った。
俺を信じてるわけじゃないんだけど、二人はニアの言葉を信じて頷いてくれた。
当日の朝からリドナーさんは模木さんとミサを回収しに外出し、ジェバンニさんは相変わらず魅上の監視をしている。
俺は普通に一睡もできてないが、眠気はない。まあ緊張して眠れていないんだからしょうがないんだけど。
ニアは俺が居るのもお構いなしにぐうぐうと寝てたっけ。
レスター指揮官は当然のように起きて俺を見張ってたので本当おつかれさまである。
ミサをホテルにおいたあと、模木さんをつれたリドナーさんが戻って来た。
「松田?どうしてここに……」
驚きを隠せないでいる模木さんに、俺は苦笑する。
「ミスター松田は、Lに日本捜査本部を追い出されたそうです」
「追い……?……」
寡黙な彼は戸惑っても余計な口を開かないらしい。すごい。
縛られてる為完全にニアに寝返った風にも見えないので、模木さんは労るようにこっちを見た。
すぐにジェバンニさんが合流して、全員が揃った形になり俺と模木さんは会話をすることもなく一緒に目的地である倉庫へ向かった。
先に来た俺達は倉庫の中に入る。ニアは車から降りる前にすでに不細工なお面を着けていた。
俺はもう拘束を逃れていたので、まるでSPKの一員のように模木さんと並ぶ。相沢さんが一人で中を確認しに来ると、彼はほっとしたように俺を見て微笑んだ。
「無事だったのか……松田」
「……はい」
操られている勘ぐりをされてるのは分かってたけど、身を案じてくれていたらしい。俺もちょっとほっとして笑う。
程なくしてライトくんと伊出さんがやってきて、彼らもまた俺の姿に反応した。
「松田……SPKの方にいたのか」
伊出さんは納得したようだけど、ライトくんは何も言わない。
ほとんど表情も無く、俺と視線を合わせようともしなかった。
「捜査本部を出たあと、すぐに自分からニアに連絡をとりました」
ライトくんはゆっくりと俺をみた。表情は作らないけど、なんとなく責められているような、諦められているような、冷めた感じがする。
ライトくんを裏切ったようなものなのでしょうがないか。
今度は俺が彼を見ていられなくなり視線をおとした。
手持ち無沙汰だったので、地面に座ったニアの頭部を眺めてみる。
それから30分ほど、ニアが誰も操られていないか確認する為の時間が設けられた。誰一人口を開く事は無かった。
「ミスター相沢、高田が死んでからもずっとLを見張ってくれてましたね?」
「ああ」
「ならば必ず来ます、キラは高田をXキラとのコンタクトにつかっていた」
ライトくんを見張っていたのは主に俺だったような気もするが、基本的には相沢さんもライトくんのそばにいたっけ。ただし俺と二人にすることもなくはなかった。
相沢さんにとっても俺は見張りに足る人物というわけで、だからこそ頷いたのかもしれない。
俺が監視していたときでも、ライトくんはキラであるそぶりは全く見せなかったので、見張り役を出来ていたと思う。だから俺は補足を入れないでおいた。
ニアが言うには、これからここにXキラ、魅上がやってくるという。
「なぜ、そうまでLをキラと決めつけてるんだ?大体第三者がここに来るならニア、あなたが仕組んだ可能性の方があるんじゃないか?」
「いえ、来るのは現在キラに代わってキラの裁きをしている者です。キラの指示でくるのに決まってるじゃないですか」
その言いっぷり、凄く自分ルールだな。
「ノートを持ってやってきて、ぼくたち全員の名前を書くってことですか?」
俺はふと思い至って口を開いた。
「そうです。それがキラにとっての完全であり、キラがこれに乗って来た目的です。そこに名前が書かれていない者がキラ。そしてミスター松田がキラの仲間かどうかは、その時わかります」
俺がキラの仲間であったなら魅上に前もって何かを伝えたりするだろう。もしかしたら名前を書かない、ということもできるかもしれない。
おそらく、ライトくんが俺を倉庫に来ないように取り計らったってことは、俺の名前を書くなって指示はできなかったはずで、俺は魅上とコンタクトをとってないので当然名前は書かれる。
「ぼくは、ニアの自信に懸けてみます」
ライトくんの方を見ながら、胸に手を当てた。
ライトくんはほんの少しだけ俺の顔を見てからニアの方を見た。
気に食わないんだろうな。
倉庫に来るなと言われたときは突き放されたと同時に、彼が俺を生かそうとしているのが分かった。実際言う通りにすれば俺は死なないだろう。
でも来てしまった。それはライトくんを裏切ったことにもなる。少なからず俺に気持ちを抱いていたとしても彼の中で俺の死は決定事項となった。———そんなものだ。
next.
ライトくんは松田を殺さないようにしつつも殺せる。キラだから。
Oct. 2016