02
クロウカードを全部集め終わったと思ったら今度は審判者月さんが出て来た。雪兎さんってのはほんのり知ってたけど、性格違いすぎるだろ……。 あんなほわほわしててお父さんに似てる優しい人が、今度は冷たいまなざしで俺を見て来る。ああ……なんかちょっとハートえぐられる。さくらちゃんショックだったんじゃないかな。あ、でもヒロインの心は宇宙よりも広い筈だから、動じはしてもすぐ受け入れちゃうか。俺の力はやっぱり月さんには遠く及ばなかったんだけど、クロウさんはそれもお見通しだったらしく俺にお助けお姉さんをよこしてくれた。観月先生は杖をパワーアップさせてくれて、もともと可愛らしいデザインだったのをまたも可愛らしい星モチーフにしてくれた。あの、もうちょっと男の子向けにしてもらってもいいかな?だめ?
「主だなんて思わなくて良いよ、その方が気ぃ楽だし」
杖が新しくなった途端、風のカードにおされた月さんに俺はへらっと笑った。
最初から審判なんて意味がないんじゃないか、って確かにその通りのような気もしたけど。コレは必要なイベントだったんじゃないかな。
「俺、まだ弱っちいけど、カードもケロちゃんも月さんも大事にする」
「……目をとじろ」
「うん」
「審判終了———」
月さんの涼しげな声が降り注ぐ。身体がふわっと浮いたと思えば瞼の裏に眼鏡の優しそうなお兄さんが出て来た。この人クロウさんだ!
優しい声でカードとケロちゃんと月さんを頼むって言われて、最後に不穏な言葉を聞いてから目を開けた。
ケロちゃんも月さんも、俺の力がまだ弱いから仮の姿で居てくれるらしいけど雪兎さんは月さんのときの記憶がないからほけっとしてた。
お兄ちゃんが通りかかって雪兎さん運んでくれたけど、多分お兄ちゃんうっすら分かってるんじゃないかなあ。
俺は霊感だと思ってたけどお兄ちゃんにも魔力ってのがあるから、あんなに傍に居た雪兎さんが人間じゃないことくらい分かってる気がする。
観月先生に相談してみようかなって思ったけど、観月先生はすぐイギリスに戻ってしまうみたいでゆっくり話す機会はなかった。ケロちゃんもお兄ちゃんはケロちゃんのこと気づいてるんじゃないかなんて言ってるから、もう正直に言っておこうかなあ。その方が心配されないだろうし。
いつ話そうかなあ、いつ話そうかなあって思ってるうちに新たな転校生がやってきた。こ、これは、波乱の予感!
お父さんに似た雰囲気だけど、他にも誰か似てるような。お父さんと似てるっていったら雪兎さんなんだけどそこまでフワフワしてなくて、でも穏やかで重厚とも言える程落ち着いてて……。
「クロウさんだ」
目が合って微笑まれた後、ぽそりと唇が動いた。
言ってから気づく。本当にクロウさんにそっくり。魔力とかは感じられないんだけど、隠れてるのかもしれないし、ただの偶然かもしれない。でも転校生はヒロインに関係してくるってのがセオリーじゃん?
「それにしても似てるなあ……エリオルくん」
「誰にですか?」
観月先生と文通のやりとりをしてるので木陰で休みながら学校であったことを綴っていた俺は、ひとり言に返事があったことに驚いた。目を丸めて声のした方を見ると転校生のエリオルくんがいた。
「驚かせてしまいましたか?」
「あ、ちょっとだけ」
思いっきりびくっとしちゃってたみたいで、エリオルくんはいたわるような眼差しを向けて来る。んー、クロウさんだったら心配そうにするよりも笑いそうな。あんまり性格知らんけど。
でもやっぱり似てる。例えば猫被ってるなら……子供のふりをしてるなら、こうするかもしれない。
「となりに座っていいですか?」
「うん」
「さっきのひとりごと———僕は誰に似てるんですか?」
優しい目がこっちを見た。
「記憶の中にいるひと」
「じゃあ、ぼくたちは会ってるのかもしれませんね」
「え?」
「生まれるまえに、会っているのかもしれない」
そりゃねえだろ、と思ったけど言わない。
いや、確かにアニメでちらっと見たかもね。
それとも俺に記憶が無いだけで、他にも前世とかあったのかなあ。
「あ、でも、うちのお父さんにも似てる」
「そうなんですか」
自己紹介をしあって丁寧に握手を交わした後にへらっと笑うと、エリオルくんもにこにこ笑った。うん、そうしてると本当にそっくり。
帰り道にあったお兄ちゃんところにも転校生が来てたみたいで、意味深な視線を寄越すし。俺はそんなに聡いわけじゃないけど、さくらちゃんみたいに天然じゃないからなあ……ほえほえは言ってらんないぞ。
「お兄ちゃんあの人に狙われてるの?」
「あー……まあな」
あの人、さりげなく俺が買って来たアイスを奪って行ったし。
疲れた顔してるところ悪いけど、アイスは見逃してやらないのでお兄ちゃんの手をむぎゅっと捕まえる。さりげなく帰ろうとするな許さん。
「お兄ちゃんアイスー」
「僕が買って来るよ」
「え?うーん……」
雪兎さんがにこっと笑うので、俺は眉をしかめる。嫌なんじゃなくて、そこまでさせるのは気が引けるわけだ。
「今度秋月さん捕まえて奢ってもらうから良いよ」
「バカ、それはやめとけ」
関わってほしくないのか、お兄ちゃんが俺の頭を鷲掴みにして止める。別に悪意はなさそうな人だったけどなあ。
お兄ちゃんのことは何か狙ってるけど、俺に関してはそんなでもないだろう。ほっぺすりすりは許容範囲内だ。
友枝町にだけ降る雨は、ただの自然現象ではなくて何か魔力があるもののしわざだった。最初は通常通りに水や盾を使って対応してたのに全然歯が立たなかったので、月さんも呼んで再チャレンジしてなんとかおさまった。
ちょっと死にかけた所為か、いつも以上に力が出たみたいでクロウカードが俺用に作り替えられていた。これ、全部のカード作りかえるパターン……なのでは……と気を失った。正確には寝た。
その間に予知夢みたいな不思議な夢で、大きな太陽みたいな杖を持った少年の影を見た。やっぱりエリオルくんじゃないか?
俺の脳内で作られてるなら、エリオルくんでもおかしくない。クロウさんに似てるって思ったから。
でも魔力の関係で俺の知り得ない情報を得ているのかもしれない。どっちなのか分からないから難儀だ。
俺は一日中寝こけてたら体力が戻ったけど、その数日後くらいに月さんがケロちゃんと話しているのを聞いた。月さんは自分で魔力を摂取できなくて、このままでは危ないと。それってどういう危ないなんだろう。消滅ってことになるのかな。
新しいカードに作り替えるのに精一杯になってるって言うけど、そんなの後回しにして月さんの方に力を注いだ方がよくないか。まあ、否が応でも事件が起こっちゃうから仕方ないのかなあ。
「適任者はいる……しかし雪兎が……」
そこで言い淀んでしまったので、ひょっこり顔を出す。
結局月さんは俺に話してくれなくて、雪兎さんに戻ってしまった。玄関に居た筈なのにリビングに来てたことで誤摩化すのが大変だったけど、雪兎さんはドがつく程天然なのでなんとかなった。
小学生男子はやっぱり頼りづらいかなあ……。
next.
毎度のことですが、話はすっ飛ばします。
今まで特に話題にしたことはなかったんですけど、主人公は口調が雑だけど呼び方が可愛いのをこだわりにしています。あと各ご家庭の教育方針に則ってる所もあるので、とーやが”お兄ちゃん”なのは藤隆さんと撫子さんの影響も少々。お父さんとお母さんって呼んでるのは、本当の両親ではないと言う認識も気づかない心の内にあるという裏話。
Dec 2015