01
この世で一番強い魔術師であるクロウさんよりも強くなってしまった俺は、望まなければ未来をみることはない。けれど予知夢はときおり遊びに来て、俺を弄ぶ。更に続きを、と望めばきっと真実や未来が見えるんだろうけど、それはあえて望まない。現実で、予知夢と似たようなシーンになることをちょっと楽しみにしたりしなかたり。制御できないわけじゃなくて、時にはそういう遊び心も必要かな、なんて思って放っておいてる。そう言ったらケロちゃんと月には呆れられた。
日々の楽しみである、稀に自分の予期せぬタイミングで訪れる予知夢は、高校に通う俺を見せた。お兄ちゃんの母校である星條高校に知世ちゃんと小狼と進むつもりだったけど、その制服ではない。何の変哲も無い黒の学ランを着ている。校舎も星條より少し古くて、小さいかも。校庭をはさんだ向こうには古びた木造の校舎があって、俺はなぜだかそっちに行くみたい。
夢が終わる直前、とても綺麗な顔をした少年がこっちを見ていた。
誰だろう?知らない人だ。
害は感じないし、エリオルくんの時みたいに不思議な印象も抱かない。ただこれから会うことになると示唆するような、むしろ会いに行けとでも言うような予知夢。
目を覚ましたら少年の顔はあんまり思い出せなくなっていたけど、周りに居る人とは雰囲気の違う綺麗な子だっていうのは覚えてた。
「———だからって志望校まで変えんでもええんやないか?」
「え〜でも、面白そう」
「おまえだんだんクロウに似て来たんとちゃうか……」
「うそー」
お父さんにはとっくに志望校変えるかもって言ってあるんだけど、ケロちゃんに事情を話したら意外にも反対された。予知夢が全て危険なものへの警告ってわけじゃないのは、ケロちゃんも分かってる筈なのに。
「小僧と知世が聞いたら泣くでえ。っちゅーかついて行きかねんな」
「えー、俺に合わせて志望校変えさせるのはなんかなあ」
「ほんなら星條行ったらええんや」
「やだ!俺はあの学校に行きたくなった!あの人にも会ってみたくなった!」
「あかん、変なスイッチ入っとる」
お父さんもお兄ちゃんも俺が行きたいなら好きにすればって言ってるし、準家族レベルでしょっちゅううちにいる雪兎さんも応援するよって言ってくれた。知世ちゃんと小狼も反対はしないんだろうけど本当について来そうだったので内緒にしてみた。家族と雪兎さんに内緒ねっていったら皆頷いてくれた。やっぱりさ、俺に合わせて学校決めることないって意見には賛成だよね。
離れたいわけじゃないけど、あんまりべったりしすぎても良くないと思う。特に小狼ってあんまり友達いないんだよね。男は俺か山崎くらいとしか一緒に居ないんだぜ……。
半ばだまし討ちのような感じで別の高校を受験して、入学手続きを終えた後にてへっと笑いながら知らせたら知世ちゃんと小狼は滅茶苦茶へこんでた。ごめんね!
最終的に、俺が予知夢を見て楽しそうだと思ったから行って来ることと、そこに皆が居なかったから誘わなかったと適当な理由をつけて納得してもらった。
そして週に一度は放課後待ち合わせしてお茶をすることと、電話はこまめにかけること、活躍の機会があったら呼び出すことを約束して、無理にでも同じ高校に入学しようとしている二人を止めた。
「学ランってなんだか新鮮だね」
「そうだな」
入学式当日、お兄ちゃんと雪兎さんが見送りをしつつ写真をぱしゃぱしゃ撮ってる。ちなみに知世ちゃんも来たがってたんだけど、入学式の日は一緒で時間がないので放課後会う約束だ。
「でも星條の制服も見たかったね。とーやのまだ残ってる?」
「ある」
「じゃ、今度着てもらおうよ」
「チビだからサイズ合わねえだろ、こいつ」
に、にくたらしい!
少し丸くなったと思ってたのになあ。
「ふん!ばーかばーか!」
「っでぇ!」
げしっと足を蹴ってから、隣でくすくす笑ってたお父さんの腕を掴んで入学式へ向かった。お兄ちゃんはもう知らん。
人のことは言えないけど、お兄ちゃんは誰に似てあんな性格になったんだ?お父さんもお母さんもほんわりしてて素直で優しい人の筈なんだけど。
「新しい学校で、お友達沢山できるといいね」
「そうだね」
「夢で見た男の子も、いつか連れておいで」
「うん」
お父さんといるとほわーっとなるので穏やかに会話をしてからクラス分けを見て教室に行くために別れた。
この学校も私立の高校で、付属中学もあるから持ち上がりの人達も居るみたいだ。それでも近くの席の子は話しかけてきてくれたし、仲良くなれそうな人達がいっぱい居た。
学校が始まって数日程経ったけれど、俺が夢で見たと思しき美少年はいなかった。全校生徒確認してはいないんだけど。
どんな格好をしていたかも忘れちゃったし、顔を見れば分かるかと思ったけどピンと来る人は居ない。んんん。
「木之本?木之本ー」
「んあ」
つんっと額を押されてぼけっとしてたことを思い出す。
彼はクラスメイトの木村で、俺の後ろの席で一番に仲が良くなった人だ。俺がいつまでも帰らないから覗き込みに来たらしい。
「なにぼーっとしてんの?かえんねーの」
「あ、ああ……」
「木村ぁ〜」
帰るよと言いかけたところで、クラスメイトの女の子が木村を呼んだ。なんかこっちにも軽く手を振りつつ木村にいそいそきゃっきゃと話しかけてる。俺に用?でもない、のかな?
「えー、今?」
「だって暇そうじゃん!」
「帰るんだってば」
「予定が無ければでいいの!」
なんかよくわかんないけど、俺は二人の様子を眺めた。別に木村と一緒にいつも帰ってるわけじゃないから、軽く手を振って帰ろうかなって思ってたところで、木村に名指しされた。
「こないだお前の趣味が占いって話をこいつにしたんだけどさ、興味あるんだってよ」
「ああ、そのことね。占ってほしいってこと?」
「そうなの!あたし、そういうの好きでさ。駄目かな?」
木村や他の数名とだらだら話してる時に趣味は占い〜って笑いながら言ったことを思い出す。占いを見るんじゃなくて俺が占うとまで言ったから珍しかったんだろう。
どうやら木村と女子生徒は仲が良い友達らしい。
本当はクロウカードでやるんだけど基本的には一般人に見せないことにしてるので、トランプで代用している。まあ俺はトランプ持ち歩いてないからもしトランプがあるなら良いよって答えた。
占いをしてから二週間くらいが経った。そんなに頻繁に出来ないから噂広げないでねって言っておいたので、放課後女子に囲まれることにはなっていない。
「あ……」
放課後、まだクラスにはちらほら生徒達が居る。ふいにあらわれたその人は制服姿ではなく、上下真っ黒の格好をしていて、教室を覗いた。彼に寄っていく顔見知りっぽい女子生徒たちは少し会話をしたのち、俺の方を見た。
「きみ、占いができるんだってね」
彼は俺に話しかけて来た。とりまきの中には占ってあげた子が居たので、多分そこから聞いたんだろう。
正直、占いのことよりこの人が問題だ。たぶん俺が夢で見た人だと思う。
「やったことあるけど」
「すごく当たるんだって?僕も是非占ってもらいたいと思って」
少年の後ろをちらっと見ると、一人がごめんとジェスチャーをしてる。あんまり悪びれてないし、まあ俺もさほど気にしてない。面倒だったら俺がそもそも言い出さなきゃ良い話だから。
「あー……トランプ持ってる?」
「あ、あたしもってきてるよ!」
「かりていい?」
この人になら、トランプがなかったらクロウカードで占ってあげてもいいかなと思ったけど、クラスメイトが持っていたのでそっちを使うことにした。
「そこに」
「うん」
前の席にすわるように促すと、大人しく少年は座った。名前聞いてねーや、……あとでいいか。
トランプの裏を上にしてぐるぐる回す。
「何を占ってほしいのか聞かないんだね」
「うん」
そういうのも占いに出るから、余計な詮索は不要だと思ってる。本当のすごい占い師のおばあちゃんに会ったことあるけど、あの人も聞かなかった。まあ占ってほしい事を言われたらそれについて占うってこともできるけど。
占いの結果は興味、腕試し、それから勉強。この人はその道の関係者とか研究者とか?まず俺が使えるのかを知りたい、そしてなおかつもっと知りたいことがあると。高校の制服を着てないということは外部の人で、そう言う人は大抵何かを調べにやって来るのが常。占いが出来るって噂の俺のところにきたのもそうだよなうんうん。
———ふいに、夢のことを思い出す。
「旧校舎?」
少年は目を見張った。
見守っていた女子生徒たちはきょとんとしてるから、この人は誰にもそのことをいってないんだろう。
コレは単に占いの結果じゃなくて予知夢のことなので、ちょっと口滑らせちゃったな。
「君は、旧校舎に何か感じる?」
「いえ、何も」
考えるまでもなく、またもや口が滑った。直感的にも、ちょっと眺めただけでも、とくにない。昔のお兄ちゃんみたいに霊的なものが見れるわけでもないけど、善し悪しには敏感な方だ。
「何も感じないですって!?」
お兄さんと俺のやりとりに、ちょっとヒステリック気味に入って来たのはおさげで眼鏡の女の子。興味深そうに見てた子たちとはちがくて、否定的な雰囲気がひしひしと。
「旧校舎に何も感じないというなら、あなたに占いの才能なんてないわよ、さっさとその子供だましのトランプをしまって!」
「えー」
もう占い終えていたからいいけど、とさらさらかき集めて纏める。
「君は旧校舎に何かあると?」
「居るわ」
なんか、周りに居なかったタイプの人で苦手だこの人。
オカルト好きみたいで、幽霊の話を嬉々としてしてるけど、そういうのが好きだった柳沢さんとは違うなあ。
next.
あとがきでも、ブログとかでも結構さくらinGHの話題出してたから、なぜか自分でもハードル(?)あげてる気がしてます。いや、過剰な期待は受けてないのですけど。
とにかくおまたせです。 クロウカードの枚数はアニメ版……というかグッズ版の枚数に合わせようかとも思ったけど、別にどっちでも良いなって思ったのでご想像にお任せです。トランプでタロット占いが出来るように枚数増やしたそうなんですが、少ない枚数でも別に間引いてやればええやん……とか思ったので。本当、どっちでもいいなっていう……設定は甘々。
占いの結果も捏造なので深く突っ込まないでいただけると助かります。
あと月はいつのまにか呼び捨てです。
Apr 2016