Prism.


02

「ほんで、会えたんかいなその綺麗な兄ちゃんに」
「うん、渋谷さんっていうんだって」
「ほー、で?どんなやつやったん」
「いやあ、よくわかんなかった。魔力も特に感じないし、……あでも、心霊関係に興味がある人みたい」
あの後黒田さんという霊感女子がぴいぴい俺に絡んできそうだったので、渋谷さんと話している最中にさりげなーくフェードアウトしてきた。
家に帰ったらお兄ちゃんはバイトで留守だし、お父さんも仕事なので俺はのんびりお父さんの作り置きおやつをケロちゃんと一緒にテーブルに並べながら話す。
「俺、幽霊苦手なんだよなあ」
「せやったな」
基本的に俺はビビりだ。ユウレイコワイ。最強の魔術師かっこわらい、である。

渋谷さんに伝えそびれた占いの結果も話し合ってると、知世ちゃんと小狼が遊びに来たので家に通した。
———水と地面と知識から連想するものって何だろう。
最初の二つは多分占いの時の意味ではなく、自然の意味。
湿気くらいしか浮かばない。ぬかるみとか。
お茶を入れながらむむむと唸ってると、小狼が大丈夫かと声を掛けて来る。
「あ!」
「な、なんだ?」
かわりに持ってくれていた、お茶の乗ったお盆を揺らす小狼。ごめんごめん。
「小狼ならわかるかな、水と地面で何を連想する?」
たしか小狼は考古学にも興味があって、お父さんと発掘の話とかしてたっけ。考古学と地学は違うけど、俺よりその辺には詳しいだろう。
「他に条件は無いのか?」
「どうかしました?」
リビングにお茶を持って行きながら喋っていると、知世ちゃんが首を傾げる。
「今日、夢に見た人に会って、占いを頼まれたんだよねえ」
「なんだと!?あんまり占いをほいほいするな。対価は貰ってるのか?」
「お礼はジュースねとか、色々言うときもあれば、俺がやりたいからやることもあるよ」
カードでガチ占いをしてあげる場合はそりゃちょっと不相応な歪みがでるけど、簡単にトランプで代用してぼかしながら教えてあげてるから大丈夫だ。
「旧校舎は夢に出たから、俺も関わるのかもしれないよ。だとしたら自分のことだしそういうの要らないのかも」
「ああ、旧校舎か……そこに、水と地面?」
「危険がないのならいいのですけれど」
頬に手をあてて心配そうにしている知世ちゃんに俺は軽く笑いかける。
「なんか色々イワク有りみたいだけどね、でも霊とか魔術の気配は全くない、ノーマルもノーマル」
ぶんぶん手を振っている間、小狼は口元を手で押さえて考え込んでいる。
「———地盤沈下じゃないか?」

次の日渋谷さんを紹介した女の子達に聞いてみたけど、渋谷さんは彼女らに転校生って言ったらしい。えーでも、俺は違うと思ったんだけどなあ。
「あの人、旧校舎を調べに来た人でしょ?多分心霊関係で」
「えー!うそ!」
「やけに気にしてたし、黒田さんだっけ?幽霊の話題を出したら食いついたじゃん。皆に会ったのも怪談中、昨日のも怪談をしにきたんでしょ」
「あ、たしかに」
「それって本当?」
黒田さんはいつのまにか話を聞いていたみたいで口を挟んできた。
なんか、彼女らは黒田さんが苦手らしく苦笑する。
「さあ、わかんないけど」
「木之本くん、あの人に気にかけられてたわよね、よかったら私と一緒に行ってみない?」
なにそれ意味わからん。
まず俺気にかけられてたといっても、一回こっきりの占いだし。
……というか、小狼も占いの結果に幽霊は関係ないだろうって言ってる。
ほんのり拒絶の態度を取っていたんだけど、俺はあれよあれよという間に旧校舎の方に連れて行かれて、ワゴンが停めてある、人が複数居る所にぶっこまれた。うわああ逃げたい。
「生徒か?ここいらはあぶねーから近寄っちゃだめだぞー」
「ごめんなさーい」
「……あなたたちは?」
「あたしは校長に依頼されてやってきたのよ」
若干しっしって感じにされる。まあ俺はさっさと撤退するから、黒田さんをおいて。
「霊能力者の人じゃないの?」
あなたたちはって聞く程でもねーだろと思って黒田さんに苦笑したけど、巫女さんとお坊さんだってことを知りたかったようで俺の言葉に続いて仕方なく自己紹介されるのを待っていた。それから黒田さんは、悪い霊の巣で困ってたと嬉しそうに言う。けど、自己顕示欲、なんて言われてしまう。
「え、なに、えーと?」
「その子、霊感なんてないわよ」
急に厳しい視線を向けられて、どうしたらいい?と戸惑って松崎さんを見るとそう説明された。
いや、うん、霊感無いのは薄々……。
引きつった顔で微妙な相槌をうつと、黒田さんが気味悪げに笑った。
「……わたしは霊感が強いの。霊を呼んであなたに憑けてあげるわ……強いんだからね……本当に」
「ちょっと、黒田さん?」
「ニセ巫女……今に後悔するわ……」
黒田さんの顔と声が気味悪くてぞっとした。
勝手に連れて来られて勝手においてかれたし。もうやだあ。
「おーお、すさまじ」
「フン。残念だったわね、カレシ」
「カレシじゃねーし」
目ぇヤバ……と黒田さんの後ろ姿を見送りながら、松崎さんには否定しておく。
「きみは何故ここに?」
「無理矢理連れて来られただけデス。あーでも、昨日のことで思い当たることがあったから一応」
ほぼ我関せずでいた渋谷さんは、黒田さんがいなくなってようやく口を開く。
「占いの結果?」
「結果というか、ちょっとした推測」
「占いぃ?やだ、勘弁してよ、また目立ちたがりなの?」
松崎さんが思いっきり眉を顰めた。
俺が気分を害したのを顔に出して頬を膨らましても、馬鹿にしたような態度をかえない。もうこの人達には教えてやんない。
若干嫌そうにしてる渋谷さんにこしょこしょと「地盤沈下かも」ってことだけ教えといた。



next.

主人公はお茶目()なのであざとくぷく〜ってします。
お利口さんなので、目上の人に対してはさん付け。IFとか色々でそれぞれ呼び方変えるから時々わかんなくなる。とくにぼーさんとナルはころころかわるし。
一話でもそうだけどほんのりホリックに出てる人とかも存在を臭わせてます楽しい……。
主人公的には、対価ってあんまり拘ってなさそう。こう……やりたいからやるっていう意志を貫けそう……。ぜったい、大丈夫だよ!
Apr 2016

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