Prism.


03

数日後、俺は校長室に呼び出された。
中には見た事無い人も居たけど、多分霊能者さんたちなんだろう。
渋谷さんの低くて落ち着いた美声を聞きながらうとうとして、あーこのまま寝たいと思ってたら起こされた。残念。

その日の晩、久々に夢を見た。渋谷さんがまた出て来たんだけど、予知夢とかではなさそう。だからといって純粋な夢でもない気がする。雪兎さんみたいに柔和な笑みを浮かべる渋谷さんなんて、想像したこともない。多分。
「こんばんは」
暗闇の中でぽつんと佇んでいる渋谷さんにぺこっと挨拶をしてみる。笑顔で挨拶が返って来たのであやうくはにゃーんとなりかけたけど、大丈夫雪兎さんにもはにゃーんしないし、俺がはにゃーんするのはお父さんだけだ。
そういえば俺、なにかにつけてお父さんに似てるなあって言ってる気がする。あれ?もしかして例のあれか?

「……俺になにか用があってきた?」
この人が現れるまえ、ノックされた音がした。それに応じてドアを開けたイメージがあって、対面したからこの人の方から俺の夢にやって来たんだと思う。
あれ、でも、この人生きてる人間ではない気がする。
それに魔力は感じない。え、じゃあ、幽霊?
「———もう、亡くなってるの?」
そう問いかければ、彼は寂しげに頷いた。
「その姿は、本当の姿かな?」
もう一度頷く。
じゃあ、渋谷さんの双子の兄弟なのかな。だとしても似過ぎているけど。
それとも渋谷さんの魂が半分死んでるとか……。うーんでも渋谷さんは純粋な人間っぽかったし、魂が欠けてるようには見えなかった。魔力を持ってて完全に隠してるなら話は別だけど、さすがにこういう事をしているとき、俺なら魔力の有無も分かる筈だ。
「なにか、伝えてほしいことがあるの?」
「今はない」
おい、その答えだとつまり今後出るってことか。
別に、今後も夢に出て来だっていいけど、俺渋谷さんの連絡先知らないからね。
つうか今伝えてほしいことが無いってことは自分のことじゃないのか?
そう思いながらぼけーっと目を覚ましたら遅刻寸前で、お兄ちゃんに盛大に馬鹿にされながら家を出た。
学校へ行ったら黒田さんに、昨日のことを渋谷さんに聞きに行こうと言われて旧校舎に連れて行かれ、松崎さんや滝川さんには若干あきれまじりの顔で見られ、渋谷さんにもちょっと邪険にされる。はうう教室に戻りたい……。
「木之本くん、口は堅い方か」
「え?う、うん」
「そう」
正直俺は帰る気満々だったけど、渋谷さんは渋々といった感じで俺たちのことを許してくれた。
「ねえ、地盤沈下じゃなかった?」
一応占いには自信があるんだけどなあと思ってこっそり聞いたら、地盤沈下は実際に当たっていた。
「君はどうして地盤沈下だと?占いの時に見ていたカードとどんな関係がある?」
「あれはもともと、普段使ってるカードをトランプに当てはめてやってるから数字を見ても俺にしか意味はわかんないんだ。占いの結果の時に出たのは水、地面、知識」
「その三つだけで?」
「いやあ他の事情も色々加味して知識のある人に相談したんだよ、俺じゃない」
「……そう」
手をひらひら降って、一応自分だけの手柄ではないことは告げる。
渋谷さんから目を離してまわりをちらっと見ると、さっさと結果を知りたがってる面々や穏やかに待ってる人達が居て、あんまり長く話す時間はなさそうだなあと思った。

昨日の呼び出しは暗示実験だったらしい。ほえー俺普通にかかっちゃったよ。あれ、じゃあ俺が動かしたってこと?いや、俺そう言う力はないし。カードたちも勝手によそで悪戯はしない。
「超能力ってやつ?」
「そうだ」
渋谷さんは俺のこぼした言葉に小さく頷いて、ポルターガイストの半分は人間が原因である場合だと説明する。
いや、月は指さしてくいってやっただけでカーテン開けてた……あ、でも月は人間じゃないや……俺は出来ない、うん。大丈夫。
なにかの原因でストレスが溜まった場合の現象らしいし、やっぱり俺じゃない。のびのびすくすく!
となると犯人は黒田さんなわけだ。全員の視線が彼女に集まる。
「才能としては木之本くんを疑いかけた。でも最初から地盤沈下説をあげていたし、ポルターガイストの被害にも遭っていないから殆ど除外だ」
お、俺も疑われてたー!と思ったけどすぐに除外されてたのでほっとした。

松崎さんが渋谷さんにコナかけておナルな発言で突っぱねられて、あれよあれよと言う間に撤収となり、俺はまたもや、つれてきた本人に置いてけぼりを食らってぽつーんと佇んでいた。
「授業にでないのか?」
なんと、これでおしまい、だと。
渋谷さんは同じ学校の生徒じゃないし、ここには心霊調査の依頼でやって来ただけ?
えー、俺何の為にこの学校来たんだろう。後悔はしてないけど……。
「ふにおちなーい」
「は?」
ぶうたれてる俺を見て渋谷さんが首を傾げる。
「何か俺に言いたいことない?して欲しいこととか」
「撤収作業でも手伝ってくれるのか」
そういうんじゃないけども。
「もっと長い付き合いになるかと思ってた」
「僕は一つの事件に長く取りかかる程暇じゃないし、きみに関係ないだろう」
まあそうですよね。
素直に言われた物を運びながら渋谷さんにこぼすとぴしゃりと言い切られた。
「有能な人のセリフだね」
「その通り、僕は有能ですので」
「……うわ〜渋谷さんってナル?ナルなの?」
「———は?」
ぴたりと足を止めた。
「どこで聞いた?それ」
「え?」
「いま、ナルって言っただろう」
「なに、普段から呼ばれてるの?ナルシストって?すげえな周りの人」
よくわかんなくてせせら笑ったけど、渋谷さんの反応を見るにそういうわけじゃなさそう。脳裏に偽名という言葉が浮かんだ。
「ねえナルさんナルさん連絡先教えて」
「必要性を感じない」
「えー俺は必要になるかもしんないんだよー」
「なぜ?」
面倒くさそうに荷物をまとめてる渋谷さんはこっちを向かない。
俺はきょろきょろ周りを見て、のっぽのお兄さんが居ないのを確認。これはデリケートな話題だから本人にですら言い辛い。しゃがんでダンボールを見ていたナルさんにすすすっと密着する。一瞬動けなくなって戸惑ってるのも気にせずになるべくひっそりした声で告げた。
「気を悪くしたらごめんけど……双子のご兄弟かなんか、亡くなってない?」
ナルっていうのと同じくらいの秘密っぽくて、渋谷さんは若干驚いてこっちを見てる。
「昨晩、夢に出て来たんだ」
「あいつは……何か言っていたのか」
意外にもそれ以降は大して驚いた様子も無く聞いて来る。
「何か伝えたいことがあるのかって聞いたら、『今はない』って。だから伝えたいことが出来た時に連絡できたら良いなって思って」



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入学した意味〜〜〜ってやつ。でもいいの!他校に幼馴染みが二人居て、違う制服の三人が放課後集まってる光景想像したら楽しいから……。
Apr 2016

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