Prism.


12

所定の場所までやって来たら、なにか大きな力の気配をひしひしと感じる。
渋谷さんが倒れたっていうからそりゃ大物なのかなーと思ってたけどさ。
「なんや、えらい気配しよんな」
「うん」
ケロちゃんは俺の肩の上でぽつりと漏らす。
「こりゃあ、神さんでも怒らせたんか?」
「神様?」
「おちついて考えてみい、今までの幽霊とか、魔力の気配とはちゃうやろ」
促されて、俺はそっと目を瞑る。
害意というよりも、怒りの気配を感じた。霊じゃない、魔力……ひいては人じゃない、意志。けれど確かに存在し、意図し、行動するものがある。忘れるな、許さない、こっちを見ろ、といった感情。この地の人間に何かを訴えようとしているのか、それともそう思った末に、災いを与えようとしているのか。
「どっちも、やろな」
俺の憶測に、ケロちゃんは答えた。
「これが神様の祟り?だとしたら?」
「ほんなん、気が済むまでやろ」
「どうにもならない?」
「わからん。あちらさんの望みを聞けばおさめてくれる、っちゅーなら話は別やけどな」
「望みって?」
難しい顔をしたままのケロちゃんに、俺は問いかけた。
けれどその答えが返って来る前に、人が来たのでケロちゃんはものいわぬぬいぐるみになった。くそぅ、良い所で。
「渋谷サイキックリサーチの方ですか?」
「あ、そうです。こんにちは」
ぺこりと挨拶をすると、着物姿の年配の女性は深々と頭を下げた。
皆は母屋ではなくお店のある建物に滞在していると言われ、その場から離れようとした途端に視界に黒い靄のようなものが入って足を止める。靄の根元を見てみると、乗用車がそれに覆われている。
「——あの車」
「はい?」
女性は小首を傾げ、俺と同じように車の方を見る。本当の煙が出ている反応ではないので、何か見えないもの……たとえば悪意とかに渦巻いている状態なんだと思う。
「乗らない方が、良いかも」
「え……と?」
「とにかく、近づかない方が良いです。なんなら、後で調べてもらいましょう」
「はあ、……わかり、ました。家族には乗らないように伝えておきます」
「それがいいですね。お願いします」
二人で小さく頷き合ってから、俺達は再び歩き出した。
お店は会員制料亭というやつで、俺にはあまり縁の無いところだ。一応俺の身内はお金持ちってやつなんだけど、俺んち自体は普通の家庭だしお坊ちゃんな生活はしてない。まあ軽井沢の避暑地でのんびり過ごしていたけども。

「来てくれたか、悪いな」
「いえいえ」
普段はお客さんがご飯を食べると言う広い和室で、いつものメンバーに迎えられた。
渋谷さんが霊に取り憑かれたので致し方なく霊ごと金縛りをかけたけれど、その後も霊の仕業と思しき騒ぎは起こったため家族全員に松崎さんの護符を持たせようとしたらしい。が、それを拒否する一部の人たちや、見つかってない人も居る。
ふむ、と頷き話の続きを聞く。
今までの事件を通して、土地や過去の因縁に関してを調べることにしているようで、十八塚、雄瘤と雌瘤、それから祠のおこぶ様という恵比寿神の名前はピックアップされた。
それから、ここは霊場の気配がすると原さんが言う。
「霊場って?」
「精霊に守られた心霊な場所です。汚す者に災厄もたらす、祟りの震源地でもありますわね」
そっちの知識はさっぱりなので、俺は首を傾げた。
アメリカの心霊調査会なんてのもよくわかんないけど、アメリカならビッグなんだろなという適当な概念はある。アホ丸出しなので言わないけど。
ふと、さっきケロちゃんと話していた事を思い出す。神と言ったはいいけど、精霊だったり妖だったりもするだろう。でも多分神様のことで間違いないんだろう。恵比寿神という存在がこの地にあるようだし。
「とりあえず、おこぶ様を見させてもらおうかな」
「は?なんだっておこぶ様?……っつーかその前にナルを見てくれよ」
「え、俺が見んの?」
「いちお、な」
ぽんぽん、と背中を叩かれて立ち上がりかけた俺は、渋谷さんの寝ている部屋の方へ促された。
すぐにリンさんも立ち上がり、なんらかの動作をする。あれ?と思いながら目を凝らした。
魔力だけに留まらず、霊力っていうものにも多少種類があるもので、リンさんが何か術をかけていたのは分かった。そもそも、魔力と霊力の違いってのも、俺にはよくわからないんだけど。『人』の持つものとして、本当は同じものなのかもしれなくて、それの使い方は人それぞれで、認識もそうだから魔力とか霊力とか言葉が違うだけだったりする……かもしれない。分類は結局自分でしか出来ないので、俺は一応違う言葉で捉えてはいるけれど、大まかに分類すると同じものだと思う事にしている。
「リンさんのじゃないのがいる」
「え?」
部屋には入らないようにと言ったリンさんが俺の斜め上で目を丸めた。
「リンのじゃないってのは、ナルに憑いてる霊のことだろ?」
「ああうん、でも、霊っていうか……式?」
「式ぃ?」
松崎さんと滝川さんまで一緒になって覗き込みに来たので、視線を外してそっちを見る。その時、彼らの向こうにいた原さんが見る見るうちに表情を変えて、あっと声をもらした。
「そうですわ、使役されている霊と似ています。どこか空虚な……」
「木之本さんは、気配をごらんに?」
リンさんが珍しく俺に声をかけてきたので、もう一度渋谷さんの方を見てからふすまを閉めるように合図をした。
「気配だったら多分原さんのほうが見えると思うんだけど」
「何もしていない時にはわかりませんわ」
「俺も本当は霊とかには疎いんだけどな、式だから逆に分かったのかもしれない」
「というと?」
滝川さんが首を傾げる。
「リンさんの式には、リンさんの色が見えるから」
「色?」
「といっても、光のもとで見える色ではなくて、顔というべきか、香りと言うべきか」
「とりあえず区別ができるわけだな?」
「そう。人に通じてるモノの方が、わかりやすいんだ」
「じゃあ、ナルに憑いてるやつも人に通じてんのか?」
「いいや、アレは人じゃないものだと思う。色もないし……温度もない」
「温度……」
ブラウンさんが復唱した。
「よく霊が居る所は温度が低くなると渋谷さんが言っていたけど、俺が感じる時もそうなんだ。冷たさがあんのね」
「そうなんですか」
「悪意があればある程、冷ややかな意志がこちらに向けられている気分がして、怖くなる。背筋が凍る……ぞっとするってやつ」
原さんは小さく頷いていた。
あまり意志のない浮遊霊程度だと、冷たさはおろか涼しいとさえ思わない。だから素通りするし、居た事にも気づかない。目を凝らせば影を見つける事はできるのかもしれないけれど。



next.

分かりにくかったらごめんなさい。がーって書いた後に読み直してんん?って書き直して、を繰り返してるので逆に一貫性のない感じになってる可能性もある。
そしてまたしれっと書き直したりします。
言い訳としては、主人公も上手く説明できないから分かりにくくても仕様がないっていうか……。論破するとそれを分かりやすくするのが書き手の役目やんか……ってことですね。
July 2016

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