Prism.


14

———神さんっちゅうもんは、元々人の為におるわけとちゃうねん。
ケロちゃんは神様について話し出した。
人の願いや信仰から神様という存在が生まれたとも言われるけれど、そうして誕生したとしても、神様が人の為になんでもしてくれる善良なものではない。
というか、人間から見ると、神様はぶっちゃけあまり良いものでもない。
だからこそ人は神様を畏れ敬うのである。


「占ってみるとええかもしれんな」


神様の認識はおいといて、ケロちゃんが言うと皆の視線が俺に集まった。ああ、占いと言えば俺なのか。
もうケロちゃんのこともバレてるし、魔術のことは多分そんなに驚かれないと思ったので持ち歩いているカードを取り出し、床におく。
興味があったようで、全員が俺の周りに座る。
リンさんが一番俺の性質とかルーツに近いところがあるので、カードを凝視していた。香港出身の導師らしいと聞いたので、もしかしたらクロウカードのことを知ってるのかもしれない。
今は俺のカードとして作り変わっているけど、もし詳しく知っている人だったならわかるだろう。


占いと、安原さんが調べて来てくれたことを照らし合わせて話し、おこぶ様を祀るという結論に至った。
「昔は時の権力者や占いなんかで祀り方を決めとったんやで」
「ほえー」
だからケロちゃんは俺にそう促したんだろうか。そう思いながらうんうん頷くケロちゃんを見る。
リンさんは相変わらず何も言わなかったけど、微妙にもの言いたげな視線をしているような、していないような。無表情だからわかんねえや。
「なんか……おこぶ様が人の命をたくさん奪うのも、罰というよりは当然のことなのかもしれないね」
「なんだって?」
「昔は生け贄だってあったろ?それと同じなんじゃないかな。もはや罰ですらないとかで」
言っていて自分でやるせなくなってきた。
神様の思考回路って、人間と一番ほど遠いんじゃないか?
あでも、一応罰という考えはあるのかもしれないなあ。神様もちょっとお怒りな部分があって、俺を呼び出してたわけだし。といっても俺が怒られたわけじゃなく、怒ってる事を知らせるために俺を呼んだみたいな。
「ってことは……もしかして俺達は生贄を用意せにゃならんっちゅーことじゃないか?」
「うん?魚は用意するように言ったけど?」
「いや……言いたかないけど、人の生贄をさ」
「そりゃないでしょ〜」
俺はあははっと笑う。いや、確証はないし、最初は人がいいのかなとも思ったけどさ。
大昔に人の生贄もあって、おこぶ様がそれで喜ぶと言うなら、ちゃんとお祀りしていた人が住んでいたときに生贄を捧げていた痕跡が残っていてもおかしくはない。でも全くもってそういう習慣はなかった。見つからなかっただけといわれたら困るけど。
「神様にとって人間は種族のひとつ」
「は?」
「緑陵の時は人が呪いを始めたし、人を殺す為の蟲だったから、条件として人の命が必要だったみたいだけど、今回は違くて」
リンさんが、小さく頷いた。
「人も魚も命の重さはかわらない」
人が役目を怠ったから人に対して罰を行っているのであって、けして人の命を捧げろという意味でもない。
というか、俺達がそうだと思って納得してもらわなければならない。
さっき思いつきで、人の生贄貰ってたのかもねって言ったのがややこしくなる原因だったなあ。


次の日、口にはしなかったが仮に人の生贄を欲されたらという懸念があって、俺達だけで祀りを行った。
本当は俺が最年少だし一応は一般人なので滝川さん達は反対したのだが、一番コンタクトとりやすいからという理由で俺が供物を持って近づく。
巫女である松崎さんが後ろに控えて、日本酒をはこんできた。
二人でそっとおいて、祠の近いところに座る。そしたらまた意識がふつりと持って行かれる。
元々座っていたので、首がかくりと落ちるのだけを感じた。
顔を上げることは叶わないけれど、俯いたままの視界に入る供物がすっと引っ張られて行くのが見えた。
それが見えなくなると、自然と顔を上げられる。
そっと立ち上がり振り返ると、心配そうな顔があった。
「たぶん、とりあえずは大丈夫ってこと……かな?」
ふわりと、海風が洞窟を吹き抜けた。


原さんが霊場の雰囲気が消えたと言っていたのでお店にもどると、渋谷さんが目を覚ましてモニタの前に座っていた。
わあ、すっごく機嫌が悪そう。
「おはよー」
一応挨拶をしてみたけど、一瞥も無い。
安原さんが調べて来た書類をぱらぱら見てからようやく、ちらりと視線を上げて「報告」と言った。
おこぶ様のしわざだろうってことと、この土地は元々神様を祀る祝の住む場所だったのにそれを怠ったからだろうってのを伝えると、渋谷さんはほんの少しだけ眉を顰めた。とんでもなく冷たい視線である。
「それで?おこぶ様はどうしたんだ?」
「え、どうしたって……多分問題なくなったんじゃないの?」
一応俺がやってことってなってるみたいで、渋谷さんはこっちをみた。
「なんだその曖昧な返答は」
「いや、今後も祀り続ける必要があるけど、それさえしてれば問題は無いかと」
「ここに住む一家は永久に祀り続けることになるだろう」
「そういうもんじゃない?神社だって神社がある限り神社だし……知らなかったとはいえこの家に住んでるんだもん」
渋谷さんは緑陵のときの呪詛も、知らなかったとはいえ呪詛を行ったのは生徒だって言って呪詛返しをしようとしたんだからこの気持ちわかるよね。まあ、人型を代わりにしていたけどさ。
「吉見さん一家には説明したし、了承を得ているよナルちゃん。様子見の為に今夜も一晩泊まって行くが、なにか不満かい?」
「おこぶ様は除霊すべきじゃないか」
「神様を除霊するわけ?無理よ、そんなの」
「ボクにはでけへんです」
「あたくしも、無理だと思いますわ。霊ではありませんもの」
渋谷さんが稀に見るぶっとび具合なんだけどどうしたんだろう。
「もしかして、……怒ってる?」
「怒ってなんかいない、愉快な経験をさせてもらったお礼をしていないと思っているだけだ」
ねえそれ怒ってるって言うんだよ?怒ってるよね?
全員が絶句している。え、これ、どうすんの?
行く感じ?たったいま神様に頭を下げて来たのに?
「でもさっきお祀りしてきたばっかりなんだよ?刺激しないようにしないと」
「……」
ぎろりと睨まれる。ひええん怖い。
「ナル、無茶を言うものではありません。あなたが眠っているうちに、解決したんですよ」
「これは解決とは言わない」
いやお前の解決は物理的すぎるだろ。今までの冷静な渋谷さんに戻ってくれ……。
リンさんが珍しく苦言を呈してくれてるのをはらはらしながら見守ったけど、渋谷さんの怒りをおさめないことにはどうにもならない。眠らそうかと思ったけど今まで眠ってたし、なにか美味しいものでつるかって思ったけどそんな単純じゃないし。
気を逸らす方法として思いついたのは、ジーンが教えてくれたあの方法だけである。
「な、殴んないでね!?」
「!?」
嫌だったらぶん殴るから大丈夫、とか笑顔で言ってたので、渋谷さんの首ではなく胴体に、腕も纏めて抱きついた。
「な、なにやってんのあんた!?」
「渋谷さんこうすると固まるって聞いたから……!」
ぎゅむうと抱きしめながら松崎さんに弁解した。誰に?って皆が突っ込んでるけど、俺はさすがにそれは答えない。リンさんか森さんに聞いたとでも思ってくれ!
意外と効果があるようで、口を結んだまま動かない渋谷さんからおそるおそる離れてみる。顔を覗き込んでみても視線が合わないっていうか渋谷さんの目の焦点があってない。
俺はほっと一息ついて額の、かいてもいない汗を拭う。
「よかったあ、これでとまらなかったらほっぺにチューしなきゃいけなかったんだ……!」
だから誰に聞いたの!?という皆の突っ込みはスルーさせていただいた。



next.

本当はほりっくの雨わらしさんの「(ツケは)ヒトが払うのよ、何時かね」のネタをいれたかったけど、主人公はどっちかっていうと人間よりだし、セリフパクっても意味がないので、そのツケを払うことを理解している程度におさめておきます。
July 2016

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