Prism.


16

何日か滞在していると、とある小学校の調査を依頼された。
町で買い物をしたときか、それとも湖の遺体探しの関係か、とにかく俺達の存在は町で少し目立ったらしく、そこから村長や助役たちが訪ねてやって来たのだ。
渋谷さんが引き受けた後、心配した管理人さんが危険だから辞めた方が良いとこっそり教えてくれたけど、俺達は細心の注意を払うということで小学校に行ってみた。

調査中、雨に降られて校舎内に入ってしまい、俺達は閉じ込められた。
ケロちゃんが嫌な予感がすると言ったとおりで、窓を破ろうとしてもできない。
「……少なくとも、ここになにかがいるのは本当だったんだ」
「そのようだな、まさか本当に居るとは思わなかったが」
「あんた気づかなかったの?」
「え、俺?幽霊は専門外だというておろーに」
松崎さんがちらっとこっちをみてくる。俺を原さんと同枠で考えないでいただきたい。
「ケルベロスさんはなんや感じはりますか?」
「妙な気配がしたんは、建物の中に入ってからや、すまんな」
ブラウンさんはケロちゃんは二人して関西弁だから話してるのが何か面白い。
ケロちゃんが感じることがあるなら、俺も感じられるのかな。目を瞑って気配を探ってみる。
「———先生……」
「どうしたのよ」
「え?」
ぱちりと目を開けると松崎さんが俺の顔を覗き込んでいた。首を傾げたら、今先生って言ったでしょ、と言われる。そんなこと言った?
「同調してたんやろな」
「ほえー」
ケロちゃんの指摘に、ふむふむと頷いた。
「もう少し何かよめないか?」
「んー、子供がいるかな」
「人数はわかるか?」
「一人じゃないってのは、なんとか」
「先生と言うのは?」
「自覚ないからわかんない」
俺はふーと息を吐いて前髪を持ち上げて誤摩化した。
渋谷さんが少し考えてから腕を組む。管理人さんが前もって話してくれたうわさ話と、小学校が廃校になった理由は誰もが知っているから、そのことを考えてるんじゃないかな。
「おおかた、想像はつくがな」
「原さんが帰って来たら見てもらうしかないね」
「ま、なんとかなるんじゃない?外からなら開くだろうし」
「開かなかったりして〜」
「なんとかさせるのよ、ガラスの無い所から水と食料はさしいれてもらえるし、結構粘れると思うわよ」
松崎さんが割と冷静に言うが、さらに冷静な渋谷さんがシニカルに笑った。
「問題は僕らがどのくらい持つかということだな」
相手が何をしてくるかわからないという指摘に、松崎さんはむすっと眉をしかめた。
とりあえず防衛手段をとろうということで、ここをベースとして廊下にバリケードをつくることにした。ライターを持ってるかと聞かれて松崎さんがすぐ答えたけど、よく考えたら俺、火でも風でも水でもよろしければ雷でも出せますけど。いざとなれば。
ケロちゃん結構力強いし。あ、そういえば加勢しなくても皆何も言わなかったな。俺達が何を出来るんだか知らないんだから当たり前っちゃあ当たり前だな。

俺はどちらかというと霊媒よりで除霊は全くできないって立ち位置なのでリンさんのバリケードをつくるお手伝い係になり、ブラウンさんと松崎さんはナルと一緒にまわっている。
「天井の方は開いてていいの?」
というか、横にも隙間あるけど……と思いながら靴箱を立てた廊下を通り抜ける。
だいじょうぶです、と言うリンさんに俺は後ろで首を傾げていたけど、ケロちゃんが悪霊はまっすぐ進めないっていう俗信があるから、そういうこっちゃろと教えてくれた。屏風もそういう役目だって言われて、そういえばあったな……と知っているお家の屏風を思い出す。
「———”おめつけ役”ですか?」
「え?」
俺はケロちゃんとそろってリンさんを見る。
「以前ブラウンさんから、木之本さんはおめつけ役の方に占いを教わったと聞いたので」
「あ、言ったね。そうそう、基本的に俺はノーマル一般人だから、何かに出会すとケロちゃんが教えてくれるんだよ。占いもその流れで」
俺の話とかしてるんだあ、と思ったけどそこは今聞かないでおこう。
「博識ですね」
「まあな、わいは伊達に長生きしとらんで」
「関西で関西弁も学んだしな」
「あっはっはっは」
冗談を混ぜると、ケロちゃんもお腹をぽんぽこりんと突き出して笑った。
一度集まって簡単にミーティングをしてから皆で校舎内をまわってみる。ふいに二階で、物音がした。声みたいなものとか、軋む音とか。
「なんかおるな」
「いってみよう」
リンさんが様子を見る係で、それを誰かがついて行くわけだ。渋谷さんは責任者だからまず残るし、その守りにブラウンさんと松崎さんをおまけでつけたら、リンさんの命綱は俺と言う事になる。悪いがケロちゃんは貸せないんだな、俺のお守りだから。
階段を塞ぐ壁には、人がしゃがんで出入りできる程度のドアが作られているので、俺はそこを開けたまま待つように言われたけど、それってリンさんが一人で立ち向かうってこと?
「いや、俺も行くよ」
「……あきらかに、何かがいますよ」
「うん、いざとなったらケロちゃんに飛び乗って逃げるさ」
「まかしときや」
「わかりました」
おっきなケロちゃんを見てるだけあって、リンさんは納得してくれた。
松崎さんが階段の隙間の出入り口を開けて向こう側で渋谷さん達と待っててくれるから大丈夫。そう思って階段を登りきると、うめき声が止んだ。
「え?」
「なにか……」
その瞬間、ものすごい揺れがおこり、よろけた俺はリンさんにつかまる。リンさんも俺の肩を支えるように手を回して身構え、ケロちゃんはとりあえず俺の頭にひっついた。
ポルターガイスト的な物が終わると、本当に何も起こらなくなった。
「なんだったんだろ、今の」
「見回ってみましょう。くれぐれも私のそばから離れないように」
「う、うん」

ひとしきり教室を見回っても何も見当たらず、俺達は肩透かしをくらった気分だ。
「なにも、ありませんね」
「誘い出されただけ?」
「!たしかに、そうかもしれません。ナル達の所へ戻りましょう」
人数を減らしたかったのかもと考えててきとうに言うと、リンさんははっと目を見開いた。足早に階段を下りたが、松崎さんが開けておいてくれているはずのドアは閉まっている。まさか開かないなんてことは……と思ったけど、開いた。
「あれ?誰も居ない……」
「移動したんでしょうか」
身体を閾から半分だけ出していると、リンさんが顔をのぞかせてくる。俺と被り気味なのは、急にドアがしまったりしてはぐれないようにするためなので、リンさんがせっかちなわけじゃない。
「でも、人の声や物音もしないよ?」
「おかしいですね」
俺とリンさんは立ち上がり周囲を見渡す。
渋谷さん達が奇襲にあってるのだとしたら、なにかしら気づく筈だ。
「隠されたかもしれんな」
「どういうこと?」
「まだ建物のなかに巫女の姉ちゃんの気配がある、せやから異空間に連れてかれたわけとちゃうねん。ただ、ワイらに見えへんようにされとる」
「なんじゃそりゃ……っていうか、なんで松崎さん限定?」
「地の力が強い系統や、あの姉ちゃん」
「え、そうなの?ごぎょーしそーってやつう?」
「そんなもんやな」
「じゃあ他の人にも系統とかあるの?」
「わからん」
がくっと頭をもたげた。



next.

私のおさえているリンさん愛が弾けている……。
綾子の浄霊をやってないから、あの、ポンコツ巫女から脱してなくてごめんって思ったけど皆本気でそう思ってる訳じゃないと思うし……その、いずれ知るってことで。
ケロちゃんは実は才能?を感じてて、ええねえちゃんやなって思ってそうな……。
屏風のあるおうち、最初は小狼の実家にしようかと思ったけど……”ミセ”にもありましたよね(意味深)
Sep. 2016

PAGE TOP