Prism.


19

リビングへ行くと、松崎さんが全員の分のお茶を入れてくれていた。勝手に使って悪いわね、と言うけど俺としては助かるし、むしろ申し訳ないくらいだ。
雪兎さんと二人並んでソファにすわると、全員がほんのり雪兎さんを見ているような気がする。
ブラウンさんと滝川さんと渋谷さんとリンさんだけは一回会ったことあるんだっけ。
「この人は、月城雪兎さん。兄の同級生」
「あ、以前言ってた……?」
安原さんはそういえばと思い出すのでこくりと頷いた。
「なんでお兄さんの同級生がここにいるのよ」
「えーと、俺の友達でもあるから?」
「あんたが呼んだわけ?怪我してるんだからわかるけど……普通お兄さんの方呼ぶわよね」
「まずどうして怪我したのか聞こーぜ。いや、その前に、身体は大丈夫なんだよな……?」
「うん、骨や内臓に異常はないと思う。軽い打撲と擦り傷で済んだみたい」
「攻撃されたんですか?」
滝川さんとブラウンさんが話を進めてくれるので、俺はティーカップをテーブルに置こうとして雪兎さんに奪われた。ありがと。
「ううん、攻撃されたんじゃない。ただ、入り込んだら同調してしまったみたい」
斜め向かいに座っていた渋谷さんが少しだけ眼を見開いたのが見えた。
「……バスの事故に?」
「うん、俺も事故に遭ったみたいに、真っ暗なバスの車内にいた」
下手したら致命傷を負うなどしていたってことが、皆はわかるようで真剣な顔になる。
「浄化の光が見えたって、原さんが言っていましたけど。それはじゃあ木之本さんがやったってことですか?」
「ああ、あれ浄化の光ってやつなんだ」
「ええ……とても綺麗な光でしたわ。子供達も先生も、彷徨っていた魂も全て昇ってゆきました」
原さんの言葉を聞いて安心する。
「そう、まあ俺は単純に霊にコンタクトをとって、説得をしたわけ」
「簡単なことのよーに言ってるが、おまえさんすげーな。霊媒じゃないだろ」
「うーん?」
霊媒じゃなきゃ駄目ってことはないだろ。普段霊が見えない人でも霊を見てしまったりとかするし、魔を除けるのと霊を近づけさせないことは一緒に出来てしまったりするんだから。
確かに俺は霊に縁がなかったけれど、居合わせたときに効くこともあるわけだ。
「もともとの才能やろな」
俺は基本的に無知なので、ケロちゃんがまとめてくれた。
才能って?と皆が首をかしげているなか雪兎さんとケロちゃんは顔を見合わせた。雪兎さんは月の記憶も知識もないけれど、妙なところでケロちゃんと通じ合ってるところもある。
「片目の兄ちゃんなら、もうわかるやろ?」
「———木之本さんはクロウ・リードの血縁ですか?」
「クロウ・リード?」
渋谷さんが少し首を傾げた。俺は、俺ってクロウさんの血縁なんだっけ?と思って答えに戸惑っているので、リンさんがまずクロウさんの説明をしてくれた。
「クロウ・リードは強大な魔力を持った、稀代の魔術師と言われた男です。生業は占い師だったと聞いています」
「中国人、か?」
「香港とイギリスのハーフだよ」
滝川さんの問いに、俺は簡単に答える。
「じゃあ木之本さんは香港とイギリスと日本の血が入ってるってことですか?」
「いや、俺の場合は……ちょっと違うんだよね」
「クロウは自分がが死ぬとき、魂を二つに分けた……その片方が父親やった」
みんながぎょっとした。
「じゃあその強い魔術師の半分の子供ってこと?」
「せやけど、当初父親に記憶も魔力もあらへんかった……それに」
「俺の魔力はクロウさんよりも強い、らしい」
「らしい?」
「だって、全力出そうって思ったことないし。出しちゃったらヤバいっぽいし」
ぽへーっとした顔で言うと、滝川さんががくっと項垂れた。
「お、おまえなあ」
「クロウ・リードの力は歴代最強で……過去や未来などあらゆるものを見たと聞きます。己の死期や、他人のそれまでも。ですから、木之本さんが力を発揮しないことは正しいことなんです」
ブラウンさんと松崎さんが、リンさんの言葉を聞いて気遣うようにこっちを見た。苦笑すると、雪兎さんが俺の背中をさする。
「リンはなぜ、そのクロウ・リードの血縁だと知った?」
「木之本さんの占いで使うカードに、覚えがありました」
「カード?」
「これね」
基本いつでも持ち歩いてるので、渋谷さんに見せる為にテーブルの上に置いた。
そういえば前に本物出した時、渋谷さんはおねんねしてるところだったっけ。
クロウカードは今俺のカードに作りかえられているけれど、クロウカードと非常に似た作りをしているので、リンさんはクロウカードの存在を知っていて、俺のカードを見てはっとしたんだろう。
「このカードはかつてクロウ・リードが作り出した全く新しい魔術です。道士や魔術師の間で、クロウカードは有名で、危険なものとされていました。世界に災いをもたらすとも……。カードはクロウの死後行方知れずとなりましたが数年程前、後継者が見つかった———」
リンさんの眼がこっちを見た。
「それが、あなたなんですね」
俺はゆっくりと頷いた。小学生の頃、父親の書庫でこのカードを見つけた事。ケロちゃんがカードの番をしていたが眠っている間にカードが抜け出し散らばってしまったたこと。それを俺と小狼が集めたこと。
リンさんは小狼の名を聞いて、また口を開く。
「やはり、李家の」
「うん」
「李家って?」
安原さんがきょとんと首を傾げる。
「クロウさんのお母さんの実家。今でも魔術師の家系で、香港では有名らしいよ」
「ああ、だから香港に挨拶に行ったとか」
「そうそう」
滝川さんがしっくりきたと言わんばかりに手をたたく。
ところで俺は何でこんなに身の上話をしてるのか。魔法見せてとか言われたらめんどくせえなって思ったけどさすがにリンさんは何も言わないでくれた。
皆はクロウさんの話をしたことである程度俺の秘密について納得したようだ。
月は付き合いが良いタイプじゃないので、雪兎さんから変わって姿をみせることもなく、リンさんもやっぱりそこを察して何も言わない。雪兎さんと月の関係に気づいているかはわからないけど。

ひとまず渋谷さんは浄霊が成功したのでもう良いと判断したのか、助役に責任をとらせると言って席を立つ。リンさんも一緒になって部屋を出て行きしばらく戻ってこなかった。

俺はその日の午後に滝川さんの運転で近くの病院へつれてってもらって、手当を受けて来た。
松崎さんと安原さんはその間に買い物をするらしく一緒に車に乗る。雪兎さんは当然俺の付き添いでついてきた。
「そういや雪兎さん、お兄ちゃんに連絡した?」
お父さんには軽く怪我をした報告をして、大丈夫?行こうか?って連絡をもらったけどお兄ちゃんには連絡してないし、こない。
「うん、とーやには言ったよ」
「あああ」
頭を抱えていると、滝川さんがにんまりわらった。
「なんだ?おにーちゃんに怒られるってか?」
「うー、まあ。……怒ってた?」
「口ではね。でも多分ショック受けてると思う」
「はえ?」
「だって、自分では何も言ってくれないじゃない」
「だってお兄ちゃん意地悪だし……」
「仲良いんだな、おまえら兄弟」
「とーや、実はブラコンだから」
雪兎さんはくすっと笑う。お兄ちゃんが俺の事大事にしてくれてるのは分かってるけど、素直じゃないから面倒くさい。まあ雪兎さんほど素直に甘やかせとは言わないけど……。それはそれで困るし。
「あ、お父さんがベストだな」
「なんだよ急に」



next.

ファザコン(言った)
Oct. 2016

PAGE TOP