01
高校に入学して、大輝は相変わらず部活の練習には出ない。しょっちゅう俺と一緒に帰ったり、ゲーセン遊びに行ってみたり、だらだらしてる。監督さんは練習に出なくても試合に出て勝てば良いと、了承してるらしいけど、そんなこと言ってるから中二が治らないうえに悪化して態度がでっかくなるんだろーが。マジバでハンバーガーをもしゃもしゃ食べてる大輝をねめつけた。「あんだよ」って睨み返して来る大輝は、最近ますます人相が悪い。ただし大輝のお父さんの方が貫禄あるし、大輝なんて怖くない。睨んだ所をカメラに抑えて、俺の大ちゃんメモリアルに入れてやることも辞さない。
「キミが桃井くんか」
「へ?」
ある日先輩っぽい貫禄のあるお兄さんに校内で話しかけられた。ちょっと関西弁のイントネーションで、胡散臭そ〜な顔してるので、第一印象はいけ好かない眼鏡だ。
「青峰の幼馴染みなんやて?」
「そーですけど、あ、大輝の先輩ですか?どうも日頃お世話になってます……ます?」
お世話されるほど部活いってねーな、そういや。
「せやな、あんま世話しとらんわ」
「まあ……ご迷惑はかけてるような予感はしてますけど」
「……」
ちょっと困ったように笑った先輩に、俺も苦笑が零れる。絶賛反抗期で申し訳ない。
俺が謝りたいのはやまやまなんだけど、無関係な俺が謝っても意味が無いし、多分不愉快だろうから謝らんどこ。まあ大輝に何かあったら俺をよんでくれてもいいけど。
「何かご用ですか?」
「いやな、よく一緒におるやろ?気になってたんや」
「はあ。でもあの、俺は部活行けとかは言えませんけど」
「あーそれはええねん」
先輩は手をひらひら振った。これ大輝諦められてるわ〜。
「試合にはなるべく行かせますんで。あ、携帯教えときます?」
「悪いなあ」
ごそごそと携帯をポケットから出すと、先輩も出して向き合う。
「おかしなアドレスやなあ」
「よく言われます、いまよしせんぱい?」
「せやで」
アドレス帳に表示された名前を読み上げると、先輩は肯定した。
「あーキャプテン!」
「お、なんや聞いとるん?」
「キャプテンと、良くんと、あとなんとかさん」
「全然駄目やん!なんとかさんて誰やねん!」
「五月蝿い人と静かな人が居るって」
ほわっほわな知識を披露してみたが、キャプテンと良くんしか結局覚えてなかった。だって大輝前程部活出てないし、バスケの話しないし。マイちゃんのスリーサイズとかビキニの種類の話ばっかりなんだもん。
良くんは大輝のクラスメイトで、ぺこぺこしながら時々部活いこうって大輝を誘ってるから覚えてた。そういえば、なんだかんだ下の名前で呼んでるんだよね。珍しい。ちっこいからかな?あ、いやよく考えたらちっこくはない。俺よりちょっと大きいもんな。じゃあ、害がなさそうだからかな?
「ま、よろしくたのむわ」
「あーい」
先輩はため息を吐いたあとぽんぽん、と軽く頭を撫でて去って行った。
それから数日後、早速今吉先輩から電話があった。
大輝きゅんはインターハイの決勝リーグに大遅刻だそうです。
『桃井はどこにおるん?』
「俺も会場ですよー」
テツくんが活躍する様をこっそり覗きに来ているのである。
今吉先輩の指示で控え室に呼び出されて、俺の携帯からも大輝に連絡を入れてみる。なんだあ、こんなことなら一緒に連れてくれば良かったなあ。さすがに今回は普通に来ると思ってたんだけど。
ぶつぶつ文句を零しながら電話をしてみると、思い切り寝起きの声で『あ"い』って大輝が返事をした。
「大輝今どこ?何してんの?」
『なにってか……学校で、あ、あーワリ、寝坊だわ』
「学校で寝てたみたいです」
困った顔で今吉先輩に携帯を渡すと慌ててとられる。
「寝坊ー!?青峰!あとどれくらいで来れる!?」
俺は先輩と受話器の向こうの大輝のやり取りを聞きながら、額に手をあててため息を吐いた。
「まいったの〜」
「すいません、ふつーに来ると思ってたもんで」
「まーしゃーない、スタートはオレらだけでボチボチやるしかないなー」
電話を一方的に切っちゃったけど大輝は一応来るつもりはあるらしい。携帯を今吉先輩に返してもらって、今回は俺も監督不行き届きってやつだなーと顔をしかめる。
結局大輝は遅れてやってきて、テツくんたちは負けてしまった。
黄瀬との試合も中々白熱してたけど、無茶して肘に負担がかかってるのが、俺でもわかった。というか、俺は大輝の事しか分からない。普段の様子と、大輝のプレイだけは、誰よりも分かってるつもり。
だから、原澤監督に進言して、試合に出ないように説得したんだけど、どうやら無理矢理スタメンから外したあげくに俺からの情報だってしゃべっちゃったらしい。絶賛大輝に怒られ中。
「余計な事言ってんじゃねーよ!」
「余計じゃないだろ、肘痛めてバスケやってどーすんの!」
「オレのことはオレが決める!指図すんなよブス!」
「ブスぅ!?」
お前悪口のボギャブラリー少なすぎる上にチョイスが小学生だし、ブスって男に言う言葉じゃないような気がする。いや、でも腹が立ったので有効。
おまけに、「昔から保護者面しててうぜー」とか「二度と顔見せんな」とか言われて、結構ショックを受けた。大輝がカッとなって言ってることは分かってる。だって大輝は俺の事を今まで疎んじたことなかった。嫌われてるなんて思ってない。それに、俺は毎日そこまでひっついてるわけじゃない。
ただ、癇癪を起こしてるだけだろ?そうだよね?ね?
……でも、ずっと可愛がってた大輝に面と向かって言われるのが辛かった。
「そーかよ……」
「あ、オイ!」
大輝にこれ以上拒絶されるのは嫌だから、俺は苦笑して背を向けた。
引き止めるな馬鹿、お前は傷心中の俺をこれ以上傷つけるつもりかこの野郎。
テツくんも、大輝に酷い事言われて、こんな気分だったんだろうなあ。
雨に打たれつつ、頭を冷やしながらとぼとぼと向かった先は誠凛高校だった。今、無性にテツくんに謝りたい。
next.
桐皇編お待たせしました。さくさく進めます(いつも通り)
Sep 2015