04
テツくんたちのWC出場が決まった。本戦が始まる前の練習試合で、近くの旅館に誠凛が来てるらしく桐皇もついでに寄るつもりだから「お前も来れば?」って大輝が珍しく誘ってきた上に今吉先輩も許可してくれたのでマネージャーを手伝いながら同行した。多分WCの本戦のトーナメントを偶然拾って来た俺へのご褒美だろう。ヤッタネ!
大輝は汗かいてないから風呂にはすぐ入らないって言うので、俺も部活の皆と入るのは辞めておいた。別に裸の付き合いが恥ずかしいとかじゃないけど、多分テツくん今入ってるんだろうし……テツくんにはさすがに照れくさいというかなんというか。
しかしテツくんはのぼせて風呂から上がっていたので、もう俺も入っちゃおうかな〜という気にはなっている。
大輝がスポーツドリンクをあげてるのをみて、人に飲物差し入れる甲斐性があったんだなあ、と思いながら火神くんたちと挑発し合っている青春シーンを影から見守った。そんな所に居られたら俺が風呂入り辛いじゃん……。
「おい、いつまでそこにいんだよ」
「桃井さん」
「あ、お前」
大輝に指摘されたのでそろりと顔を出すと、テツくんと火神くんがこっちをみた。
「あはは、俺もお風呂入ろうと思って」
すすす〜と三人の前を通り抜けて、脱衣所に逃げ込んだ。
お風呂に行ったら皆居ない。あれ?もう出たの?でもすれ違ってないのに……と戸惑いつつ身体を洗っていたらサウナから若松先輩が出て来て水風呂につっこんで行った。ああ、皆サウナ入ってるんだ。え?誠凛も?修羅場?
「おう桃井か」
「ども、おつかれさまです」
水風呂に入って復活したらしい若松さんが俺に気づいて一声かけてから、またサウナに戻って行った。
男子高校生らしく、我慢比べをやってるみたいだ。
風呂から上がると大輝もテツくんも火神くんも、もう既にさっきの所には居なかったけど、広間の方に行くとテツくんが犬を抱っこして休んでいた。
「え、なにその子」
「二号です」
「へえ」
一緒にお風呂に入っていたらしく、タオルで包まれてる塊を覗き込む。正直二号の意味が分からなかったけど、顔をみた瞬間に理解して失笑した。
「テツくんだ!」
「はい」
足元にしゃがんで、テツくんの膝の上にのしかかりながら二号の身体を撫でさせてもらう。ボディーソープで洗ったのか、知ってる匂いがした。
「いい匂いになってんなー」
若干まだ毛がごわごわしてるけど、気にせず顔を近づける。
「あの、桃井さん」
「あ、重かった?」
「いえ」
言い難そうに声を掛けて来たテツくんに、慌てて身体を離す。
よく考えたら足に抱きついてるようなものだったかな。
隣のソファに座って、二号を撫でなおすとテツくんが「桃井さんもいい匂いですよ」って不意打ちで囁いて来たのでびっくりした。
そ、そりゃ、同じお風呂入ったもんね!
「湯冷めしないように」
「あ、ハイ」
テツくんの手が二号の毛並みを撫でる為に伸びて来て、俺はその言葉とともに自然と手が離れた。なんか調子が狂うなあ。
まあ、ある意味コレが正しい対応なのかもしれない。告白したものとされたもの?あれ?でも俺がされた方なんだから分があるのは俺なのでは……いや、した側のがもうどうにでもなーれって開き直れるかな?
本戦の、俺の本命、桐皇と誠凛の戦いはすぐにやってきた。大輝がまた笑ってバスケをやるために、テツくんが吹っ切れるために、良い戦いであってほしい。
俺は心のどこかでやっぱり大輝が凄く強いって信じちゃってるから、それすらもテツくんに覆して欲しい。
「あれ?緑間くんだ」
「桃井……?」
空いている席の隣に、緑間くんを見つけてつい声をかけた。
今までの試合も観てたし、時々すれ違ってたりするけど高校に入ってから声をかけるのは初めてだ。眉をしかめた緑間くんの横で、同じく一年レギュラーの高尾くんがきょとんとしてる。
「知り合い?」
「中学の同級生なのだよ……女生徒だと思っていたが」
「え!?」
高尾くんが今度はキョドっと身体を揺らした。待て、その言い方だと同級生とオカマバーで再会したみたいなニュアンスに聞こえるじゃん。いや間違ってない、間違ってないけど。
「当時性別反抗期で、女装してたんだよね〜」
「そうだったのか」
「なにそれ!?」
緑間くんは普段は常識的なんだけど、興味ない時のスルースキル半端ないと思う。在学中に性別知られてたら、非常識だって怒られてたかもしれないけど。でもまあ変なラッキーアイテム持ち込んでたし人の事言える程まともじゃないよね。
「気にしない、気にしない。隣いい?どうも失礼します」
奥の方には先輩もいるので会釈して座る。三人の大きい人達は一応俺に黙礼してくれた。
「開会式の後、赤司から呼び出しがあった」
「そうなんだ」
「青峰も来ていたぞ」
「大輝とは別行動に決まってるでしょーが」
「なになに、青峰の知り合いなの?」
「幼馴染み。俺も桐皇なんだ〜部活入ってないけどね」
もそもそ喋り出した緑間くんの奥から、高尾くんも話を聞いていたようでひょこっと顔を出して来た。
「へえ、青峰の幼馴染み。なんか大変そう」
「幼馴染みと言うよりは、お母さんなのだよ」
緑間くんの突っ込みにより、高尾くんがブファッ!と噴き出した。
「お父さんだよ」
「そういう、も、問題なんだ!」
プクククッと笑う高尾くんはひぃひぃしながら息を整えている。
「赤司くんと紫原くんには会ってないんだけど、元気そうだった?」
「ああ」
紫原くんと緑間くんあたりは病気を発症したというよりも、もともとひでえ病気だったようなもんで、徐々に大人になって落ち着いて行くタイプだからあんまり心配はしてない。黄瀬もどっちかっていうとそっちで、結構負けるようになったし、相変わらず捻くれてて性格は悪いけど大人になりつつある。問題は、急に発症しちゃったタイプの大輝と赤司くんなのだ。赤司くんは見てなかったし、手を出す気もなかったから、どうなっちゃったんだろうなあ。
「赤司くんこじらせてない?大丈夫だった?」
「……猟奇的だった」
「え」
「黒子に付き添って来ていた火神に、鋏を向けていたのだよ」
「鋏!?あの人凶器持参したの!?」
「いや、鋏はオレのラッキーアイテムだ」
「しまっとけよ……幼児と赤司くんの目の届く所に危ないものを置くな」
「……」
黙る緑間くんと、笑いを堪える高尾くん。
その後赤司くんは鏡も見ずに前髪を切ってみせたらしくて、二の句がつげなかった。
脳みそポイズンすぎる。
「っっっっっ!!!!」
大輝が負けた。途中から楽しそうにしてるだけでも、俺は嬉しかったんだけど負けてるところを見てもっと嬉しくなってしまった。なんかごめん。
満身創痍なテツくんが火神くんに支えられながら、大輝と拳骨を合わせている。
「泣くな、絡むな」
「な"い"でな"い"よ"お"」
「涙声だね〜」
ばっと口をおさえて身悶えると、緑間くんの腕に頭がどっとぶつかる。しかも冷たい事を言うし、高尾くんはニヤニヤしている。お前らに俺の気持ちがわかるかよう!大輝が負けたことに!テツくんが、大輝に勝った事に、意味があるんだ!
試合の後テツくんの控え室に行ってみたら、どうも皆力抜けて寝ちゃってるみたいで、試合に出てない一年生と相田さんが苦笑していた。
「あの、おめでとうって伝えてください。メールもしときますけど」
「ええ。……ねえそれより桃井くん」
「はい?」
「黒子くんとはどういう関係なの?」
相田さんがきゃるんっと笑って聞いて来た。
他の三人の一年生も、相田さんとともに興味津々で俺を見てる。まて、下手したらホモっていうか下手しなくてもホモな話だから。最近の高校生はそっちも寛大なのか?
「んー、ないしょ」
テツくんに何も返事してないし、テツくんの事を考えて友達だよって言うのは逆にテツくんに失礼な気がした。
人差し指にちゅっとキスをして冗談っぽく笑うと、四人はぐっと黙って、俺から答えを聞くのは諦めたようだ。
大輝は案の定負けたことでぐるぐるして、滅茶苦茶バスケがしたい気分らしいので俺はほっこりしながらバッシュの買い出しに付き合う事にした。ただし途中ですっぽかされた。あとから聞いたらテツくんにシュートを教えていたらしく、仕方なく許した。
テツくんにはWCの試合が終わったら会おうって連絡入れてるので、俺はそれまでは普通に応援するつもりでいる。勿論大輝も連れて行くし、多分ついてくるだろう。
あれから紫原くんとの試合とか、黄瀬と灰崎くんの試合とか、緑間くんと赤司くんの試合の観戦をして結構お腹いっぱい気味だ。バスケ好きだから飽きはしないけど、赤司くんとか灰崎くんのチームはやっぱり俺の好きなタイプではなくて苦手だった。黄瀬はよくやった。黄瀬に報復にいこうとした灰崎くんをぶん殴った大輝もよくやった。
黄瀬はホント、わりと早いうちに負けたからか、良い先輩が多かったのか、成長が目覚ましい。テツくんたちにもまた負けちゃったけど、今のお前はめっちゃ輝いてるよ!モデルやってる時よりちゃんと格好良い。
とうとう決勝で赤司くんとテツくんが戦うことになったんだけど、未だにテツくんがここまで来られたことが信じられない。失礼な話だけど、まるで物語を見ているような気分だ。
そういえば当初、ラノベかよって思ってた時期もあったけど結局俺に思い当たるのがなかったから忘れていた。
大輝か俺が主人公かとも思ったけど、ここまでくるとテツくんが主役なのかもしれないなあ。やっぱ俺ってヒロインだったのかな。
へらっと笑っていると、大輝が「なんだいきなり笑いだして、気持ちわりいな」とかぶっこいたので足を踏んでやった。
next.
懐く主人公に、ああまったくこの人は……って前までは思ってたけど、テツくんは男前なので、半分くらいは役得だなと思っています。
試合のシーンほぼカットですいませんね
Sep 2015