04
光り輝くおしゃぶりを見て、抜け殻の俺ではなく魂のある俺が必要だと思った白蘭が、俺を地の果てまで追いかけると宣言した。そしてボスである俺の裏切りの咎は、残されたブラックスペルに贖わせると。「まあ、奴らはユニちゃんにゾッコンみたいだから、煮られようが焼かれようが大喜びかもしれないけどね」
ふふっと笑う白蘭の声に、目を瞑る。
沢田さんは仲間を人質にとるなんてと非難の声をあげた。
「それでも、アルコバレーノを白蘭には渡せない」
「え、でもそれって……!!仲間を見殺しに……!?」
沢田さんのストレートな言葉に耳が痛い。
肩をすくめて堪える。
「ユニに守って欲しいと頼まれたのはお前だ、どうするんだ?」
「だ、だって、この子の仲間が……」
琥珀色の瞳が揺れながら俺を見る。
「知ってる。だからこうするしかないんです」
白蘭から視線を背けて沢田さんを見つめ返す。
仲間に手を出さないで、なんて生ぬるいことは言えない。
「オレたちと一緒にくるんだ!!みんな、この子を守ろう!」
沢田さんははっとしてから、俺の体を強く掴んで決断してくれた。
さすがボンゴレファミリーのボス。10年前からこんなに強い人だったんだ。
「ありがとうございます」
未来もきっと、明るいぞ。
並盛という町にあるボンゴレのアジトへなんとか逃げ果せ、俺はボンゴレのみなさんにまず深く頭を下げた。
おじさまや沢田さんはもちろんのこと、守護者や女の子たちも歓迎してくれる。自分のファミリーを思い出した。
ビアンキさんがとにかく一度着替えましょう、と言ってくれたが俺はすぐに奇襲がくると思ったので首を振る。
「ユニ、そこまで見えるのか……?」
おじさまが丸い瞳で俺を見上げるので、神妙に頷いた。
この時のことは結構はっきりと見えていた。まあやることが多すぎていちいち言ってられないんだけど。
「すぐ、ここから」
逃げましょうと言おうとしたところでやっぱり襲撃を受けた。やっぱりなあ!対応は間に合わねーんだ。
スクアーロさんが足止めをしてくれるというので、振り向きながらお礼を言う。
……この人が苦戦することも知っている。
おばあちゃん、お母さん、クロウさん、未来を見るのってこんなに辛いんだな。
走りながら、沢田さんやハルさんたちの背中を眺めた。
小柄な体はたやすく息が上がる。
引けを取らずに走れる赤ちゃんたちすごい……。
川平不動産に逃げ込むと、自称川平のおじさんとやらが、追って来たザクロを追い払ってくれた。この人何者なんだろう、……俺にはわからない。
クロウさんに似た笑い方をするなあ、と思いながらも出て行く彼に頭を下げた。
山本さんはアジトに残ったスクアーロさんを見に行くため、ビアンキさんとジャンニーニさん、スパナさんはそれについて行くと言って川平不動産を出ようとする。
俺は引き止めようとするが、沢田さんたちの会話になかなか入れない。
「あの」
「ユニを頼む。寝てるランボにもよろしくいってくれよな」
「待っ」
山本さんやビアンキさんは俺をちらっと一瞥する。
「ありがとうはいらないわよ、私たちは自分の意思で行くんだから」
ほっぺをぷにぷにされて、美人に微笑まれた。うぐう、違うのに。
「だめです、まだ」
「ランボさんも一緒に遊びに行くもんね!!どこ行くの!?どこー!?」
「あ……!」
ランボさんがガハハハと笑いながらドアを開けてしまた。目では追えないが、敵が入り込んだとわかる。山本さんたちは気づかず行ってしまったし、……おええ、どうしたらいいんだ。
「ユニ?」
「おじさま……」
ぶるぶるした俺に気づいたおじさまが顔を覗き込んでくる横で、クロームさんが顔を青ざめさせる。すると京子さんが気づいて肩を抱く。
「まさか敵が!?」
「戦闘配置につけ!出入り口を固めろ!」
「はい!!……ザクロが戻って来たのかも」
みんなが気づいたが、ドアの方へ行ってしまった。俺と女の子たち、子供を奥にやる。
自然にランボさんが近寄って来た。
ソファから後ずさるけど、俺には逃げ道がない。
「ボス!牛の子……!」
「ん!?ランボがどーかした?」
「ぐぴゃ?」
クロームさんと沢田さんが異変に気付いたが、もこもこの髪の毛が影のように歪み俺を捉えるのは一瞬だった。
川平不動産にいることは、ザクロからではなく白蘭の能力によって突き止められていた。俺を捕まえたトリカブトに加え、上空ではブルーベル、桔梗が待機しており出入り口を攻撃した。
これ、マジで連れて行かれたりしないか、と不安になるが信じて待つ。
未来が見えても戦闘能力も動体視力も普通の子供並みなので、急に俺を抱いていたトリカブトが襲われればそりゃあ驚くし、タイミングなんて読めるわけがない。
一瞬で実態を消したトリカブトから落っこちそうになった俺に、電気を纏って光る黒い狐がよりそってくる。実際にバチバチはしない、信頼の置ける親しい二匹。コルルとビジェットは、γのものだ。
「お怪我はありませんか?……姫」
「ないよ……待ってた」
俺をしっかり抱きとめてくれたのはγだった。
それから野猿と太猿も加勢にきてくれる。
本当に生きている姿を見られてよかった。
クロームさんの能力が開花し、沢田さんがトリカブトの技を打ち破ると、桔梗とブルーベルは撤退していった。
川平不動産はぶっ飛んで消えてしまったので、俺たちは街から少し離れた森の中に潜み野営することになる。
負傷した野猿と太猿、獄寺さんや笹川さん、それからもともと寝たきり状態の入江さんを休ませることが先決だ。
しかし手当を手伝ったり飲み水の準備をしてたら、獄寺さんとγ、入江さんと太猿や野猿が険悪な雰囲気になっている。んもう、血の気盛んなんだから。
「野猿、喧嘩しない」
「姫様!仲良くしてるって!」
野猿をじとっと睨むと慌てて取り繕う。
「すみません入江さん」
「いやっ、ぼ、僕も言いすぎたし!」
嫌味を言われた入江さんに謝ると、彼も言葉がすぎたと反省した。形だけであろうが、歩み寄りの姿勢を見せたことにほっとして、ラルさんに水を差し出す。
彼女は俺をじっとみて、ほんのわずかに笑った。
「祖母や母とは、あまり似てないでしょ」
「……ああ」
リボーンおじさまにかつて言われたことを思い出してラルさんの考えを言い当てる。
俺がたとえば何も知らなかった女の子であれば、似るのかもしれない。
「ユニ、お前はアルコバレーノの誕生の時のことは知っているのか?」
「そうですね、記憶の断片に存在しています」
どのタイミングで認識したのか今ではもう覚えていないが、俺の記憶ではないものが多数ある。それは祖母や母のものだったりするんだろう。
「ルーチェは……先を見通す不思議な力をもっていた。お前にもあるのか?」
「さ、先を見通す力って……!?」
ラルさんの問いかけに、そばにいた沢田さんが驚く。
「さっきも、奇襲に気付いていたな」
「はい。……なのに、力になれなくてすみません」
おじさまは俺を慰めるように足に小さな手を置いてぽんぽんとした。
「あれだけ慌ただしかったんだ、しかたないだろう」
「……本当は随分前から、力が弱まってるんです」
「え、でも」
「ミルフィオーレが結成されたころから、沢田さんがくることや、こうなることを知ってただけ」
「まさか姫、……白蘭にとらわれることもか?」
γははっと気付いて俺の顔を見る。肩をすくめながら頷くと、悔しげに目を瞑った。
う、何も言わずに白蘭の言うがままになる未来を選んだのは悪いと思ってるよう。
「沢田さんやγが助けに来てくれることも知ってたから、ああするのが一番だと思ったんです」
「だからって姫!あまりにも危険すぎる。それに、オレたちはずっと……」
「うん。みんな、よく耐えてくれた」
謝るよりも労った。
話を戻すが、俺の力が弱まっているのと同様に白蘭も同じく弱まっている。
今はおそらく、相当体力を消費する上に一度の一つくらいのことしか知ることはできない、と思う。そして川平不動産にいることは能力を使ったはずなので、当分は使えない。
パラレルワールドに渡るのも楽じゃないのねってことだ。
「……でも、なんでできてたことができなくなるの?」
「枯渇とか衰えじゃないかなと思いますけど」
沢田さんの純粋な問いかけに、少し考えてから答える。
白蘭も俺も能力を一生使い続けられる保証なんてないし、莫大であればあるほど、消耗は激しいだろう。俺なんてまだピチピチだし白蘭だって若いけど、それは年齢の問題ではない。
「……たしか、代々大空のアルコバレーノは短命だな」
「え!」
「ですね。……だから白蘭も焦ってるんです」
憐憫の眼差しを向けられる前に、笑顔で返した。
next.
ルーチェおばあちゃんとは似てない方向にしました。
ぶっちゃけ主人公は誰にでも似てるって言われそうな……ある意味個性がないというか、汎用性のある人柄というか、人の思い入れあるものと似た香りを出す習性が……
Sep 2017