Universe.


02

(主人公視点)
ある日、馴染みのカフェでコーヒーを飲みながら、音楽に耳を傾ける趣味に興じていたところに相席の申し込みがあった。
俺は目が見えないので混雑状況は理解できず、間髪入れずにどうぞと言った。
ところがよく考えてみれば、喧騒がなさすぎる。そもそも、マスターには悪いがこの店が大繁盛してるとこなんて見たことない。いや見えないけど。
常連客や何人かの客がいつもちらほらいる程度だ。そうでなければ目の不自由な俺のエスコートを買って出てくれる店員はもっとせわしない態度や口ぶりになるだろう。
つまり、俺に相席を申し入れた───声色からして、ある程度歳をとった様子の───男は俺を狙って目の前の席に座ったのだ。
ゆるやかに疑惑を抱いていると、「おや、目が見えないのかい」と軽い調子で声をかけられる。ちょっとわざとらしいですね。
「……そうです、不慮の事故に遭いまして」
「君らしい理由だな。しかし、どうりで光がないと思った」
「へ?」
この男は俺の何かを知っている。
顔が見えないんで声でしか判断できない中、琴線にひっかかったのが、幼い日に見た夢の中の男だった。

あれはまだ、眼が健在であった頃。

夢の中の暗闇を進めば洒落た内装の部屋が広がり、奥には男が一人座っていた。
彼はどんな格好をしていたっけ。それすら曖昧で、でも俺が会いにきたことにはさして驚いていなかった。
「おや、驚いた」
そんな口ぶりであっても。
「やあ久しぶりだ。こんなところにいたのだね、
「……?」
一瞬首をかしげたけれど、すぐに自分の知り合いであることを理解した。
大人の指先であごを捕らえられ、目を見つめられた。
「今や君はセラピの子孫ではないようだが、……相変わらず良い眼をしている」
黙って彼を見つめ返した。
「───君を探している人がいる。……しかし会う理由はないか、もはや君は他人だ」
俺は何も言っていないが、男はひとりでに話を完結させた。
幼い体を軽々と抱き上げられたとき、掴まった肩には人並みのぬくもりがあった。
そのままバルコニーに連れていかれ、満天の星空の下にいた。
「虹の果てにも、海の因果の中にもいない。だが一粒の君が有する力は途方もないぞ」
「え……」
俺はそこで初めて口を開いた。
「大抵の力は血に宿るものだ。だから君は呪いをアリアで打ち止め、解くために生まれる血肉と道を違えた。その目論見は成功し、アリアは君を産まなかったことになり、彼女の呪いは解かれた」
そうとも。だから俺の頬の下にお母さんと同じ痣はない。……あれ、お母さん……?
「───星の力を秘めた雫よ」
眦をそろりと撫でられた。
「きみには多くの運命がついてる」
「……うんめい」
おうむ返しに呟いた。
「それはどこにいようと、君の上にある星さ。いや君自身が星とでもいおうか」
徐々に俺は理解していく。
前の人生を、いくつも。おぼろげだった記憶も呼び起こされる。
俺の使える魔法と、家族と、ともだち。
悲しくて、嬉しくて、涙が出そうになって微笑んだ。
「私はその眼を見て、きっと切り開いてゆけると確信したよ。さようなら、"ユニ"」
男は俺の頬を撫でて、暗闇の中に消えた。

起きたらすっぱりこの男のことを忘れていた。というか、思い出した前世のことが大きくて夢の登場人物にまで気を回していなかったんだと思う。

「そんなに子犬のように震えることはない」
男は喉の奥で笑う音を混ぜながら、俺をからかう。
「───たしか、おばあちゃんをアルコバレーノにした人、でしたっけ」
「そんな覚えられ方は悲しいものだが、事実だな」
相手が何か身じろぎをしたような物音がした。
おおかた足でも組み替えたんだろう。

夢の中ではたしか、アルコバレーノの呪いは解かれたと聞いた。少しの安堵と、さらなる疑問が生まれる。
「今日はどんなご用ですか?」
ふっと笑う声がした。
「いやなに、私はもう役目を終えたので暇をしていてね。余生をゆっくり送っているところで、久々に君を見つけたものだからつい話しかけてみただけさ」
「そうなんですか」
定年退職という四文字が頭をよぎる。老人の道楽とまで言ったら失礼だろうか。
でも、急に話しかけられて、一瞬だけ怖かったんだぞ。
「それにしても、私は君の目を読んで未来を知るのが楽しみだったのだがね……」
「……」
今度は悩ましげにため息を吐かれた。俺で遊ぶな。
「最近のHLはどうだい、異界や神性存在からのコンタクトは?」
「そんなの、ありませんよ」
なぜ事情まで知っている……と思いもしたが些事である。
HLなんて少し前に一度いったきり。今は実家でぬくぬく、地元ですこやか。
今のところ食いっぱぐれることもないし、ここでまだ見えぬ未来を待つのも悪くないかなあ、なんて思ってたところだ。
「あなたが来ることも予知できなかったな」
「取るに足らない用だからさ」
「……本当に?」
「そうとも。今の私には何の使命も、憂いもなくてね。君のこともさほど気にかけていなかったよ」
終始穏やかな口調の彼は、テーブルの上にあった俺の手をそっと掴んだ。
素肌の感触は紛れもなく人間で、温かみがあって、やっぱり俺より大きな手をしてるんだなって思った。
クロウさんとか、かつてのお父さんと似てるなあ、なんて思いながらも、あの安心感は襲ってこなくてある意味ほっとした。

「少し前、死ぬ気の炎がHLで感知された」
「ほえ」
ささやくような内緒話に、思わずアホな声で返す。
たしかに俺は、向こうで結構大きな魔法を使った覚えがあるのだ。
「……それって、あなただからわかることなのでは?」
「大いにある、が、ボンゴレの技術を舐めてはいけない」
「何でボンゴレ……」
「おや、違うファミリーが良かったかい?でも今や彼らは同盟ファミリーで、技術開発も色々と手を組んでいるそうだ。たとえば、この宇宙でまだ見ぬ星をさがすためとか」
なにそれ、天体にボンゴレボスの名前でもつけたいのか?
そんな事業展開の情報別にいらないんだけど。
俺の全く訳がわからんという顔を見て、男は盛大に笑っていた。



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チェッカーフェイスのなんかこう、独特にえらそうな口調が好き。地球人(?)マウントか?お?
主人公は原作後半いないから、川平のおいたんとは結局認識が一致してません。
この主人公は、クリアカード編は辿らず、星の力で魔法を使うさくらちゃんです。
正直この、星の力というワードに並々ならぬ夢を抱いている。
チェッカーフェイスの言い回しを書きたかったんです。
Oct. 2020

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