03
(綱吉視点)初めてあった時からすでに死を覚悟してるような、不思議な目をした女の子は流れ星のように消えてしまった。
未来を見るからだけじゃない、きっと死ぬ気だったからこその強い目。
オレを真っ直ぐに見てきたその目を、今でも忘れることはない。
あの子は自分のことを一切含めず、守ってくれと願った。世界を天秤にかけ、自分の命もファミリーの命もかけてみせた発言だった。
トゥリニセッテの均衡を保つ意味を一人だけ知っていて、それを壊そうとする白蘭に小さな体で立ち向かった。
ユニはオレたちに任せたいと願ってくれたけど、ユニの命と思う力によって、世界は救われた。
明るい未来を待つ平和な過去へ帰れると言ってくれたユニの魔法。
最後は、あの子のマントと帽子と───共に命をかけたいと願ったγを置いていった。
元の時代にもどってしばらくして、ユニが再び生まれることはなかったと知った。
白蘭の少しだけ昏い眼差しと、不自然なくらい柔らかな「いないよ」の声が、星の光が消えたことを、何より物語っていた。
虹の代理戦争ではユニの母であるアリアさんのチームと同盟を組むことになった。
十年後の未来ではすでに故人となっていた先代のアルコバレーノだったけれど、現在ではその役目に就いていた。
彼女曰く、「ユニ」は男の子で本名をといって、多くのパラレルワールドでは女の子であったことから本人が周囲に性別と名前を隠していたらしい。
つまりは白蘭が勢力をつける以前からの力は凄まじく、未来で起こることを予知していたかもしれないってことだ。
生まれなかったこともおそらく、アリアさんのためだったんだろう───って……。
多くの人がを思って泣いた。不在に絶望し、今生きる世界と幸福を、果てしなく遠いものに見た。
それでもオレたちは生きている世界に包まれて、光の眩しさに目を細めて笑ったり、闇に安堵して眠る日が繰り返される。
オレたちが甘受してるのはがくれた宝物だった。
虹の代理戦争を終えて少しして、一度みんなで祝勝会みたいなのをやろうって話になった。入院時は病院が壊れるほど騒いだのに、誰が発案したのかわからない。
酒を飲んだりご馳走を食べたりしてたけど、案の定誰かしらが武器を使い初めて部屋は半壊した。
何人かは帰って、何人かは酔いつぶれた。満腹感で寝ていたり、あと多分攻撃を受けて半分くらい意識のない奴もいた。
……大雑把に言えば寝静まった時間帯。オレは満腹感で寝てた奴の一人だったけど、トイレに起きて、用を済ませたらなんだか喉が渇いて周囲を見渡した。
「───ん?γ……?」
起きてる人なんて一人もいないと思っていたらγが窓際のソファで外を眺めていて、オレは思わず声をかけた。
「ずっと起きてたの?」
「ああ、……まあな」
アリアさんが短命ではなくなったことで、きっとの願いが叶った。それは誰の目に見ても明らかで、γがこうして感傷的なのもわかる。
「は……みつかりそう?」
はユニではなくなって、どこかで生まれているんじゃないかと一つの仮説がたてられていた。
だからみんなはずっとを探している。
「いんや、手がかりも兆しもねえな……そういうのがあったらうちのボスか、あんたなんかが一番にわかりそうなんじゃねえか?どうだ?」
困ったように笑ったγにオレも苦笑をこぼす。
超直感と言われるそれは、オレにしたらいまいち実感のない力だ。
オレが「これだ」って信じることができるとき、それは絶対に仲間がいるからなんだ。
「───あ、そうか」
「ん?」
人の寝息もいびきも寝言も飛び交う、静かでいてそうではない薄暗い部屋の中、オレのつぶやきはγに聞こえたみたいだ。
「の思いの力は、みんなに育まれてできたんだろうなって」
「……どういう……、」
「今回の件でオレ、みんなが力を貸してくれるからがんばれた。オレひとりじゃこんなことできなかった。自分が頑張れたのって、みんながいてくれたからなんだなって思う」
「……ああ」
「と話したことは本当に少なかったけど、γたちのことを信じてたし、オレたちのことも信じてくれた。だから……あんなふうに命をかけたんだ。それはみんながを大切に思ってたからで、がそれを理解してたからなんだろうなって思う」
「───気持ちだけもらっとく、って……言いやがった」
「え?」
うまくまとめられないけど、なんとか説明したときγはくしゃりと顔を歪めた。
「あの人の最期……、オレの炎も使ってくれって頼んだ時さ」
「……たぶん、はすごく嬉しかったと思う」
一口酒を煽るしぐさをした。嚥下する喉の動きと、苦々しい顔つき。
酒と一緒に、涙と悔しさを呑んだみたいだった。
「あの人の想いの強さはオレたちの愛の証拠ってやつか……癪だがあながち間違いでもないな」
ずるい人だと笑ったγにオレは黙る。
「オレはあの時、命以外を全部持って行かれちまったっていうのに」
「……γ、それは」
「後を追おうとさえ考えた。ボスにも……白蘭にまで止められちまったがな」
「あ、当たり前だよ!そんなことして一番悲しむのはだぞ!?」
どういう意味かと考える最中でγは最悪の結末を笑って話す。思わず大声で否定してから周囲に気を使って口を押さえる。
「その""がいねえんだ、生きてたって仕方がない……でもどこかで生きてる可能性も捨てきれない……残された側は果てしないソラを前にするだけだ」
遠くを見るまなざしで夜空を見た。
その後すぐに、γは酔ってつい感傷的になりすぎたとオレに謝った。
あまりにいいことが続いたせいで、少し調子に乗りすぎたのはオレも一緒だ。
もう少し夢を見て頑張らなければならないと、二人でその夜の会話を酒のボトルに封じて飲み干した。
初めて舌に触れたアルコールは、なんだか形容しがたい痛みと甘さがあった。
next.
γがまぢむりつら。。。ってなった話。
Oct. 2020