Universe.


10

(主人公視点)
今の俺に本当に泣きついてくるとしたらレオか、俺を"姫"だと思ったγかなってところだけど、現在俺に顔を埋めて嗚咽を漏らしているのはなんと知らないひとである。ほんと誰?
「え、白蘭さん?どうしたんですか?」
「白蘭……?」
バイトの雪兎さんが俺に抱きついてる人に見覚えがあるらしく、大丈夫ですかと問いかけてるのでようやく名前を知ったけど、そうか白蘭かこれ。
「───レイくんっ」
ど、どこかでお会いしたことありましたか。
聞いた名前を復唱しただけなんだけど、白蘭はぎうっと俺を抱きしめる力を強めた。

なんとか引き剥がしたとしても白蘭は、俺の手だけは掴んだまんまだし、雪兎さんも反対の手はずっと握っていて、なんだか両手を取られて身動きが取れない状態だ。
周囲にきっと人がいるはずなんだけど、……どう見られてるんだろうなあ俺たち。
「雪チャンはレイくんと知り合い?」
「僕のもう一つのアルバイト先がレイくんの家で、家事を手伝っているんですよ」
レイくんの家───そうか、一人暮らしだもんね」
この人さっきからなんで俺の名前から一人暮らしであることまで知ってるのかな。
「白蘭さんはレイくんとはどういった知り合いだったんですか?」
「う〜ん、内緒。しいて言うなら、運命の人、かな」
こわ……。どなた?と聞く勇気がない俺の代わりに、雪兎さんが聞いてくれたのになんて答えを返すんだこの男は。
この白蘭が俺の知る白蘭だったとして、今の俺を知っている理由が全く思い浮かばない。パラレルワールドの知識はそりゃもちろんあるだろうが、俺は今となっては他人である。いや向こうの俺と白蘭も他人だが。

きっと俺が知らないうちに会ってるのは確かなんだけど、運命的な出会いをした覚えはまったくない。きっと、また偶然あった人のことを白蘭ジョークで運命の人っていうんだろうね。
重いにもほどがあるんだが、俺はしれっと流すことにした。
「えーと、白蘭さんと雪兎さんは……」
「白蘭でいいよ、レイくん」
弾むような声で遮られて、口をつぐむ。
「二人はどう言う知り合い?」
わかったわかった、と手をフリフリしつつも面倒だからまとめて問う。
「雪チャンがアルバイトしてるカフェの客ってところかな」
「元々は僕が道端で居眠りをしてたところを、白蘭さんと正一さんに助けてもらって……そこからの知り合いかな」
「雪兎さん俺と会った時以外でもやってたのね……」
「あれ、出会い方一緒なんだ。雪チャン本当に気をつけたほうがいいよ、ここは日本ほど治安もよくないからね」
「はい。でも最近……、レイくんのところでアルバイトを始めてからはすっかり良くなったんですよ」
「そうなんだ、アルバイトっていつからやってたの?」
「もう5ヶ月くらいになります」
二人の平和な会話に耳を傾けながら、これからどうしたものかと考えた。


うちにお手伝いさんとしてアルバイトに来ている雪兎さんはもちろん月の仮の姿である。
魔力を与えてくれる人がいないと、本来の姿に戻ることはおろか、仮の姿をとっていても大量の食事や睡眠を必要とし、起きていられなくなるし、下手したら消滅までしてしまう。
だから俺が前世クロウ・カードを引き継ぎ新たな主となったら、最初はお兄ちゃんの魔力を、俺の力が安定してからは俺の魔力を与えていた。
でも俺もクロウさんと同様に死ぬ時が来る。
カードの守護者として主を待ち眠る間は魔力を必要としないから、次までそうしているのが正しかったのだけど、月は今度こそ次を拒んだ。
クロウさんの時も新しい主なんていらないといって、記憶を書き換えられて眠らされていたほどだから、ちょっと予想はついていた。
しかも、クロウさんが生まれ変わったことを知っているだけあって、俺の生まれ変わりを待つとまでいう。
その案はクロウさん基いエリオルが却下して、本人も納得していたと聞いてるんだけど、それでも俺がいいというのだ。
「生まれ変わっても、俺にお前たちの記憶はないだろうし、魔力もないと思う。存在を維持することもできないかもしれないよ」
「それでも、他の者を選び認めるくらいなら、また生まれた主をひとめ見て消えたい……」
脅しをかけたら脅し返された。
礼……」
魅惑的な眼差しを持つ月に胸がきゅうっとなる。
防御ついでに考え事のために目を瞑った。
その隙にするりと頭を寄せて来るので、逃げられるわけじゃないんだけど。
「じゃあ……月、賭けをしようか」
「賭け?」
「みんなから、俺の記憶を消す」
「なぜそんなことを!」
そもそもこの時俺はすでに1度生まれ変わっていた身である。きっとまた俺は生まれて、前のことも覚えていながら過ごすだろう。月には忘れるだろうと嘘を吐いたが。
───果たして、それでいいのか、と思う。
エリオルがクロウさんの生まれ変わりでありながら、別人として生き、クロウカードを手放したように、俺もそうするべきじゃないかって。
「クロウと同じことをするのか!?あっさり別れて、他の者のところへ行けと?そして主は新しく違う守護者を侍らせるのか!」
俺も大人になったので、抱き込まれる小ささではないんだけど、月は俺を閉じ込めるようにして羽を窄める。
「人の命は一度きりだ、魂は永く廻っても」
震える背中を撫でて、羽の付け根を指で押しながらなぞった。
「もしまた逢えた時、なかよしになれたら月の勝ちだ」
「主が賭けに負けることなんかあるのか?」
「あるさもちろん。でもこの場合お前の勝ちは俺の勝ちでもある───本当は俺もまた、逢いたいからね」

こうして───死ぬ前にカードたちから俺の記憶を消した。



「そっか、もう5ヶ月も経ったんだ。雪兎さんが家の庭で寝てるときはたしか、まだ寒くて……驚いたよね」
「あははレイくんは命の恩人だ」
「言っておくけど僕が見つけた時だって危なかったからね、雪チャン」
雪兎さんならぬ月は一足早く、封印の本のそばで目を覚ます。そして本が人の手を渡ったり、力の強いものがいたりすれば引かれやすい。だからもしかしたら、白蘭と雪兎さんが出会ったのもそのせいかもしれない。
そして俺と雪兎さんが出会ったのもそう。記憶はないまま、月は俺のことを見つけたのだ。
賭けの結末はまだわかっていないけど。

───さて、目下の悩みは、この俺にひっつく海と月をどうするか。
一旦持ち帰って検討するほかなかった。
「あれ、出かけてたんだ。おかえりレイ丁度良かった───って、白蘭!?どうしてこんなところに……!」
どうせ知られてるんだしと、お茶に誘ってみたところ、二つ返事で家についてきた。そして家兼店の門開けたら、すっかりお友達となっていた綱吉さんがのほほんと出迎えてくれて、白蘭に盛大なツッコミを入れていた。
俺だってこの現状に突っ込みたくてしかたがない……運命の大渋滞が過ぎる。
「ふ~ん、綱吉クンが最近新しいお友達ができてよく一人で留守にするって聞いてたけど、ココだったんだ」
俺の手をやわやわと握りこみながら、白蘭はケタケタと笑う。
雪兎さんは見知った顔であるので、「いらしてたんですね、すみません留守にしていて」と綱吉さんに歓迎の笑みをうかべた。
「とりあえず、……綱吉さんいらっしゃい。この人は最近知り合った人で、お茶にお誘いしたんだけど……知り合いみたいだね」
俺的にはさっき知り合ったばかりなのだけど、とってもオブラートに包んだ。
「最近?僕はもう1年近く会えるのを待ってたのになあ」
え、そーなの?1年前お会いしたなんて初耳だし、身に覚えが……あ。
「───白蘭さんって、イタリアの海で俺を助けてくれた人?」
「うん、そうだよ!っていうか今まで全然思い出してなかったんだねえ、君のそういうすっとぼけてて肝が据わってるところ好きだなあ」
「目が見えないんだから、一度会って話しただけじゃあすぐわからないですよ……」
「でも思い出してくれたんだね」
「ちょっとまって本当にどういう知り合い!?」
綱吉さんのツッコミが冴え渡っている。
俺は一応雪兎さんにお茶の準備をお願いし、ついでに椅子に座らせてもらった。
はあ……そらが綺麗だなー、見えないけど。


next.

おそらきれい(大空の会合にかけて)。
この……構成力の試される話を全然プロット立てない、練らない、行き当たりばったりで書いてる自分がこわいし、せっかく思いついた話なのに台無し感強いんだけどプロット立てる時間が惜しいというか鉄は熱いうちに打てというやつで。(言い訳)
せめて5話くらい一気に更新することで、多少のまとまりは見せてる(見せてない)はず……。
CCさくらのとき雪さく(月さく)を書きたかったのに全然書けなかったことを根に持っているので月と雪兎さんは贔屓していきたい所存。でもケロちゃんともぎゅっぎゅさせたい……。

Nov. 2020