V sign.


01

二度目の転生、と言うのだろうか……それとも三度目の人生と言うべきか。
事故死したのち、とある物語のヒロインという位置に転生した俺は、その物語を全うするために女装して過ごした経験がある。なんやかんやあって、その人生が終った後、またもや赤ん坊として生まれていた。あのときは五歳くらいの時に父親のカミングアウトで前世の記憶を思い出したが、今回も似たような感じだ。いや、似てないか、別にカミングアウト受けたわけじゃないし。

その日は小学校の入学式で、同い年の大輝と一緒に新しいランドセルを背負って門をくぐる所だった。一歩踏み出した時、風が俺を追い越して行き、髪の毛が揺れて視界に入る。その桃色の髪の毛を目にして、ぽかんと立ち止まってしまった。
記憶が押し寄せて来るというよりも、もともとの俺が急にこの身体に入ってしまった気分。
?どうしたんだよ、行こうぜ」
「……大輝」
名前を呼ばれた途端、我に返る。だらりと力なくぶら下がっていた手を日焼けした腕に掴まれ引っ張られたら、身体が動いた。小さな身体の動かし方も、目の前の彼が幼馴染みの大輝であることも、俺が桃井一家のひとり息子である事も、一歩踏み出しながら理解した。
「あ、入学式」
「おう!行くぞ!」
とりあえず急がないとと思いながら口を開くと、大輝はにかっと笑った。
俺たちの両親は後ろについてきていて、駆け出した俺たちに「走らなくていいのよー」と笑いながら声を掛けていた。
あっちが大輝のお父さんとお母さんで、こっちが俺んちのお母さんとお父さんだ、と自然と分かる。
まあ、髪の色とか顔立ちが似ているから分かりやすいっていうのもあるかな。
俺のお母さんは桃色の髪の毛をしているし、大輝のお父さんは大輝と同じ青い髪の毛だ。
っていうか、ンンンン?こんな髪色とかあり得るの?ナチュラルに受け入れてたけど、どゆこと?
入学式の最中も、自分の髪色が目立ってるんじゃないだろうかとドギマギしつつ、周りの子たちにも平気で茶髪とか紺色とかよくわかんない色の子がいたから時代が進化したのかなぁなんて焦りを無理矢理沈静化させた。だ、大丈夫だよね?桃色の子が俺以外いねーけど!多分俺が一番あり得ない色だけど!お、お母さんも桃色だしッ!

でも俺、心配していたほど目立ってなかった。
クラスの自己紹介のときしか視線を集めなかったし、お喋りしてくれた前の席の樋口さんは別に俺の事じろじろ見て来なかったし。
家に帰ってからお母さんに、「なんで俺の髪はピンクなの?」って聞いたら「お母さんがピンクだからだよ」って言われましたし。
そういうこときいてんじゃねーよ!って思ったけどね、つまりそういうことなんだろ!先祖もピンクなんだろ!つまりこういう世界なんだよね!!!なに?また小説の世界とか?こんな髪色ラノベとかアニメ?そっちは詳しくないんだよなあ。ゴーストハントは少女小説だったけど作者の別作品から入ったわけだし。
俺はまた誰かのポジションなんだろうか。
最初からって名前ついてたけど、これは俺の名前だよ?ヒントは桃井だけ……ピンクの髪した桃井なんて知らん……俺の知ってる桃井は女優のかおりさんだけだよ。え、また女装フラグ?でもかおりさんは黒髪だよね?
でもこの……なに?俺の髪の毛って、選ばれしヒロイン色じゃん。ピンクって、ピンクって、ヒロインじゃん。
誰だ!俺は誰なんだ!!
これはもうある意味俺の思い込みでしかないし、言うなれば、被害妄想のようなものである。
女装したらいいのか?ええ?顔見てみたら子供だからなのかもしれないけど、女の子やれそうな感じに可愛気のある顔してたし。……目の色が赤いとかそんなこといちいち気にしてやらないんだからね!!

七歳にして、『俺は誰だ?』なんて哲学的な悩みを持った可哀相な俺ですが、十歳になった頃に転機が訪れた。お母さんが俺をキッズモデルのオーディションに応募したのである。くそ、俺はかおりちゃんになるのか?かおりちゃんなのか?あの人女優だけども、ここからスタートなのか?
書類審査の合格通知が来てから知らされてあれよあれよと言う間に二次審査に連れて行かれた俺は、水色のポロシャツと黒の七分丈パンツで面接に望んでいた。お母さんが「なら大丈夫!」って背中叩いたけど、何が大丈夫なのぉ!うっ受かったら良いのか?っていうか俺が受かるわけないか?……いや、かおりちゃんであるべきならば、受かるだろう。もうどうにでもなぁれ!

結果を言えば、受かったんですよ。はあ、まあ、薄々そんな感じはしてたっていうかさ。
女の子っぽい男の子だって思ってたからさ、つまり結構俺って可愛いと思うんだよね。そうじゃなくても子供ってあまりにも崩れてなければ大抵可愛く見えるもんだしさ、俺緊張しないから面接余裕でにこにこわらってたしさ。
「じゃ、着替えようか」
「はい」
スタイリストのお姉さんに言われて、畳みがしいてある所にのって洋服をぬぐ。お姉さんの手にはこれから着るであろう服が用意されていた。
「ワンピースだからいっきに全部脱いじゃってくれる?」
「はーい、……え?」
「ん?」
シャツを脱ぎ終えていた俺は返事をしながらズボンをずるっと脱いでいて、聞き返す。
パンいちで、膝立ちのお姉さんを見下ろした。
「あ、ネコレンジャーパンツだ、こういうの好きなの?」
「……うん」
「じゃあこれ着て〜」
俺のパンツの柄とかどうでもいいじゃないですかぁ!大輝とお揃いパンツなんですぅ!!
お姉さん絶対勘違いしてる!いや、どこから勘違いが生まれた?いつから俺がガールだと錯覚していた!?!?お母さん履歴書詐称してないだろうなあ!
「ボーイッシュなんだね〜、もしかしてワンピース嫌?」
「ははは……イヤベツニ」
この発言、つまり俺が男の子の服が好きな子みたいじゃん!猫レンジャーパンツが履きたくてブリーフ履いてるとでも思ってるの?すみませんね、プリンセスキュートなおパンツじゃなくて!
「スッゴク似合ってるよ!これからは、こういう格好もしてみたら?」
もぞもぞワンピースを着た後、にっこりしながら言われて、オレオトコノコ……とは言い出せなかった。
ま、まあ、いいんじゃないか、な?事務所に入ったわけじゃないし、今回だけのモデルで、継続するわけじゃない、し?子供だ、し?ん?

白いシフォンのワンピースに、茶色のブーツ、髪の毛をパーマ風にアレンジされて、森ガールです〜みたいな花冠つけられてスタジオに行ったらお母さんが「可愛い!」と絶賛してくれたんだが、母よ、どこまでが母の仕業だ……。



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原作知識無し。
June 2015

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