03
身体測定の時は男子ジャージなので、髪の毛が長い男として通常通り測定された。普通に大輝と行動してたので、誰も俺に気づいてなかった。体育の時も同様男として認識されているが、ジャージの色とか男の群れに俺が居るときは皆きょとんとしていた。だがしかし先生が何も言わないし、俺が「よろしく〜」なんて言えば「お、おう」って返事をされるだけである。このクラスにつっこみの方はいらっしゃいませんかね?
ちなみにプールの授業は二年以降の選択なので俺には無い。
先生が何故か俺の為に許可をもぎ取ったらしく、着替えやトイレは障がい者用の男女兼用トイレを使いなさいって言う。確かに男女兼用だから俺が出て来ても何の違和感もないけども!
しかし一応、俺が変だということは、皆分かってる。あいつ性別謎なんだよな、って言う扱いは受けてる。もちろん男子の体育に参加しているからです。ただしついて行けてるので、運動神経が良いからそっちに参加してると思われている可能性もある。誰一人として俺に真実を確かめに来る挑戦者は居ません。募集しようかな?求む!挑戦者!って。
マンモス校舐めてたよね。俺なんてちっぽけな存在ですよ。俺なんてさ、可愛い桃井程度の認識でしたよ。可愛い桃井。
告白されたよ、男に。俺は猛者を求めてない、挑戦者を求めているのだ。
丁重にお断りです。
前世ではもうちょっと完成度高い女子やってたから何回か告白されたこともあったけど、今回もあるとは思わなかった。いや、どっからどう見ても女子なのは分かる。でも俺って言うし、言葉遣いも結構がさつだし、ノリも男のときのままだ。やっぱり、ピンクの髪の毛で可愛さ倍増?有罪だわ。
入学後三ヶ月が経ったころには三人目の猛者が現れて、その人はバスケ部の先輩らしく、「大輝がお世話になってます」と挨拶をすると彼氏なのかと疑われた。張っ倒すぞ。
俺の殺気立った目を見て、すぐにごめんと謝られ、その後に月並みな告白が続く。うん、まあ考えることもなく断った。ただししつこかった。一ヶ月付き合ってみてくれないか、とか、一回デートさせてとか。
「いや、あのですね」
隠してるわけじゃないから、言ってやろうかと思った。
「ああ、ここにいたのか、桃井さん」
「へ?」
凛とした声が背後からして、振り向く。俺の腕を掴む先輩の手も緩んだのでその隙に放させて、声を掛けて来た赤い髪をした男子生徒に少し近づくと、「畠中先生が呼んでいたよ」と分かりやすく教えてくれた。
「今行きます、はい。じゃ、先輩さようなら」
一回離れてしまえばしつこくは言ってこないだろうと、遠くから会釈して背を向けた。
隣の赤髪の少年も俺と同じ方向に歩くから、ちらりと横顔を覗く。あ、この人入学式で挨拶してた人だ。
「たしか赤司くん?ありがとねー」
「いいえ」
「畠中先生の呼び出しは本当?」
このタイミングと人選だから、本当かどうか怪しくて問いかけたら、赤司くんは一瞬だけきょとんとしてからくすっと小さく笑った。
「嘘だよ」
「そりゃよかった」
「身に覚えがなくて、戸惑ったかな?」
「いや、ありすぎて嘘だといいなって」
軽口に軽口で返す。
「それは……その格好のことかい?君は男子生徒だった筈だけど」
事実を知っている生徒は少なくとも居る筈だけど、言葉にされたのは初めてで、目を丸めた。
人の良いらしい彼は、固まった俺を見て少しばつが悪そうな顔をしていた。
「不躾だったか……な、」
「ウワァー!!!」
俺より少し小さい赤司くんに抱きつく。なんかこの人高級感のある香りがする。やべえ。
そして意外としっかりした体つきをしていた。
「感動した!ありがとう!赤司くんはまともな人だったんだね」
すりすりと懐いたら、慌てて引きはがされた。すんません。
「い、いきなり何を……」
「ごめんついつい」
ぱんぱんと赤司くんの肩を叩いてブレザーの崩れを軽く直した。
気づいて指摘してくれたのは嬉しいけど、赤司くん的に俺がどんな格好をしていようとどうでも良いようで、変だよなんて言って来なかった。いや、どうでも良いと言うか、事情があるのだろうな、みたいな目をしてた。
「ていうか、俺の名前知ってたんだね」
「いつも部室に青峰を迎えにくるからね」
「そういえばそうだね」
教室に戻るのは当然同じ方向で、並んで廊下を歩きながら雑談を交わす。
赤司くんはバスケ部の一年生にしてしょっぱなから一軍という快挙を成し遂げた人で、大輝もそれに含まれてる。あとは緑間くんと紫原くん。遅れて上がった子は灰崎くんっていったっけな。大輝が同じ一年が居るとかなんとか言ってた覚えがある。
「大輝と仲良くしてやってー」
「君はまるで青峰の親御さんだね」
そんなことを言いながら、赤司くんと俺はそれぞれの教室に戻った。
確かに俺、大輝の事を我が子レベルで見てる。小さいころから一緒だし。
親以上に一緒に居るから、兄弟の方が近いんだろうけど、俺の精神年齢の問題かな。
その日の放課後も大輝を迎えに行った。更衣室の傍で立っていると、すぐにドアが開いて驚く。あれ?まだ、部活は終ったばかりの筈なのに。
「やっぱり今日も居た」
「赤司くん。お疲れ」
まだ運動着のままの赤司くんがドアから顔を出してた。俺に何か用かな?
「桃井、君は警戒心が少し足りないのかもね」
「え?」
男と認識したからなのか、すっかり呼び捨てである。まあ構わないけど。
「今日君が揉めた相手は一応バスケ部員なんでね」
「でもあの人一軍じゃないよね?……体育館違う筈だし」
「それでも、君が青峰を毎日迎えに来ていることは周知だよ」
「ああ……」
赤司くんは外に出て来て、俺の隣に並ぶ。あれ、この人もしかして大輝が出て来るまで待っててくれる感じ?紳士かよ。
「所で、桃井はこんな時間までどうやって時間をつぶしてるんだ?」
「図書館で勉強してるよ。もうすぐ期末テストだしね」
「そう、早いうちから勉強してて偉いね」
「間近になったら大輝の面倒も見ないといけないんだよ」
大輝の面倒を見るのが俺の常なので、しっかりする癖がついている。しっかりするといっても、早めに終らせておく程度なんだけど。
「甘やかすのは関心しないな」
「あっはっはっは」
別に甘やかしているわけじゃないし、途中で寝たら容赦なく拳骨しているので、豪快に笑い飛ばした。
「うぃーっす」
そこに気怠そうな大輝が出て来て、赤司くんと俺の二人を見てきょとんとした。
「なんだお前ら一緒に居たのか」
「お疲れ大輝。ちょっと話し相手になってもらってた。赤司くんありがとうね」
ぽんと肩を叩くと、赤司くんは小さく頷いて、大輝と入れ違いに更衣室に戻って行った。
これで先に帰るのは気が引けて、待ってたほうが良いかと大輝に聞いたんだけど、どうやら赤司くんはやることがあるらしいから、待たないことにした。しかし尚更、一緒に待たせちゃって悪かったなあとも思う。
「もう大輝のこと迎えにくるのやめようかなあ」
「何でだよ」
「これ目立つみたいだし、自主練だってあるじゃん?」
「まあなー」
ボリボリと頭を掻く大輝を見上げる。
今はまだ良いけど、俺は毎日大輝を待って勉強する気力はなくなるだろう。
「じゃあお前、マネージャーになれば?」
「やだよめんどくせー」
「即答かよ」
腰にごすっと大輝の蹴りが入ってつんのめった。
next.
学校には女の子の格好であることの許可を貰っているだけです。
June 2015