V sign.


04

半年が経った頃には、週に二回くらいの頻度で一緒に帰ることになった。
待ち合わせ場所は校門前で、他の一軍一年生も時々居る。俺は基本的に大輝と会話していて、そこに時々赤司くんが混ざってそのまま緑間くんと紫原くんが相槌うったり反応したりする程度の仲である。
赤司くんは一部から赤司様って呼ばれてたり、緑間くんはおは朝のクレイジーなラッキーアイテム持ち歩いてたり、紫原くんはおやつばっかり食べていたり、なんか大輝のお友達は変わった子が多いんだなあとおじさんは遠い目をしちゃいそうだった。
よく考えたら皆髪色もカラフルだしね。大輝は黒に近くて青みがかってるし、赤司くんは赤毛だと思えば……見事な赤だけど……なんとか納得いくが、緑と紫はちょっと吃驚したよね。……俺もピンクなわけだが。
「あ、お前昨日のあれ録ったか?」
大輝はコンビニで買ったおやつの封を取りながら聞いてきた。昨日の深夜にバスケの試合中継を録画したことを言ってるのだ。
「録った録った!今日観よ」
「何の話?」
近くにいた紫原くんがきょとんと首を傾げたので教えると、あんまり興味なさそうに相槌をうちながらお菓子を食べた。
「桃ちんってバスケ興味あったんだ」
「あー小さいころから大輝と一緒にテレビとか観てたから、そんだけね」
二つ目のお菓子に差し掛かっている紫原くんは、やるきなさそーに相槌をうった。も、もうお前とは話さない……っ。

皆と別れてから、大輝は明日から毎日自主練することにしたと俺に宣言してきた。
新しいお友達の予感である。
その予感が的中したのは一週間後くらいで、機嫌が良さそうな大輝に聞いてみたらバスケがすごく好きなヤツにあった、とのことだった。テツくんというらしい。
後日、差し入れに行ってあげようと思って、自販機でスポーツドリンクを二本買って持って行く途中、赤司くんと緑間くんと紫原くんに会った。
「桃井か、珍しいな」
「大輝に差し入れ」
最近一緒に帰っていないからだろう、緑間くんは少し意外そうな顔をした。
二本ボトルを持ってるけど、自分の分と判断されているのか、指摘はされない。
「青峰は自主練しているようだが……体育館にはいないのだよ」
「ああうん。第四って聞いてる」
「へえ」
緑間くんとのやりとりを聞いていた赤司くんは興味深そうに声をあげた。知らなかったのか。言ってよかったのかな?まあいっか。
「大輝に新しいお友達ができたんだよ!テツくんっていうんだって」
「それで、差し入れにいくわけか……相変わらずお母さんだな」
「お父さんですぅ」
「ナニソレ〜」
紫原くんが俺の反論に対してだるそうに突っ込みを入れた。
「オレもちょっと見に行こうかな」
赤司くんは大輝のお友達に興味が出たのか、一緒に来ることになった。その流れで紫原くんと緑間くんもついて来て、皆で第四体育館を目指した。

体育館では、何か話している声がする。
多分大輝とテツくんが話しているんだと思う。こっそり覗いてみたら大輝の背中が見える。え、人居る?あ、でも声が聞こえる……と思ったら大輝のすぐ近くに人が居た。制服姿で、水色の髪色をした少年だった。お、おう、良い色。
「青峰」
見守っていた俺をよそに、赤司くんが声を掛けた。こら、大輝とお友達の会話を邪魔するんじゃない!と思ったけど止める間もなく空気読まない中学生達はわらわらと体育館に顔を出す。
「最近見ないと思っていたら、こんな所にいたのか」
「あー向こうの体育館は人が多くて……」
「まあどこで練習してもかまわないが」
ねえ俺は?俺は無視なの?
テツくんに挨拶しに来たのに!
スポーツドリンクも買って馳せ参じたのに!
「悪いが全員先に帰っててくれないか?———彼と少し、話がしたい」
赤司くんは普段は紳士的だし、話をしても他愛ない内容ばかりだったから、こういう面を見たのは初めてだった。
やばいこの人、クソ偉そうである。赤司様と呼ばれる所以を垣間見た。
テツくん可哀相に……と思いながら小さく息を吐くと、赤司くんに「桃井」と呼ばれて顔を上げる。
「すまないね」
「いいよ、よろしく」
ペットボトルを一本掲げたら、赤司くんはあっさり受け取ってくれた。


「桃井さん」
「!」
数日後、図書館で勉強していた俺は、机をカツカツと爪でつつきながら声を掛けて来た相手にぎょっとしながら顔を上げた。
吃驚したー!誰かが傍に来ているとは思わなかった。
見上げればテツくんが居て、無表情のまま俺を見下ろしていた。
「あ!テツくん」
「テツ、くん……」
初めてそう呼ばれたのか、少し戸惑ったようにおうむ返しをしてきた。
「あーごめん、大輝がそう呼んでいたから、えーと?」
「黒子テツヤです」
「黒子くんね」
「あ……お好きなように呼んで下さい」
「そう」
へらっと笑うと、テツくんも少しだけ笑った。う〜ん、分かり難い。
「えーと知ってるようだけど、桃井です、モモちゃんって呼んでね」
ウインクしたけど、「桃井さんで」とあっさり突き放された。
「で、どうしたの?」
騒がしくしなければいいかなと思って、隣の席を叩いて促すと、テツくんは遠慮がちに座った。
「スポーツドリンクの差し入れ、ありがとうございます」
「ああ」
わざわざお礼を言いに来てくれたのか。良い子だなあ。
大輝をよろしく頼むよテツくん……。
「青峰くんとは幼馴染みだったんですね」
「うん、だから身内感覚でテツくんにも差し入れなんかしてみちゃったり」
「てっきり恋人だと」
その発言に、ふはっと鼻で笑った。
よく知らない人にしてみりゃ俺は女子だもんな。
「大輝はね、お胸の大きな子が好きなんだよ」
「……そ、そうですか……」
優し〜く諭すように微笑むと、若干引きつった声が返って来る。
「あの、桃井さんは魅力的です」
「お?おお、ありがとう」
何をどうとれば俺の話になるのかわからないが、諭し返され、戸惑う。紳士なんだね。でも、まるで俺が大輝に思いを寄せてる貧乳みたいじゃねーか。テツくんと言えど怒るよ?名誉毀損だよ?
「あ、時間大丈夫?そろそろ部活の時間じゃない?」
「そうでした。では」
「頑張ってね!」
「はい」
ひらひら手を振ると、テツくんは今度は少し分かりやすく笑って図書館を出て行った。



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桃井さんはマネージャー業もしません。まあなくても帝光なら勝つる。
あとさつきちゃんじゃないので、むっくんからはさっちんとは呼ばれません。桃ちんとなります。
June 2015

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