V sign.


06

虹村先輩に、大輝が生意気な口きいたら梅干しぐりぐりして良いですからね!過去の恥も教えておきましょうか!と媚を売っていたところに、大輝のボールが俺の尻に向かって投げつけられ、「ぬ"ぁ"っ」と呻く。
俺を女子だと思ってる虹村先輩は当然声をあげようとしたが、そんな先輩を制して俺は大輝に向かってかけ出して、容赦なくケツ蹴りをした。
そして、臀部をおさえて踞りかけた大輝をそのまま前に倒して、サソリ固めを決める。またの名をスコーピオン・デスロック!!
「イッテェェエェ!」
「危ないだろうが馬鹿たれ!」
「強い!!キツい!!」
「関係ない人に当たったら、どうすんの!?」
「お前が俺のことべらべら!話すから!くるしいっ、ギブギブ!!」
「なら自慢の足で走って口止めしに来い!この足は飾りか!」
最後にひときわ強めに苦しめて、大輝から退く。途中テツくんが「スカートなんですから!」って見当違いな制止をかけていたが影が薄いので俺は聞こえてませーん。
自分に投げられたことはあんまり気にしてないし、同じくらいの強さでケツ蹴りした上にプロレス技をかけているので、大輝と俺は信頼関係の上での暴力である。男同士だしね。
虹村先輩と赤司くんの方を向いて、苦しくて涙目になってた大輝と一緒に「お騒がせしてすいません」と頭を下げてお詫びした。
そして大輝を再びテツくんと練習させて、もう一回虹村先輩たちの方にかけよって丁寧にお詫びする。俺は部外者だからな!騒いじゃダメだよね。
「大輝のこと、許してやってください。俺にくらいしかやらないから」
「それはそれで、大丈夫かよ」
「いつものことですから!」
サムズアップしたら虹村先輩は若干あきれ顔をしたけど、直属の後輩ではない俺にお説教は無かった。
男同士のなれ合いっす!とまでは言わなかったけど隣で若干頭を抑えている赤司くんには俺たちのちょっと野蛮な関係を示唆する服音声が聞こえただろう。
「おう、……ま、あんま甘やかすなよ」
言いながら軽く頭を撫でられて、きょとんとした。
甘やかしてる?ドコガ?プロレス技を華麗にキメただけじゃ、虹村先輩的には足りないと申すのか!?男気が足りないってことか?
「あ、わり」
「いえいえ、この桃井、もっと精進いたします!」
無自覚になでなでしてたらしい。虹村先輩は気まずそうに手を離して視線をそらした。そしたらアヒル口が強まった。顎に皺できちゃうゾ。
ちなみに俺のきょとんは発言に対してであって、スキンシップには寛大なので、気にしてないアピールで満面の笑みを浮かべてみせた。
虹村先輩は俺の返答に対して微妙な顔をしていたけど、訳が分からず、赤司くんを見たけどとくにフォローしてくれるわけでもなく、挨拶を切り上げて体育館の隅っこに案内された。


赤司くんは飛んで来るボールには気をつけてと注意してから、自主練に戻って行ったので手を振って見送った。
それから大輝とテツくんの自主練を大人しく見学してた。途中、あんまり喋った事の無かった一軍の先輩が俺の隣にきたから休憩の間少しだけ雑談していたけど、五分くらいで会話を切り上げるようにしたので、多分練習の邪魔にはなってないハズ。
先輩曰く、『モモちゃんは一年の可愛い子』としてそこそこ上級生の中でも知られているらしい。性別不確定桃色物体という噂はないらしい。生徒数多いから上手い具合に悪い噂が埋もれたなあ……感心。
「よかったら連絡先交換しない?」
「え」
あらら、急にモーションかけてきた。可愛い下級生とお話だけの流れではなかったか。
「センパイ俺と1on1してください!」
そんなところに、大輝が割り込んで来た。 テツくんどうした……と言いたかったけど助かったので、大輝を咎めるのは辞めておく。
「は?お前と?」
「じゃ、大輝に勝ったら交換しましょ!」
お茶目な顔して笑いかけながら、先輩の背中を軽く叩いて送り出す。
「お前らやっぱり付き合ってんのかよ!」という先輩は無視して大輝は俺と同じようにテツくんの背中を軽く叩いてコートから追いやった。
「やっぱり、付き合ってるんですか?」
大人しく隣に立って大輝達を眺めていたテツくんは汗を拭き終えて、ぽつりと呟いた。男女の友情なんてないんですっ!てか。まあ男女が仲睦まじくいたらそれはもう恋かなって他人から思われても仕方ないけど。俺は実は男なわけで、大輝もそれを知っているわけで……た、多分……。
「あれは違うと思うけど。どっちかっていうと、先輩を助けたっていうか」
「え?」
「俺に惚れると火傷するぜ」
ぱちっとウインクをしてみたら、「そうですか」と目をそらしながら言われた。華麗なボケ殺しである。
あの後いつのまにか1on1は終っていて、先輩も大輝もぐだ〜っと座っていたのでどっちが勝ったのかよくわからなかった。絶好調な大輝なら大丈夫だと思うけど、相手は同じく一軍だし、大輝は集中力あんまりないから、先輩の方が強かったかな?
遠慮がちに二人の傍に行って、座っている二人を見下ろす。まだ肩で息してる。お前ら必死!
「どっちが勝ちました?」
「お、おれ」
「大輝オツカレー」
大輝がへろへろ返事をして、先輩はがっくり肩を落とした。
「んーじゃあ、口頭で言うんで、覚えてられたらメールください」
「え!?」
先輩はかっと目を見開いた。
「モイモイモモモイモイモモイ、あっとまーく」
「えええ!?」
聞いていた皆からもつっこみの声が入った。「お前教える気ねーだろ」とか「なんだその覚えやすいような覚えにくいアドレスは」とか「もう一回言って」とか様々である。
大輝はもう回復していたので立ち上がって、テツくんからタオル貰って汗を拭いている。
ぶっちゃけ俺のアドレスはマジであれだからな。
「あ、全部小文字でドットも無しですよ!じゃ、お疲れさまでした」
大輝とテツくんはこれで終わりにするらしいので、先輩とか赤司くんたちに目をむけてぺこっと挨拶をして足早に体育館を出て行く。

あの後マジバでテツくんと大輝と三人でご飯を食べていたら、以外にもメールが一通だけやって来た。先輩の執念すげえ。

———件名:なし
———本文:まさか本当に送れるとは思わなかったよ。 赤司

先輩じゃなかったあげくに赤司くんだ。
赤司くんが、もいもい……って打ったと思うと本当に笑えてくる。
「何試してんだあの人」
吹き出して笑ったあと呟くとテツくんと大輝が首を傾げている。
「もしかして、先輩からですか?あのアドレス本当だったんですね……」
「本当だったけど先輩じゃなかった」
誰もが冗談だと思うアドレスだけど、俺ならあえてこのアドレスにしそうだと赤司くんには読まれたのかもしれない。
携帯の画面を見せたら二人揃って覗き込んで、目を丸めていた。
「意外です」
「ね」
大輝は赤司くんなら文句はないみたいで、俺と同じように笑ってる。
「ボクも……送ってみても良いですか」
「うん。QRコード出すね」
「ありがとうございます」
テツくんに俺の滅茶苦茶打ちづらいアドレスを打ち込ませるなんて可哀相だからちゃんと交換した。
そしてそのアドレスを打ってみた赤司くんのことを思い出してもう一回笑った。
ちなみに、チャレンジ精神旺盛だネ、って返信しておいた。



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お気づきでしょうが黒→桃です。 June 2015

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