V sign.


07

二年生になったら、紫原くんと同じクラスになった。
のんびり屋さんでちょっと我儘だけど人当たりは悪くないので、そこそこ仲は良い方だ。
「あれ、桃ちんだ」
「はよー」
教室にきた俺に紫原くんはすぐに気づいて、俺に挨拶をしてきた。出席番号順にすわるから、俺たちは前後である。黒板が見えないやつだこれは。もしこのまま授業やる事になったら、紫原くんと交換してもらおう。

ホームルームが始まるまでの間、既に登校してきたクラスメイト達と話していたら、女子に「モモちゃん黄瀬くんって知ってる?」って言われた。全く知らねー。
どうやら、モデルやってるイケメンらしい。なんだ、可愛い俺に牽制か?それともただの話題か?まあどっちでもいいか。
「モモちゃんが黄瀬くんと並んだら凄そうだなって」
「あっはっはっは」
「でもお似合いだよね!モモちゃんには勝てないもん」
笑うしかねえ。笑い飛ばすだけしかできない!
とりあえず、本物の女の子ではない俺が黄瀬とやらをとるわけがないので、皆には「大輝みたいにバスケ強くないとヤダ〜(ぷんぷんっ)」って言っておいた。大輝と幼馴染みカップルと誤解されるのは嫌だけど、知らんイケメンと噂になるくらいならお互い知ってる大輝のがマシだ。
会ってもいないのに第一印象が悪いモデル黄瀬だが、会ってみてもあんまり変わらなかった。というか、女子に囲まれていて関わる機会もないので、可もなく不可もなく、俺の傍に来たら間違いなく不可、な存在ってやつ。
特に接点もないから、関わらないでおこうと……思っていたのになあ……。
出席番号順の席が嫌だと言った生徒が多数いて、俺も紫原くんの後ろの席は嫌だったから席替えには賛成で、まあつまり、席替えの結果黄瀬の隣を引き当ててしまったわけである。選ばれし俺。
チョット女子ぃ〜、交換しようって声かけて来てもイイんだよ?
去年も同じクラスだったし、朝黄瀬の傍に居たそこそこ仲良い由美ちゃんにこっそりクジ変える?って言ったのに「他の女の子に座られるより、モモちゃんが良い……」って言われてしまった。くああああ俺が可愛いばかりに……。女子もっと熱くなれよ!!!牽制ばっかりしてるなよおい!
「紫原くんと離れるのは惜しいなー」
「そーだねー」
ゆっるゆるな会話をしながら紫原くんのクジを見て、交換を打診してみたけど普通に嫌がられた。黄瀬がどうのではなく、前の方の席だからである。黄瀬もそこそこデカいんだから後ろ行けば良いのに、足が長いから座高は低いってか!え!
結局誰も交換してくれることもなく、黄瀬は俺の隣になった。
「よろしく」
「よろしくっス、桃井さん」
「あ、名前知ってたんだー。俺も黄瀬のこと知ってるよ、モデルなんだってね」
「え、あ、はいっス。桃井さん可愛いって有名だし」
俺っ娘、呼び捨てって点で多分ちょっと驚かれてる。
「ま、髪色も目立つ方だしねえ」
胸まで伸びて来た長い桃色の髪の毛を少しいじくる。桃色ロングヘアーで黙ってれば女子なので、多分もっと清楚なイメージだっただんだろう。黄瀬は素直に「見た目とギャップあるんスね」と言って来た。失礼なヤツめ。別にいいけど。
なんかこう、へらっとしてて明るい感じだけど、興味無いヤツには本当に興味ない感じの態度で、若干上から目線な男だった。
俺はそんなに黄瀬に用はないし、構って欲しいわけでもないから、話すときは可もなく不可もなくな態度だけど、見てるとコイツ性格捻くれてるんだろうなって気はする。

最初の体育の授業の時、男子のジャージで男子の体育の群れに居た俺を見て、黄瀬はびっくりしていた。
「ぅえ!?モモちゃん!?」
「うーす!今日サッカーだってね!」
腕まくりをしながら、黄瀬に笑うとわたわたしてる。え、なんで?みたいな?初めて体育一緒になった子たちは黄瀬程じゃないけど驚いてるみたいだ。にこにこ笑顔でだいたい乗り切るけど。
「先生に許可もらってんだ」
「え、そーなの?」
「そーなのー」
「あれ、桃ちんだ」
あ、こいつアホだな、と思いながら会話をしてたら、実はアホじゃない紫原くんが会話に入って来た。
「男子の体育参加してるってホントだったんだ〜」
「うん」
紫原くんは俺のポニーテールを掴んで遊びながら、見下ろす。
なんだ、噂は知ってたんだなあ。
のほほんとやり取りを繰り広げてたら黄瀬は会話を終わりにしてぼーっとしてたし、紫原くんも別に言及してこなかった。
そして準備運動で二人組を作れって言われた俺はもう一度黄瀬の方に近づく。あいつ友達いないから組みやすいだろ。
「きーせっ」
わざと軽くぶつかると、でっかい目を見開いて俺を見下ろした。
「準備運動組もう」
「え、なんでっスか」
疑惑の目を向けられる。別にお前と触れ合いたいからじゃねーけど。
「紫原くんでかいから組みづらい!さすがにね!」
「でも、他の男子も」
「それは相手が可哀相っつーか……既に断られてますけど!?」
幸か不幸か、男子で仲が良い人はいなくて、紫原くんはに25センチくらい身長差があって、背中を反るヤツとか馬跳びとかが辛い。その点黄瀬は10センチ差くらいだ。しかも同じくらいの身長の男子は、俺をまだ女子だと思っているので密着してはくれない。めぼしい男子の方をむくとぱっと目をそらされて、他の人を捜し始めてしまうのだ。こういう時こそ猛者現れろし!
「俺だって自分がもっと大きかったら紫原くんと組むしィ!黄瀬なんて所詮二番目の男だしィ!勘違いしないでよねっっ」
「わぁ!」
どすっとケツ蹴りしたら、信じられない物を見る目をされた。
女の子がケツ蹴りとかありえないっス〜ってことか?残念ながら俺は女の子じゃねーのだ。
痛かったからこそ信用したのか渋々組んでくれた。渋々。
……どうせ友達いないくせに。
「まあある意味、これは需要ある絡みでもあるからな」
運動が終わった俺は一人でストレッチをしながら呟くと、黄瀬もわかったように、ああと呟いた。
「モモちゃんってナルシストっスよね」
「自分が恵まれてるとは思ってるよ」
ピンクの髪の毛の魔法だからな。
「あと……結構性格悪いっス」
「はあ?良い性格してますねって言われるわ」
「それ!性格悪いって言うんスよ!」
そんな黄瀬の足をゆ〜っくりと踏みつけておいた。

それから黄瀬とは毎回体育の準備運動は組むようになったけど、だからといってつるむ訳でもなく、なんだか普通の男友達って感じになった。紫原くんとはまた違った感じで楽なやつでもある。時々うざい事言ってるなって思うけど、まあ許容範囲かな。


ある朝下駄箱で一緒になって、二人揃って下駄箱に手紙が入ってたときは数秒見つめ合った。
「うわ、モモちゃんってホントにモテるんスね」
「黄瀬はもっとわっさり入ってると思ってた」
俺は月に一通程度で偶然だったけど、黄瀬はほぼ毎日誰かしらから貰ってるみたいだ。今日は二通程持っている。モデルに対するファンレターもあるから、全部が告白な訳じゃないらしいけど。
俺がその場で読み始めたら、「え、すぐ読むんスか」って隣で言ってて、でも一応常識があるみたいで覗き込んで来ない。ちなみに内容は今日の放課後校舎裏ということだ。相手は同学年だけど知らんヤツ。
「一緒に捨てといて」
読み終わったヤツを黄瀬の手にぽんって置くと更に驚かれ、歩き出したら返す為について来る。
「す、捨てるんすか?」
「呼び出しには行くけど」
もんにょりしてる黄瀬。なんだ、不満か。前お前読まずに捨てることが多いって言ってただろ。棚上げ?棚上げですかぁ?
「俺は、俺に告白して来る人と付き合うつもりは一切ないよ」
「どういうこと?」
「俺の事よく知らんから告白なんてできるんだよ。少なくともクラスメイトも黄瀬も、絶対俺に告白しようなんて思わないだろ?」
「……たしかに」
ぷっと黄瀬が笑った。
人当たりは悪くないし、コミュニケーションもちゃんととるけど、俺は結構男っぽく振る舞ってるし、しかも体育の授業にも男で出てるから、クラスメイトから告白された事は今まで一度も無い。
黄瀬なんて尚更、俺にケツ蹴りされるし、どつかれるし、恋なんてあり得ないと思う。



next.

主人公は割とドライだから、黄瀬くんともそこそこやれるんじゃないかな。
June 2015

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