V sign.


09

灰崎くんが強制退部になって、しかも主将が赤司くんに変わったらしい。大輝が俺の部屋で宿題と向き合いながら、手を動かさずに教えてくれた。おい、宿題進めろ。
それに加えて、大輝もだけど、緑間くんとか紫原くんとかもバスケの調子が良いんだとか。はいはい良かったですね。
俺はベッドに寝転びながら新聞のテレビ欄を眺めて、遠くに聞いてた。
「そういやお前、黄瀬と知り合いだったんだな」
「隣の席だかんね」
「黄瀬も黄瀬で、俺たちが幼馴染みって知らなかったっつって騒いでたわ」
「はー、まあ言わないしね」
この間黄瀬の携帯を届けに行った後に俺と大輝が幼馴染みだって話を知ったらしい。
俺次の日「桃っちと青峰っちって幼馴染みだったんスね!なんで教えてくれなかったんスか!」ってぷんぷんされたよ。なんでわざわざ、お前の憧れの青峰っちは俺の幼馴染みなんだぜって報告すんだよ。
「大輝はテツくんと仲良くやってんのか」
「あ?おー……」
なんかおかしな返事だなと思ったけど、大輝は語ろうとしない。昔は困ったらなんでも俺に言ってきたのになあ。まあ今でも宿題に困って俺の所に来てるわけだけど。
「大輝、何かあったら言いなよ?」
「───これ終わらしてくれ」
「馬鹿。そのまま出していろんな意味で終わって来い」
ベッドの上から大輝の肩を素足でべちっと蹴った。

大輝のあんまり楽しそうじゃ無い様子をよそに、バスケ部は予選初戦突破を果たした。
皆で学食でお昼ご飯をとってる所に今日はお邪魔させてもらったけど、おめでとうって言っても反応は薄かった。
まあ、勝つ事に慣れてるんだろうけど。
「テツくん嬉しいねー」
「あ、は……はい」
テツくんだけは幸せそうなオーラが出てたので、頭よしよししたら照れられてしまった。
「黒子っちは幸せそうっスね」
黄瀬が若干引き気味に俺たちを見てた。大輝曰く、テツくんは公式戦では初めてだったらしい。
あのあと赤司くんが皆に得点ノルマを課して、大輝が気乗りしない返事をしてるのを見てちょっと嫌な予感がした。大輝は人一倍バスケが好きで、純粋で、子供っぽい。おまけに最近、あんまり楽しそうじゃない。
「だいじょうぶかな……」
「桃井さん?」
大輝を見ながらぽそっと呟いたら、その呟きをテツくんに拾われてしまった。でも上手く説明できなかったから、テツくんに俺の心配事を告げるのはやめておいた。

「ねー桃っち、最近青峰っちが部活サボるんスけど、知ってる?」
「え、知らん」
朝登校してくるなり、おはよーの挨拶に続いて珍しく黄瀬が俺に話しかけてきた。
友達という間柄ではあるけど、そんなに頻繁に絡みはしないし、黄瀬は朝一で女の子達に囲まれるから、このタイミングで話す事は珍しかった。
いじくっていた携帯から顔を上げて黄瀬を見たら、「桃っちも知らないんだ」と拍子抜けされた。まあ、幼馴染みといえど、四六時中一緒に居る訳じゃないしね。
「最近の青峰っちすごいんスよ。もう、何やってても強いっていうか」
「そうなん」
「桃っち知らないんスか?」
「土日以外の試合は観に行けないしなあー」
ポッキーをお裾分けしつつ、黄瀬に最近の大輝のバスケの様子を聞く。
「オレに勝てんのはオレだけだって拗ねちゃって」
「ん"っごほっ」
咽せた。大輝そんな事言ったの!?いつのまにか中二の病気発症してたのかあ!くっそ!
ぷるぷる震えて机にしがみついたけど、予備軍である黄瀬は、そのセリフに違和感を感じてない。
「ちょ、桃っち大丈夫!?」
背中を撫でられて、ようやく笑いを噛み殺しながら顔を上げる。
「いや、ははは、大輝が……そーか……反抗期かな?」
「反抗期って……」
「洗濯物一緒に洗うなって言われるかもしれないのか」
「言われるわけないじゃん!ってか洗ってんの!?一緒に!」
「あ、うん、うちに泊まったりするしね」
「それは吃驚っス!」
あ、そんな事言うのは女の子か。大輝男の子だから言わないか。
じゃあどうするんだろ、親父って呼ばれ……るわけねえわ、俺親父じゃないもんな。最近学校はどうだとか聞いたらうるせえとか言われるようになるのかな。え〜そわそわする〜。

全中が終わって暫くするまでは、大輝はなんとかサボりもおさめてバスケ部に参加してたみたいだった。どうやら、監督が練習に来いって言ってくれたらしい。でも、やっぱり誰とやっても楽しくないっていうか、わくわくさせてくれる相手が居ないみたいで、もやもやしてるんだって。
案外あっさり俺に愚痴ってくれたのは、同い年だからかな。
「諦めたら何も残らないって、ね」
「げ!まで聞いてたのか」
「あはは、まーね」
大輝が投げた枕は俺の膝の上にどすっと着地した。
照れてるのか、大輝はそのまま自分のベッドに寝転がって、俺に背中を向ける。
「諦めないことは大事だなあ、うん」
「お前も同じこというのか」
大輝自身が言った言葉だから否定はされないけど、多分欲しい言葉じゃないんだろうな。
「んーでも、全部が全部同じ思いじゃない。俺はバスケじゃなくて大輝を見てるから」
ベッドに背中を預けて、天井を仰ぐ。目を瞑れば、瞼の裏に蛍光灯の形が浮かんだ。
「大輝が辛いと思うなら、やらないで良い」

「そのかわり、勉強しろ」
「最悪」
「最悪じゃない!お前バスケやらなかったらただのお馬鹿だから!」
ちょっと感動しかけていた大輝の声は、俺が勉強の話題を持ち出したことによっていつもの調子に戻った。



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捻くれ始めた大輝くんと、生暖かい目で見守る主人公。
June 2015

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