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三年生になって、クラスが変わった。赤司くんと同じクラスだった。うわあ……。いや、嫌いじゃない。嫌いじゃないけど、関わらないでおこうと思ってたんだよ。見てられねえ!ってなりたくなかったし。
でも外面はいつもと大差なくて、一人称が変わったのと、俺の事をいつのまにか勝手に下の名前で呼ぶようになったくらいかな?身内と大輝しか俺の下の名前は呼ばないから珍しい。呼ばれたくないわけじゃないけど、モモちゃんの方が耳障り良いんだよね。
あ、あとオッドアイ。あれはマジにナチュラルに色変わってるらしい。カラフルな髪色が存在する世界で目の色が変わったって、おっ驚かないんだからね!
赤司くんは一人で行動してるから、例え同じクラスでもそんなに関わらないだろうと思ってた。でも、なんだかんだ俺赤司くんと一緒に居る気がする。もちろんつるんでるわけじゃないけど、移動教室のときは大抵赤司くんと歩いてて、あれ?ってなる。俺もたいてい一人で行動するからかな。友達に声をかけられたら一緒に行くけど。
つまり、赤司くんとぼっち仲間で、一人でふら〜っと行くタイミングが合ったら俺が「お、」って言って赤司くんは「ああ」って気づいて、そのまま並ぶ。ほぼ無言で歩くけど。
そんなのが、二ヶ月もしたら「付き合ってるの?」とお決まりの質問が寄せられる。
「噂になってるらしいよ、一部で」
「そうか」
今日も移動教室が一緒になったので、口をきいてみた。
詳細を言わなくても赤司くんは周りをよく見てるから分かったみたいだ。しかし大して興味が無さそうである。俺もあんまり興味無い。これまで大輝とも黄瀬とも聞かれたけど、あばずれ女って言われた事無いし。……もし言われたらショックで男に戻る。
「好きに言わせておけば良い。それに、良い虫除けになる」
「うわ〜」
若干察しつつ、遠い目をした。
「お互い様じゃないか?」
オッドアイの目がちらっとこっちを見た。笑うように細められて、ちょっとだけ顔が引きつる。
「まあねぇ……」
「最近、よく呼び出されてるね」
「───うん」
三年生になってから、猛者が増えた。それは、多分皆が成長して彼女を欲しがるようになった所為だと思う。反して俺の性別の危うさに磨きがかかっている筈だけど、それでも告白して来る人はいた。中には俺が男子の体育に参加してることを知っている人も居たし、クラスメイトだった人も居た。
「いっそのこと、僕と付き合っていることにするかい?」
「は?」
思わず足が止まった。
な、なにそれぇ……。赤司くんに大したメリットもないし、俺も不名誉だ。
俺と付き合ってるって嘘つかなくたって赤司くんなら上手に断れるだろうし、俺だって今までも断って来たんだから今更偽造彼氏なんて要らない。告白の数は減るのかもしれないけど、俺は、毎日ホント困るっス〜とかいうモデルとは違う。
「やめとく」
「そう、残念。の距離感は心地良いから、傍に置いてもいいかなって思ったんだけど」
え、付き合うフリしたら、傍に居るようにするってこと?うっはぁ、息つまる!断ってよかったあ!
ていうかなに?ナチュラルに上から目線だな。
「俺って結構、距離近いタイプだけど」
「物理的な距離ではないよ」
……まあ、なんとなく言ってることは分かった。
赤司くんにあんまり干渉して来ないからだと思う、多分。だとすると、この人誰の事も愛さなそう……。孤高の存在ってヤツぅ?
「えっと、赤司くんには、もっと傍に居てくれる人の方が似合うと思うよ」
え、えへ!と可愛い子ぶって笑う。
「ちゃんと赤司くんのこと、見てくれる人」
「───」
小さい声で名前を呼ばれて、喋るのをやめた。おせっかいだったかな?でもその病状を止めてくれる人が赤司くんには必要なんだよう!
「お前は」
「はひ」
ゆっくり手が伸びて来て、俺のピンクの髪の毛を一房掴んだ。
地毛だから引っ張ってもとれねーぞ。
「なぜ、こんな格好をしている?」
ええええ今更聞く?今ここで聞く?
話題をそらされたのか、責められてるのか、意図がわかんなくて目を白黒させてたら、予鈴が鳴っちゃったから互いに何も言葉を交わさずにまた歩き出した。
教室に入ってそれぞれ別れる前に、「ただの反抗期だよ」って一言返事をしておいた。赤司くんはさすがに授業中に呼び止めてくることもなかったし、授業が終わったら実験が同じ班だった子達に誘われて教室に戻ったので、赤司くんと口はきかなかった。
「モモちゃん、赤司くんと何かあったの?」
「はぇ?」
「来るのちょっと遅かったもんね」
女の子二人が俺を見て、興味津々に目を輝かせる。いつも最後の方に来てるけど、今日は廊下でちょっと立ち止まったからなあ。
「いや別に」
あの時、クラスメイトが何人か俺たちを追い抜いて行ったのも覚えてる。あ、もしかして、髪の毛触られてるところも見られたかなあ。だとしたらまた俺と赤司くんが付き合ってるっていう噂を増長させることになるなあ。やだやだ。
二週間後、図書館で勉強していた俺にテツくんが近づいて来て雑談をしてたけど、そんな中唐突に「赤司くんと桃井さんはお付き合いを始めたんですか」と聞かれて咽せた。
噂になってるのは知ってたけど、知人に確かめられる程の噂になってるとは思わなかった。
お前バスケ部順番に食ってるのかよって言われたらどうしよう。
「ありえない……」
「この間、髪に触れられているのを目撃しまして」
「あ、ははは」
「他の人にも目撃はされてましたけど」
テツくんも見たのかよ!それは、なんというか、言い逃れしにくいなあ。
「あれは話の流れで」
「どんな話の流れでそうなるんですかね」
「はう」
的確な突っ込みにたじろぐ。「別に責めてるわけじゃないですけど」って言われた。そうだよねテツくん俺の彼氏じゃないもん。
「いや、付き合ってみるかっていう話をしてて」
「えっ」
珍しくテツくんは感嘆符がついたように声をあげた。
「いや、フリね?フリ!それに、断ったし」
「───なんとなく察しました」
「赤司くん、多分わざとやったんじゃないかなあ。虫除けになるとか言ってたし」
「たしかに、桃井さんと噂になってれば、寄って来る方は少ないと思います」
「あはは、そお?」
人差し指でほっぺをさしてにこちゃんポーズをする。テツくんは相変わらずボケ殺しなので「はい」って頷くだけだった。ちぇっ。大輝なら「かわいくねーぞ」って突っ込んでくれるのになあ。まあ、その場合は蹴っ飛ばすんですけど。
next.
赤司くんと同じクラスにしました。
June 2015