V sign.


12

大輝の推定反抗期が始まってから、一緒にバスケの試合録画を観なくなった。俺は観てるけど。
部屋に来たとしても、雑誌をダラダラ読んでたり、お菓子食べたり、学校の宿題やったりするくらいだ。
相変わらず部活には出てないし、学校でも無気力にだらーっとしちゃってる。バスケしないだけでこんなに捻くれるのか……恐ろしいなバスケ。
「だーいーきーくん」
「あ?」
屋上に寝そべって空ばっかり見ちゃってる系幼馴染み男子の大輝くんに、久しぶりに声をかけた。久しぶりって言っても放課後はってことね。朝は学校一緒に行ってるから。
ごろっと頭を動かして、給水塔の上から顔を出した大輝に手を振る。
「おかーさんが、お一人様一点限りの卵買って来てっていうから、付き合って!」
「だりー」
「五時からタイムセールだから早く。今日の宿題手伝ってあげるから」
「マジか」
のっそのっそと大輝が降りて来た。ちょろい。
いや待てよ?……俺がちょろいのか。
「つーか卵ってなんだよ」
「卵はエッグだろーが」
「そうじゃねぇよ……卵くらいてきとーに買えばいいだろ」
「卵高いんだよ。そしてセールは激安なんだよ。お前は冷蔵庫に卵がある事がどれ程幸せか分かってない」
「料理できねーくせに詳しいな」
うるせえ、生まれ変わる前は出来たんだよ!そして卵は大事。
「大輝なんてオムライス食えない呪いにかかればいいのに」
「あ?」
最近ガラ悪いけど俺全然怖くないから。今更俺に威嚇しても無駄だから。そんな顔より、アホみたいな顔たくさん見てるもんね。

卵を2パックゲットしてほくほくしながら家に帰ったら、お母さんがめっちゃ喜んだ。今日はオムライスじゃい!
「大ちゃんも食べてって」
「おう」
お母さんがうちの晩ご飯に大輝を誘うのはよくあることだけど、当たり前の顔しすぎだろ大輝。
「卵さんに感謝していただきますと言いな!あ、それもうちの卵な」
「んだよ、うちのじゃねーのかよ」
「お前お金出してないじゃん」
2パック目の卵も回収すると大輝が文句を言うので肩パンする。
「今度から自分のお金で買って帰れば?おばさんも喜ぶよー」
「めんどくせ」
大輝は卵にたいした執着も無かったので、キッチンにいるお母さんに卵を渡してから居間のソファにどかっと座った。大黒柱ごっこですか?大ちゃん。
「大輝、手!」
「わぁーってるよ!」
手も洗わないでこの子はもう!
言葉短く注意したら、若干イライラしながらソファから立って、ドスドスあるいて洗面所に向かった。
手を洗わない子にはおやつはやらんのだよ。

おやつ食べて、夕飯まで宿題手伝って、夕飯食べて、テレビ見て、おまけに大輝は俺んちで風呂まで入った。
入ってる間に俺が大輝の家に行って下着とスウェット持って来て、洗面所に投げとくんだけど、これ甘やかしすぎてるんじゃないか?今更だけど。
さっき「いつもごめんね」「今日も可愛いねえ」っておじさんとおばさんに言われて来たけど、普通あんまり甘やかさないでいいからって言うところじゃね?……小さい頃からこうだから、保護者も麻痺してきてるのかな。やっべ。
俺も風呂に入って部屋に戻れば、大輝は俺のベッドで勝手に寝転がって半分寝てる。反抗期な上にガサツな息子を持ってしまって、俺はちょっと考える。このアホを千尋の谷に落とすべきだろうか?と。
「のけ」
「んー」
ベッドの上でだらけてる大輝の背中を奥にぐっと押して、俺はベッドに座る。大輝は呻きながら壁側に避けた。地味に素直だなあ、いいこいいこ……って思ったらお前、髪の毛濡れてるじゃないか。短いくせに横着するとはどんだけずぼらなんだこいつゥ。俺の布団が濡れるだろーが。
大輝がさっきまで首に巻いてたであろうタオルは投げ捨てられていたから拾って、後ろから頭を包んで掻き混ぜる。また微妙なうめき声が聞こえた。
あ、いかん、つい癖で世話をやいてしまった。
頭を拭く手を止めて、大輝の顔を覗き込む。俺の髪の毛が大輝の肩にさらっと滑り落ちたら、大輝はゆっくり顔をあげた。
「女物のシャンプー……」
「うん。この俺から清涼感のある男物シャンプーの匂いはさせられないだろ」
「まあな……」
「ムラっと来ちゃった?ごめん」
「げんなりした」
くそ!髪の毛で大輝の顔を包み込んだる。しっとりひんやり香り立つ桃色の髪の毛だぞ!美少女の証だぞ!
ああ、でも大輝は小学生男子みたいに、お胸が好きなんだもんね。女の子のシャンプーの香りにはくらっと来ないんだよね。相手俺だしな。ムラっとされても困る。この匂い俺と、俺のお母さんの匂いだし。
「おまえって……」
ひとしきり暴れたあと、大輝はぽつっと呟いた。
「ん?」
「オレの幼馴染みだよなあ……やっぱ」
「そうですけど」
感慨深そうに言うと、そのまま動かなくなった。し、しかばね……?
まあ、そのまま眠られました。まだ十時だぜベイビー。揺すっても起きないし、蹴っ飛ばしても呻くだけだし、どうしようもないので、俺は大輝んちに行って大輝の部屋で寝た。

その後、帝光中は応援のし甲斐がないくらいあっさり、全中で優勝したらしい。らしいってのは、今回の大会には応援に行ってないからだ。決勝戦は土日に組まれてるから行けるんだけど、俺は行かなかった。
大輝がつまんなそうに無理矢理試合に出てるのは、あんまり観たくないし。大輝自身も、来んなって言ってたから。
でも、キセキの世代とかいう中二的な異名のついちゃった可哀相な記事は見た。これは俺の女装モデルをした雑誌とともに我が家で未来永劫大事に保管されるだろうな。黒歴史黒歴史。インタビューされてるけど碌に答えてないし、なんか唯一答えても不遜な感じが滲み出ちゃってる”当時のオレ”がよ〜く分かる記事でした。うふふ、大ちゃん、大人になったら一緒に恥ずかしがろうね!!



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男同士の幼馴染みなのでこう……雑な感じ。
June 2015

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