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最近テツくんを見かけない。大輝と仲違いしちゃった、というか、大輝が捻くれてテツくんと一緒に居なくなっちゃったのは知ってたけど、全中以降見てない。テツくんだけが優勝を喜ぶと思って、おめでとうってメールしたけど、それにすら返信が無かった。
学校で会えるかなって思ってたけど、会ってない。俺が見つけられない可能性は大きいけど、そうだとしても、テツくん時々声かけてくれるのになあ。
「黒子っち、全然学校来てないんス。……引退のときも来なかったし」
落ち込んでた俺に、ある日黄瀬がぼやいた。
え〜マジなの?もっと早く言ってよ!テツくんも教えてよ!
「えっえっ、なんで?具合悪いの?」
「桃っち、全中の話聞いてない?」
「うん。大輝話したがらないし。赤司くんもバスケの話しないし」
バスケ絡むと途端にこじらせるから、あんまりその話題出さないんだよねえ。
黄瀬は言いづらそうに顔をしかめた。
「なんかあった?」
「んーまあ……。全中の準決勝で黒子っち怪我しちゃって、決勝でられなかったんスよ」
「あらら、そうなん」
決勝の試合に出られなくて落ち込んだのかな?でもそれくらいじゃテツくんめげないよね?
「決勝の相手、黒子っちの友達だったんだって」
「ああ」
「でー……丁度オレら試合に飽きてて」
結果、得点ゾロ目で揃えようぜってなったらしい。重病すぎるぜこれ。
性格悪いし、馬鹿みたいだし……うわ〜公式試合に黒歴史刻んで来ちゃったんだ〜。
ていうか、相手の子達、トラウマもんだよな。
誰だよ言い出したの。どうせ黄瀬だろーな。もともとの性格が一番悪いのって黄瀬だもんな。紫原くんとか大輝とかは子供っぽい所あるから、考えつかないと思う。提案されたらノっちゃうやつだけど。
「……テツくんかわいそ〜〜」
黄瀬は、俺の漏らした言葉に、ふてくされたような顔をした。あ?なんだ、同意すると思ったか馬鹿め。どう考えてもお前のが性格悪いし、テツくんが断然可哀相だろ……。
「まーとりあえず、分かった。そんなことあったら、暫く立ち直れないな。ほっとけ」
「え、ほっとくんスか?」
「じゃあ黄瀬、慰めてやれば?」
「む、無理っスよ!」
うん、黄瀬が慰めたらたとえ優しいテツくんといえど殺意わくだろうな。はははっと指差して笑った。
「桃っちデリカシーない!」
「いや、お前に言われたくない」
夏服が冬服に戻っても、テツくんの姿を見かけることはなかった。
大輝に一度、テツくんのことをどう思ってるのか聞いたけど、バスケ以外ではそもそもそんなに気が合うタイプではなくて、バスケでしか繋がりが無かったから、今はもうテツくんのことなんてどうとも思えないらしい。わー子供の意見……って思ったけど、子供だった。中三になったけど、まだ心は十四歳だった。
この子、この先こんなんで大丈夫なのかな。いや、でもいつかは目を覚ますと思うんだけどさ。
俺は長い目で見守ることしかできないなあ。
「桃井さん?」
「テツくん」
少し遠くの本屋に用があっていつもとは違う所を歩いてたら、目の前を歩いていた人が急に足を止めて声をあげた。それまでは全然眼中になかったけど、名前を呼ばれてすぐにテツくんだったのだと認識した。
声を掛けてくれなかったら、気づかなかっただろうなあ。
っていうか、制服着てるってことは、学校に来てたのかな?
「どうしてここに」
「こっちに大きめの本屋があるから。テツくんちはこの辺なの?」
「……そうですね、家は近くです」
どことなくしょんぼりした顔をしてて、うわーなんかもう、可哀相でたまらない。
テツくんには「メールの返事、出来なくてすみません」って律儀に謝られちゃったので、俺の良心が痛む。はう!知らなかったとはいえ俺テツくんの傷抉ってたんじゃないかなあ?むしろ俺がごめんなさいなんだわ。
「ううん。───話、聞いたから」
「そう、なんですか」
若干テツくんのポーカーフェイスが崩れた。くしゃっと眉を顰めて、泣いてないけど泣きそうな顔。
「ごめんね」
「え?」
「大輝がテツくんのこと、傷つけたことは知ってる」
ぽかんとしたテツくん。何で急に俺に謝られたのか分かんないもんね。いや、俺謝るような事はしてないんだもんな。
「最後の試合のこととかは、俺が謝っても意味ないけどさ。大輝の事は、俺も謝らないとって思って」
「どうして、桃井さんが謝るんですか……それに、ボク謝って欲しいわけじゃないです」
「だよね、うん……」
もんにょりした空気が辺りを支配した。
うちの子がすまん、的なニュアンスなんだよね、俺としては。俺の教育が足りなかったって言うかさあ。
「桃井さんはいつだって、青峰くんの味方なんですね」
「……ウン」
スンマセン。指摘されちゃったよ。
俺が大輝に対して幼馴染みという枠を超えて関わってることは、自覚してた。
「それが凄く、羨ましいです」
「そう?」
「だから尚更、青峰くんのことで桃井さんに謝られると、辛いです」
「あー……うん、俺余計なお世話だったね。大輝は、テツくんに言ったこと、いつか後悔するから。そのときは、大輝に謝りに行かせる」
「そういうことじゃなくて……いえ、良いんですけど」
そっと視線をそらされた。
俺はやっぱり間に入らない方が良いな、これ。
「あ、そういえば、制服ってことは学校来てた?」
「いえ、今日は……友人の中学に行ってきました」
地雷か!!!!!テツくん地雷多すぎィ!
ポケットからそっと出した、友達が託してくれた感の漂うリストバンドを撫でる。きゃー、やめて!俺のハートがごりごり削られてくから!
「そ、それ」
「バスケを辞めないで欲しいって、言われちゃいました」
どうやらその友達引っ越したらしい。もうやめろよ……俺をどうしたいんだよ。
リストバンドをまたポケットにしまってくれたので、ほっとする。あ〜胸が痛いよぉ〜。
「ボクは彼らに勝ちます」
今まで、若干死んだ目をしていたテツくんが、少し輝いた。それでこそ男だ!
正面からぎゅっと抱きつくと、狼狽えて震える。そういえば赤司くんもこうやってびくってしてたな。
「勝てるよ、テツくんなら」
背中をぽんぽんと叩いてねぎらうと、意外にもテツくんの手が背中にまわった。
ようやくデレてくれたんですかテツくん。
「青峰くんを応援しないんですね」
「俺、バスケ好きだもん。つまんなそーにバスケやってる人は応援しないよ」
ふはっと笑いながら身体を離すと、テツくんがちょっとはにかんだ。
「青峰くんにも勝ちます。そしたら、ボクを見てください」
「う、ん?」
唇を塞がれて、固まる。
あ、やわらかい……とか考えてる場合じゃない!
俺いま、テツくんに唇を奪われてしまった…?
「青峰くんのチームメイトではなく、ボクを、黒子テツヤとして」
「へ、あ、……はい」
「あと、桃井さんは距離が近すぎます。これに懲りて、男に抱きつくのは控えてください」
next.
黄瀬は実は一番ひねくれてる気がする……いや、育ち?周りの所為?ってのもあるのかもしれないけど。そしてだんだん大人になって行く人だと思う。最終的に身も心もイケメンになる。
June 2015