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あの後、ぽぽっと顔を赤くしたテツくんは忍者のごとく姿を消した。ずるい、影薄いのずるい。俺はぽかーんとしたあと、赤くなればいいのか青くなればいいのかわからず、心臓が滅茶苦茶うるさいまま、用事も済ませず帰って来た。
テツくんは悪戯でキスするようなチャラっとした男ではないから、多分……俺のこと好き、なのかな?
なんだかんだよく話しかけて来てくれてたし、うん、そうかもしれない。わかんないけど。
ていうかそうだよね!みとめるの恥ずかしいし、罪悪感ハンパないけど、そういうことだよね!申し訳ない……これは本気で申し訳ない。今まで男から告白されてたけど、それとはまた違ったレベルじゃんか!!
俺の性別があやふやって知ってた上で告白して来た奴も凄いなって思ったけど、うわあああ、どうしたらいいんだ俺。
一応俺もだけど、多分テツくんも初めてのちゅうだったんじゃないかなあ。これがテツくんの黒歴史に……なるんだぜ、可哀相だろ。
その後も、テツくんはやっぱり学校で見つけられなかった。というか、学校に来てなかった。
メールしてみようかと思ったけど、何を言ったら良いのかわからないし、テツくんからも何の音沙汰もなくて、穿り返すのを躊躇ってしまった。
無かった事にしたいけど、俺が女の子になることは不可能なので、いずれバレるんだよなあ。
「何か、悩み事かい?」
「え?」
「もう皆帰ったけど」
「うわ!」
赤司くんに不意打ちで声をかけられて、自分の席に座ったままぼうっとしてた俺は驚いてあたりを見回す。
放課後ぼけーっとしてた俺は、皆が帰って行くのも気にならないくらい、ぼけーっとしてたようだ。ほんとぼけてる。
時間を見てみれば、ホームルームが終わってもう一時間も経ってる。
「赤司くん、こんな時間まで残ってたんだ」
「ああ、スカウトの話が来ているから、面談を少しね」
「大変だね」
「そうでもない」
赤司くんは俺の前の席に、横向きに座った。
「はこんな時間まで何を悩んでいたんだい?」
「……いや、うーん。この先のことかな」
「進学?それとも、その格好?」
「格好」
ついつい素直に答えてしまった。
「その格好をしてるメリットはあるのか?」
「んー……ないね」
メリットは、ない。勝手に使命感を感じただけだ。
終わりを探したけど見当たらなくて、止められるのを待ってた。そのうえ、デメリットを今回感じてしまった。テツくんに奪われたといえど、俺が奪ってしまったようなもんだし。なんていうか、カリオストロ的な。
「周りから女装してると喜ばれて、可愛がられてたから、やってやろうってくらいの気持ちだったんだ」
赤司くんが冷めた目をしたまま、相槌を打った。
それ話聞く態度じゃないんじゃない?いや、いいですけど。
「緑間くんじゃないけど、天命を待つみたいな。女装なんてする必要がないっていう明確な理由が欲しかった」
前世のこととか、あんまり言えないからふわっと飛ばす。
女装しないとって思っちゃった自分が馬鹿だったのかなあ。でも、女装が許されてる時点で、正解なのかと思ってたんだよ……。
「でも、女装してることで、ちょっと問題が出て来たから……やめないとなって」
口にしたのは、相談にもならない内容だった。赤司くんが付き合ってくれた事が意外だ。
「どうせ、高校に進学したらまたやり直しだから」
「中学卒業を機に?」
「ん、まあ、そんな所かな」
三年間伸ばした髪の毛を摘んで、毛先を見つめた。枝毛は見当たらない。相変わらず綺麗なピンク色だ。
こんなピンクの髪の毛、短くしちゃうのは勿体ないなあ。なんだかんだ、お母さんの長い髪が好きだったから。
だからといって俺自身が長髪でいるのは面倒なんだけどな。
「さて、帰ろう。赤司くんは?」
「僕も帰る」
俺が立つと、赤司くんも立ち上がった。それぞれ鞄をとったら自然と廊下を一緒に歩く。
帰ると同意したときから、別々に行くっていう選択肢はない。
「は、高校決めた?」
「大輝んとこかな」
「桐皇学園か。大輝離れは先送りかい」
「大輝が大人になるまではなぁ」
遠回しにいろんな奴から、大輝を甘やかしすぎてるとチクチクされたけど、何も楽しい事無くて腐っちゃった大輝を置いてはいけんのだよ。
そして大輝の過去を俺の頭のメモリアルに刻む。で、大人になったら穿り返して笑うんだ!
受験が終わってから、両親にそろそろ髪切って男に戻る宣言したら、意外にも受け入れられた。いやむしろ、今まで俺の女装を受け入れてただけで男なのが本当なんですけど。
ていうかさ、俺が女の子の格好が好きなんだと思ってたっていう、すれ違いが起こってたのね。先生の言う通り両親とちゃんと話せば良かったんだな。…………遺憾の意。
こうして俺は人生のターニングポイントを迎えた。
next.
誠凛に行かせたり、あえて秀徳とかでもいいな〜と思ったけど、桐皇にしました。
桃井さんはようやく、これ女装する意味ってやっぱりなかったんじゃね……と思い始めました。遅い。そもそも中学卒業したらやめるつもりではあったけど。
June 2015