「
です」
中途半端なこの時期に来た転校生に不思議な感じがした。伸びてる前髪の隙間から見えた眸は深い闇を映し出していて、真っ黒な髪の毛は少しだけ怖い。男にし
てはありえないくらい長い髪は女みたいに細く柔らかく、体に沿って垂れている。校則違反とか関係ないのだろうか、先生は何も言わない。
「
くんって前は何処に住んでたの?」
「遠く」
「今何処に住んでるの?」
「・・・ごめん住所とか覚えてないんだ」
顔が少し隠れてるけど、顔立ちは良いらしく休み時間には机のまわりに女子が集まりだす。隣の席の俺にはいやでも会話が聞こえてきた。
「ごめんね田沼」
「え?」
「うるさそうにしてた」
始業のチャイムと同時にばらけた女子と、教室に入ってきた先生の声という喧騒の中にぽつりと聞こえた声に俺は耳を疑って顔を上げた。くすりと目で笑う
はやっぱり不思議な感じがした。
まるで人間じゃないみたいだ。
「
の所為じゃない」
「そう?ありがとう」
よってくる女子はどうにもできないし、と内心呟いてると
はまた柔らかく笑った。不思議な笑みだけど、どこか温かくて嫌いじゃない。良い友達になれるだろうか、なれたらいいな。
「そういえば今日転校生がきたんだってね」
放課後、七辻屋に行く約束をしていた多軌と夏目と3人で歩いていたときに、多軌が俺を見て言った。
「ああ、
のことか?」
「
くんっていうんだーどんな子?」
女子が格好いいって噂してたんだけど、と多軌は笑う。
別に顔のいい男だからといって興味を示したわけでは無いだろうけど。
「
!?」
その瞬間夏目が驚いたように目を見開いて名前を聞き返した。
「?どうした?夏目」
「い、今、田沼……
って言わなかったか?」
「あ、ああ……転入生の
」
酷く慌てて詰め寄ってくる夏目に俺は良く分からなくてたじろぐ。
「
……下の名前は?」
「んん、確か……」
思い出そうとした瞬間に下の名前をぽっと忘れた。なんだっけ、と必死に頭を回転させる。
ガサガサ……
いきなりの物音に俺たち3人は驚き、音のするほうを見た。
ざわざわと風が吹いて木々を揺らし、草花がひそひそ声をたてるような音。ひとしきり大きなガサリという音がしたあと、目の前に何かが落ちてきた。
「にょわああぁー!」
ふわりと黒髪が舞って、とすんと降り立った。
腕には夏目の家の猫を抱いている、
だった。
ぼさぼさになった髪の毛で顔が見えにくくなっているけど、体格もそうだし、制服も着ている。
「大丈夫?斑」
猫の頭を抱き上げて体の様子を見る。
「飛び降りる奴があるか!ばか者!」
「ニャ、ニャンコ先生!?」
「あれ……
?」
夏目が猫の存在に驚き、俺は
の名前をやっと口にした。
「おや、田沼」
「よう夏目」
木の上から落ちてきた二人はどちらも飄々と俺たちに向き直った。
「カワイー!」
多軌はニャンコ先生に気がつくとすぐに抱きつきにかかり、
は手を放して先生を多軌に譲った。
どういうことなんだろう。
ニャンコ先生が喋っていても何も気にしない
と、
を気にしてる夏目。
も妖である先生と親しげにしていたし、もしかして彼は妖なのだろうか。俺たちにも見えるくらいに強力な妖だとしたら、危ないのではない
だろうか。
「
……、もしかして、
というのか?」
夏目は、
の制服の裾を掴んで顔を寄せた。
は長い前髪を掻き分けて顔を出し、夏目の顔を見て少し黙ってから口を開いた。
「うん、やっぱレイコにそっくりだ」
美人さん、と笑って夏目の額を小突いた
は身を翻して夏目から離れた。
って、何者なんだと口から出掛かったところで
と目が合って何故か黙ってしまった。
「じゃあね、斑……お酒はまた今度」
「な、なんだとー!?」
そして森の細道に消えていった
。夏目も俺も何も聞けなかった。本当に不思議な奴だったけど、悪い奴じゃないように思えてしまって怖い。もし邪悪なのだったら相当太刀
が悪い。
「ニャンコ先生、
のこと知ってたのか?」
夏目が多軌から解放されたニャンコ先生に尋ねる。ニャンコ先生はふんと顔を背けながら言った。
「……遠い昔の知人だ」
「
、……
?」
2011-04-12