EndlessSeventeen


小さな王 01(主人公視点)



携帯電話のアラームで、目を覚ました。
音は何の変哲も無いそれで、微睡みの中で腕を適当に音のする方へ伸ばしていると、誰かの髪の毛にぶつかる。すりっと撫でると小さな頭であることがわかった。今回もはちゃんと居る。
『おはよう』
『ありがと、おはよう』
俺よりも朝に強いが携帯を差し出した。

別に、毎日同じベッドに入って眠るわけじゃない。でも、十七歳の誕生日を迎えるときは一緒に居られるか不安だからとがひっついてくるのだ。俺も、をおいて行きたくはないのでその日は毎回ちょっとだけドキドキしながら眠りに落ちる。ちなみに今の所をおいて行ってしまったことはない。
「んー」
『なにか書いてある?』
アラームを止めて携帯を見ていると、その日の予定が記されていたので頭を掻きながら読む。後ろから抱きつくようにして覗き込んで来るはとっくのとうに日本語をマスターしている為に、俺と一緒になって予定を読んでいる。
『任務があるらしい。集合は二時間後……ふうん』
『わかった。とりあえず朝ご飯にしよう』
言いながら、はおはようのキスを頬におしつけた。
当然俺からのそれを待っているので、のこめかみを唇で撫でてベッドから立ち上がる。

朝食を終えてクローゼットを開けると、重厚なコートがぶら下がっている。それ以外は普通の私服らしいものが多くて、多分コートが仕事着で下には何を着ていても良いんだと思う。コートのポケットを漁ると免許証のようなものが出て来て、自分の階級と仕事を知った。
『エクソシスト……』
『へえ、聖職者なんだ』
横で見ていたをちらって見て頷いて、もう一度免許証を観察する。階級は上二級、称号は手騎士。それがどのくらいなのかわからない。十七歳のくせに仕事するなよ、と言いたい所だけど飲み込む。
上ってことは上の方、だけど二級ってことは少なくとも一級があるだろう。初段から先は不明。
すんごくすんごく凄い人ってわけでもなさそうだ。
と相談しながら、とりあえず私服の上にコートを羽織る。にはコートがなかったので普通に着替えるように言ったところで、部屋にノックの音がした。
『すみません!急ぎ伝えたいことが!!』
『はい』
慌てた音と声がしたので、ドアの鍵を開けに行くと勢い良くドアが開けられる。若い、といっても俺よりも年上で成人しているだろう青年が勢いのまま部屋の中に少し入る。勿論招き入れるつもりではあったので無礼とは思わない。
『なにあったんですか?』
『はい、その、ぁ―――』
ごとん、と彼は倒れた。本当にごとんと音がするほどに固い音。けれど肉や骨が地面に当たるよりももっともっと固い。
彼は、石になっていた。
倒れた彼の視線は俺ではない方に固定されたままになっていて、多分の方を見たのだと思う。その時は鏡をみながらリボンタイを結んでいて、今は俺の方を見てきょとんとしている。
『ドミニク!伝えられ――――』
どうしよう、と思って石になってしまった彼を見ていると年配の男性が知らない名前を呼びながら駆け寄って来て、青年を見て顔を覆って足を止めた。
『彼は……』
どうなってしまったのかと言おうとしたけれど、男性は目元を隠したまま唇を戦慄かせ、片手をあげて俺の言葉を制する。
『申し訳ない、こちらの不注意だろう……すまないが可及的すみやかに、トム・リドルの目隠しをしていただきたい』
『―――ああ』
俺はなんとなく察した。
石になってしまった彼よりも、男性の言うトム・リドルをどうにかしなければならないらしい。
めかくしめかくし、と念じながらチェストを開けると高級感溢れる肌触りの幅広のリボンが出て来たのでを呼んで目を隠させてもらう。今まで気づかなかったけど、魔法を使った後のようにその瞳は紅かった。朝目を合わせたときもそうだったのかもしれないけど、正直あまり覚えてない。
『魔法かけた?』
『ううん』
たしか石化する魔法があったはずだけど、は首を振った。
後頭部できゅっとリボンを結び、きつくないかゆるくないか具合を確かめてから、をソファに座らせて男性と青年、ドミニクの元へ戻った。

『すみません、目隠し終わりましたよ』
『あ……ああ、よかった』
ほっとして胸を撫で下ろした男性は、そっと顔を覆う手をとった。
『ドミニクは』
『なに、石化程度なら大丈夫だ。ドクターを後で寄越す』
直接見ていなくて本当によかった、と付け加えられてもしかしてバジリスクと同じ効用でもあるのだろうかとこっそり怖くなる。俺は今さっきまで普通に話していたんだけど。
男性は今回の任務での隊長であり、上一級祓魔師のクラレンスという人で、ドミニクは下一級のそこそこ新人さんっぽい。下っ端さんらしく俺に情報を伝えにきたけれど、俺の連れてる使い魔について深く理解していないところがあった為にクラレンスが追いかけてきたらしい。
『さすがは小さな王と呼ばれるだけあって、力の無い者はその目だけでも死に至ると聞きますが、本当にその通りだな』
『そうですね』
ドミニクが石化で済んだおかげで、クラレンスは苦笑しつつもトム・リドルについて褒めてくれた。これで本当にドミニクが死んでしまっていたら嫌悪なり恨みなりを向けられていたかもしれない。
とにかく運が良かったと双方思うことにして、状況が変わり至急行かなければならなくなったこともあって俺はを抱えながらクラレンスと共に足早に集合場所へ向かっていた。

任務は恙無く、というかほぼの独壇場で終了した。
車の中で暇つぶしと称して軽く知識を頭に入れておいたけど、俺の持っている称号の手騎士というのは使い魔や魔方陣等を使用して戦う人のことで、つまりに頑張ってもらえばいいってことを知った。
抱っこしたの、見えない目を見つめてやってくれるかと問うと、小さくて形の良い唇がもちろんと囁いた後にキスの形を作って俺の鼻の頭を啄んだ。
任務が終わると疲れたのか甘えん坊になるので、俺は存分に甘やかし、本気で感謝しながらの頬にお礼のキスをした。


2015-12-11