あいしていると、
は言った。僕はその言葉だけで五年でも十年でも、百年でも待てると思ったんだ。唇が触れ合いそうな、けれど触れないつもりで別れの時をまった。本当だったら今すぐに吸い付いて思い出を残したいけれど、今度また絶対に会えると、会えたらキスをしようと、願ってキスはしなかった。
コチ、とひときわ大きな音がした気がする。目を瞑ったまま、涙がこぼれた。唇にかかる暖かくて優しい吐息はもうないと思っていたけれど、風が僕の唇にあたった。
「
……?」
目をあけたら、潤んでいて視界がぼやけたけど、確かに誰かの人影が目の前にある。手探りであわてて何かを掴むと、人の感触。
「
……」
僕の名前を呼ぶ声。
驚きよりも、喜びの方が大きくて、僕はそれ以上何も言わないでただ目の前の
を抱きしめた。どうしているの、なにがおこったの、そんなことはどうでもいい。ただ君が僕の傍に居てくれることが嬉しい。
明日はないんだっていうあきらめが、消えたんだ。
「
、
……おれ、ここにいる?」
僕の背中を
が痛いくらい抱きかえして、僕はその痛みがうれしかった。きみはここにいる。
「いるよ、
、僕の腕の中に」
「
、聞こえてる?」
「聞こえるよ、
、君がつけてくれた僕の名前」
が、こんなに子供みたいに泣きじゃくる姿は初めて見た。いつもどこか大人びて、陰を持っていて、優しくて、寂しそうな姿ばかりみていたから、こんな風に頼りなさそうな所は見たことが無かった。
いつもより凄く可愛くて、
は驚きのあまり口が減らない。
何十年も、もしかしたら百年以上も十七歳であった彼の時がやっと動き出したのかもしれない。年相応になったのかもしれない。なだめるように、安心させるようにゆっくりと返事をしても、
はまだ落ち着かなかった。
「
、君にさわれている?」
「うん、キスできるくらいきちんとね」
いつまでも自分の存在を確かめる
に、わかるようにゆっくりと確実に
の唇を食む。唇同士のキスは記憶にある中では初めてで、
の唇に触れているのだと思うと胸が熱くなる。君が慌てているくらい僕も驚いたけど、それでも僕はまず君にキスをしてからじゃないと始まらないんだ。
目を丸めて固まったままの
を気づかせる為にふっと息を吹きかけ睫毛を揺らした。
「!キ……う、うん、そうだ……俺は君の前にいる」
は自分の唇を一瞬だけ恥ずかしそうに隠してから、今度はいつも見たいに優しく目元を和らげて俺の掌をきゅっと握った。
慌てた
も可愛いけれど、落ち着いてる
が一番好きだ。
「ハッピーバースデー、
」
そして僕はまた
に顔を近づけた。今度は
も目を瞑って応えてくれた。
今まで君といた瞬間はどれも幸せなひとときだけど、これが人生で一番嬉しかった、幸せな時間。
2012-12-11