今年も元気に十七歳。
今回は通う学校が決まっていて、俺もも別々の場所へ向かう。
学校ではトム・リドルの名前なので少し不満気だった。
俺が通う高校は、帝丹高校。職員用入り口から入り事務室に声をかければ下駄箱を経由して職員室まで案内がなされて、次は担任となる教員からの案内にかわる。
が来てからは、俺は大抵帰国子女扱いを受けているので、今回も担任に時差ボケはないか、などの雑談を交わされる。
なんかは小学校に行く度に、イギリスから来た子としてちやほやされるので大変らしい。
俺は帰国子女といっても日本人なのでそこまで目立たない。
一緒になって教室へ入ると、がやがやしていた空気がよりいっそう騒がしくなる。
「転校生を紹介する」
担任はチョークで黒板に俺の名前を書き終えて俺を一瞥した。自己紹介をと小さく言われたので、ぐるりと教室を見回してから、慣れた自己紹介をする。
「です、イギリスから越してきました。よろしく」
それ以外に言う事はないし、聞きたければ聞かれるだろうから短く簡潔に。愛想はあるので皆も訝しむ様子は無く、俺は滞り無く受け入れられた。
隣の席は栗色のボブカットの女の子。カチューシャで前髪をずべて上げており、快活そうなイメージだ。
「よろしく」
「わたし鈴木園子、よろしくね〜」
明るい笑みで、当たりには響かない程度に自己紹介をしてくれた鈴木さん。ホームルーム終わってからは一番に話しかけて来て、見た目通り明るく活発な様子だ。
「くんは部活とかやってた?」
「いやー何も。鈴木さんは何部?」
「わたしはテニス部」
「へえ」
他にも何人かが俺を囲い、イギリスの何処に住んでいたのかとか、英語は喋れるのかとか聞かれる。休み時間も終わり授業が始まればまた静かになった。
「くんお昼持って来た?」
「いや、購買行くつもりだった」
「一緒に食べようよ、案内するからさ」
席が近いので、鈴木さんがやっぱり一番に声をかけてくれる。
「蘭ーん、今日くんも一緒で良いよね?」
「あ、うん」
片手を上げて、少し離れた席に居た髪の長い女の子に向かって声をかけた。鈴木さんもそうだけどその女の子にも見覚えがある。よく考えたらこの町の名前も学校の名前も知っている。
「何だオメーら一緒に食うのか?」
「新一」
なにより、今話しかけて来た男の子も、知っている。
新一、蘭、園子とくればわかる。コナンの世界に来ていたことを今この時確信した。漫画もアニメも膨大な量なのである程度の知識やいくつかのエピソードしかしらないけど。
これはまだコナンになる前なのかな。
「えーと、ですよろしく」
「オレは工藤新一。高校生探偵をやってんだ」
「それわざわざ言う事ぉ?ただの推理オタクだから気にしないでねくん。わたしは毛利蘭、よろしくね」
幼馴染み二人組の慣れたやり取りは微笑ましい。
「新一くんは何の用なのよ」
鈴木さんが二人のやり取りに口を挟んだ。
「男一人じゃ可哀相だろ、オレも一緒に食ってやるよ」
「あーはいはい、蘭に悪い虫がつかないようにね」
「てめっ、誰がんな事言ったよ!バーロー」
バーローいただきました。バーローいただきました。
毛利さんも工藤くんも、二人してほんのり顔を赤く染めて慌てる。
「……鈴木さん、俺たち二人で食べる?毛利さんたちの邪魔しちゃ悪いし」
「そーね、そうしましょ」
俺がふざけて提案すると、毛利さんと工藤くんは吃驚した顔をして、鈴木さんはくるりと背を向けて歩き出した。二人に手を振って、鈴木さんの後を追えば、毛利さんと工藤くんは走ってついて来た。結局は四人で購買に行っておすすめのパンを聞いたり、学校の噂とか面白い生徒の話とかを教えて貰って有意義な昼休みを過ごした。
毛利さんと鈴木さんは部活が有り、部活に入ってない工藤くんと一緒に帰ることになり下駄箱から靴を履いて出れば校門の方に周りの生徒が注目していた。
「ん?なんだありゃ」
「?」
工藤くんもそれに気づき、声を上げて首を傾げる。俺もそちらをみれば、校門に小さな人影が見えた。足を進めると姿が確かになって行く。
「?」
ランドセルを背負った、黒髪の小学生がぽつんと佇んでいた。
今日着ていった服と同じなので間違うはずがない。名前を呼びかければ俯いていた顔をぱっと上げて、にっこり笑う。
『どうしたのこんなところで』
『迎えに来た』
公衆の面前だったが、胸元にすり寄って来たを引きはがすこともせず受け入れる。さすがにキスはしないけど、さらさらの髪の毛を撫でればすぐに離れ、あたり前の様に手を繋いで隣に並んだ。
「知り合いか?」
「えーと遠い親戚の子。一緒に住んでるんだ」
俺たちの親しげな様子にきょとんと首を傾げる。どう見ても兄弟ではないからだろう。
説明すれば普通に納得し、俺を挟んでに英語で話しかけた。
子供の相手は疲れるらしいが、もう少し年齢が上がれば普通に対応してくれるのでもそつなく返す。工藤くんも英会話が出来るみたいだけど、道中の会話は日本語で繰り広げられた。
「じゃあ家では英会話なんだな」
「そう。の英語は綺麗で丁寧だから練習にもなるし」
もともと、俺は英語を喋れなかった。をはじめとする様々な人々と無理矢理英語で会話をする中で覚えた。実践は人を強くするのである。
のときは、耳も慣れていなかったしまわりは子供ばかりだったので、唯一落ち着いてゆっくり喋ってくれたの英語しかコミュニケーションがとれなかった。
「あ、ここ俺んち」
「おっそうか。オレんちとも近いな」
歩いていればすぐに家の前につき、ここまで工藤くんと道が違わなかったことに気づいた。どうやら近いらしい。
「へーじゃあ今度遊びに行って良い?」
「おう、んちにも行くかんな」
「うん」
工藤くんちの本の所蔵も凄いが、俺んちにもやたら本がある話をすれば彼は興味を持っていたので、お互いに家に行く約束を交わした。
「じゃあな」
「気をつけてね、また明日」
「おー」
はやっぱり滅多に会話に入っては来なかった。俺が居ないと多分喋るんだけど、俺が居るときはじっとしているのである。そして俺と二人きりになるとまた喋る。
『小学校どうだった?』
『子供がいっぱい居た』
当然の事である。俺だって高校生がいっぱいいたなあ、と思うよ。
たしかに、俺は小学生に囲まれるような状況ではないから彼の疲れは想像できない。話を聞くと、は喋らないようにしているらしい。日本語が喋れないふりをしていれば子供たちは自然と距離を置く。教師の前では日本語がわかるそぶりを見せていて、恥ずかしくて日本語を喋らない生徒だと思われているようだった。
まあ、彼は容姿だけでも人が寄って来るし、その相手が子供となると大変だろう。長い子供生活を送って来たにこっそりと同情して頭を撫でた。
2014-04-28