クラスにやって来た転校生のは、大人しいが人懐っこく、マイペースな楽しい奴だった。同年代の奴らとは違う少し落ち着いた面もあるが、笑うと子供らしくなる顔とか、授業中に昼寝を決め込むところとかは俺たちと同じだ。
「あれ、デート?」
「げっ」
蘭が都大会で優勝したらトロピカルランドに連れてってやると約束をして、その通りにしていた俺は偶然にもとにトロピカルランドで遭遇したのだ。
デートという言葉にオレたちは幼馴染みでありそんなんじゃねえ、と焦るが、はころころと笑ってに、邪魔しちゃ行けないから会ったことは忘れようねーと微笑んで手を引く。
「くん、そんなんじゃないから!」
「ちげーって!これは蘭が大会に優勝したら行きたいっつーから褒美ってことで」
「えーと、それのどこがデートじゃないの?」
は相変わらず何も言わねえ。口数が少ないっつうより、大人数で居るときは自分の口を開かない癖がある。この間学校帰りのところ声をかけたが、普通にの話とか学校の話を振れば返して来るので実証済みだ。
からかっているのか、真面目にいってるのか分かりづらいを引き止めて弁明する。園子みてーにニヤニヤしてこないから、本気で言われているようで戸惑う。まあ園子も本気で言ってる節はあるが。
「っつーかオメーは何やってんだよ」
「普通にと遊びに来てるんだけど?」
当たり前の光景なのに、テンパってた所為かくだらないこと聞いちまった。その事に気づいてるオレを見て、はあははっと無邪気に笑った。
「ねージェットコースター乗った?すかっとするよー」
「今から行くところなの。怖くなかった?」
「あのくらいなら普通かなあ」
今度はは蘭に話しかけた。俺たちはこれからジェットコースターに乗りに行くところだったのでタイムリーな話題だ。
たちは次はお化け屋敷だと目を輝かせていたので、また学校でと挨拶して別れた。
その後、オレたちはジェットコースター事件に巻き込まれ、その事件を解決まで導く。ようやく解放されたころには空も暗くなっており、泣きじゃくる蘭と歩いていたが、先ほどの事件中怪しかった黒尽くめの男を見つけ嫌な予感がする。こっそり後を付けると妙な取引をしていて、証拠写真までとっていたがオレは不覚にも、もう一人の黒尽くめの男に見つかり、頭を強く殴られた。
殺すか、拳銃はまずい、なんて会話がなされているのをぼんやりと聞く。
朦朧としていく意識の中で、毒薬と思しきカプセルを飲まされ、芝生に打ち捨てられた。
「あばよ……名探偵!!」
低い大人の声は、笑みを孕んでいる。
逃げ去る音のあとは、骨が溶けるような音が脳に直接響く。身体が熱くて、苦しくて、全身が痛い。本当に骨が溶けているみたいだ。
『死んでる?』
耳も目も機能してない、ただ思考だけがあった。けれど、その言葉が降り注いだ時に全ての感覚が甦った。
(ははは、やっぱりオレ死んでるんだ)
『うそ、本当?』
今度は違う人物の声。さっきから、何故英語なんだろう。そして、どこか、聞き覚えのある声だ。
覗き込まれる音、それから、身体に触れられる。大きな手だと思った。片手で頭をすっぽり包まれてしまう。
『や、息ある。運ぼう』
『うん』
布をかけられ、おぶられる。
なんか、こいつ身体もでかい。外人だってことにしても、でかすぎる。まるでオレが子供みたいに感じられる。
ずきずきと痛む頭の所為で、ようやく感覚を取り戻す。ぼんやりと目を開ければ、人の肩が見える。
『、目がさめた見たい』
地面と、足、それから俺を覗き込む、幼くも整った容貌の少年、。と呼んでいたことと、がいることから、オレを負ぶってるのはなのだと分かる。
「Really?大丈夫?」
あんまり危機感の無いのんびりとした声で、尋ねられる。
(お前、こんなでかかったっけ)
「わりーな、」
「……やっぱ、工藤くん?」
「あ?おう……」
ぼそりと呟きながら、の肩につかまる。自信なさそうな問いかけに頷くと、は深くため息を吐いた。を見ればやれやれ、と首を振っている。
何がなんだかわからず、とりあえず手当をしてくれるというからの家に行った。軽々とおぶられていたが、ベッドにおろされが立ち上がった途端、自分の身体の異変に気がついた。
身体が、縮んでいる。頭の痛みにも構わず地面に立てば、よりも小さい。
愕然としているオレをよそに、は救急箱を持って来て頭の治療をしてくれた。
「事件があったのは噂で聞いたけど、どうしてこんな小さくなってるの?毒でも盛られた?」
「知ってんのか!?」
「え?本当?例え話なんだけど……この世界には若返る毒があるわけ?」
毒薬を盛られたと思ったらこうなっていたのだ、の言葉に機敏に反応するが、例え話だったらしい。そりゃ、小説やゲームの中で起こりそうなことだけど、実際に起こるとは思わないだろう。オレだって半信半疑だ。だが身体が小さくなってしまったのは事実で、あの黒尽くめの男たちの仕業なのだ。
事情を説明すると、もも馬鹿にはしなかった。
「警察に行きたいんだよ、あの黒尽くめの男たちのことバラしてやんなきゃなんねえ」
「証拠写真は?」
「持ってかれちまった」
「そうなると難しいな……見てたのは工藤くんだけだし、その工藤くんもこんなちっこくなって」
はオレの小さくなった掌を見下ろし、指先で軽く撫でた。
「信用できる大人は?たしか両親居なかったよね」
「……ハカセだ!ハカセに相談しよう」
ぱっと閃いた身近な大人は両親以外にはハカセしかいない。あの人ならオレの話に耳を傾けてくれるし、これからの相談もしやすい。
「じゃあ、送るよ」
「わりいな、、も」
言いふらすような奴らではないと思うが、一応この話は他言無用でと頼むと素直に二人は頷いた。
そしてと一緒にオレはハカセの家を訪ねることになった。はオレの洋服が散らばっていたからかあっさりと工藤新一だと気づいたが、ハカセは中々信じてくれずにオレはの前でハカセに推理をくりひろげ、お尻のほくろの話をしてやった。信じてくれなかったのだから仕方が無い。
そこまでして、ようやくハカセがオレの事を信じてくれた。
「じゃあ、俺帰るね」
「サンキューな」
あっさりとは身を引いた。オレもその方が良いと思い彼を見送った。
それからオレは、探偵事務所を開いている蘭の家に世話になることになった。好きな女と一緒に居られるのは嬉しくもあり、辛くもある。しかしおっちゃんのところなら事件も舞い込んでくるので黒尽くめの男の手がかりが得られるかもしれないのだ。
そんなオレは、小学校に、また通っている。蘭の手前、小学校に通わないなんて選択肢はなかったのだ。仕方が無い。歩美や元太、光彦と少年探偵団なるものを立ち上げ、しばらくすれば灰原という少女も加わった。灰原は黒尽くめの男たちの組織で、オレを小さくしたAPTX4869を研究していた科学者であり、今は組織から逃げている奴だ。無愛想で目つきが悪いが頭は良い。なにより歩美と元太と光彦も気に入っており、今ではすっかり少年探偵団の一員だ。
色々な事件がありすぎてめまぐるしい毎日を送っていたが、ふとにはあれ以来あっていないことを思い出した。の名前は蘭の口から容易く出て来るわけもない。今頃どうしているかは不明だ。
「なあ、元太、四年にさんって人いないか?」
「?外人か?そんな奴いたかな」
「ボクの知る限りでは、この学校に居る外国人の生徒はトム・リドルさんだけですね」
確かは帝丹小学校の四年生と言っていた。元太たちに尋ねても、の存在は知られていない。あんだけ綺麗な顔してりゃ、外国人ってこともあって有名だと思ったんだが。
「リドルさんは日本語を喋れないってらしいので、いつも一人なんですよ」
「可哀相……」
光彦の零す噂に、歩美がしょげる。話が通じないのはさぞ辛いだろうと思ったが、おそらく多少は日本語を分かっているだろう。ただ自分から日本語を喋れないだけというのが大抵の場合だ。でなければ日本の小学校なんか通わない。
気にはなったが全く知らない人物なので、どうするわけでもなく、オレはまたがどこのクラスなのかと言う考えに戻した。
2014-04-28