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たすけて、名探偵! 03 (リドル視点)

は時々、自分の知っている世界に行く。でもそれは、自分の居た世界ではないと言う。どういうことか聞けば、本の中の世界だと笑った。確かに僕も日本で見かけた事のある本の世界に一度行ったことがある。今回のもそれと同じで、高校に行って帰って来た は知っている世界だったと報告した。
僕もその漫画は読んだが、僕がすることは変わらないし もどうすることもない。 が介入することもあるが、それをしても世界は歪む事は無いし、歪んだとしてもそれが正しいものになる。僕も も、何者にも脅かす事はできないから、なんだっていい。
ただ僕たちは居ればいいのだ、この世界に。

小学校に通うのは初めてではない。慣れてはきたのだがあまり好きではないのも確か。子供と接するのはなかなか骨が折れるから、あまり子供とは関わりたくはないと。その為に、話しかけられた言葉に英語で返した。そうすると、誰も僕に話しかけなくなった。意味の分からない事を言う人間の相手は、誰だってしたくないものだから。
しかし、授業はそつなく受けているし文字も日本語で書くので、僕が日本語を分かっていることはおそらく知られているだろうけど。


下校中本屋に寄り道をすれば、ぽんと肩を叩かれる。
「よ、
「……ジミー」
珍しくこの日本で僕に英語で語りかけてくるのは、ジミー基い、新一。僕は米国版の名探偵コナンを読んだので日本名は知らなかったのだ。 はジミーという響きに腹をかかえて笑っていたので僕は彼をジミーと呼んでいる。
「な、なあ、そのジミーっていうの止めねえ?」
ジミーは顔を引きつらせる。
「発音が楽なんだけど」
「ったく。しょーがねーな、オメーは」
どうせ滅多に名前を呼ばないのだからと、ジミーは諦めた。
「んで、何やってんだ?」
「雑誌の立ち読み」
「小学生が雑誌なんか立ち読みすんのかよ……」
ツッコミが煩いので僕はジミーを放って、目当ての雑誌を見る事にした。ジミーは推理小説の新刊を買いに来たらしい。

ある日、 と一緒に遊園地へ行った晩、小さなジミーを拾った。頭から血を流し、大きな服に埋まった小さなジミー。ああ、これがコナンなのかと見下ろす。
「死んでる?」
「うそ、本当?」
僕の問いかけにジミーは答えない。代わりに が反応を示し、いそいそと近づいて来る。
「や、息ある。運ぼう」
「うん」
はジミーの様子を見てから、自分のパーカーを脱いで彼をくるみ、負ぶった。僕は脱げてしまったズボンを拾って隣を歩く。道中、うっすらと目を開けたジミーに気づきに報告したら、 はほっとした様子でジミーに大丈夫かと様子を尋ねる。
『わり、
『……やっぱ、工藤くん?』
知らないふりをしているのだろう、 の様子を見ながら僕は口を噤んだ。
僕は と居る時に他の人と会話をするのが好きではない。だって、折角 がいるのに、他の人にかまけていたら時間が勿体ない気がして。
が居ないときはもう少し喋るし、 が居たって必要に迫られれば口を開くけれど。とにかく僕は事の成り行きを見守った。
結局小さなジミーはハカセと呼ばれる人物の元へ行った。そのハカセが、おそらくハーシェル・アガサであり阿笠博士だ。ここから物語が始まるのかと思いながら、僕は の居ないベッドでぼんやりと眠りに落ちた。

それから、結構な幾日かすぎて、小学校で少年探偵団なるものの噂を聞いた。僕にわざわざ噂話をする人物は居ないので、偶然耳にした内容であり、結構前から彼らは活動していたようだ。
僕から接触する気もないので放っておいたが、少し前に が、ジミーは元気なのかと問いかけて来たので、一度くらい様子を見に行ってやろうと思った。

そんな事を考えていた矢先、僕は少年探偵団を頼る事態になった。それは、 に貰ったピアスを失くした所為。僕の不注意でもあったが、むやみやたらと人のものを移動させる奴が悪いと思う。
僕のピアスホールは健在だし、 のピアスは毎日つけてる。しかし日本の学校でそれをしていると色々口うるさく言われるので学校に居る間はなるべく付けないようにしている。けれど大切なものだからなるべく持ち歩いているし、学校から帰る時にはもう耳にさしているのでいつも小さなケースに入れて持ち歩いていた。
しかし昼休み、いつもは持っているのだが今日ばかりは机の中に入れて掃除に行った。それ以降の行方が分からない。誰かが不注意で落として、誰かが拾い、誰かに届けてしまったのだ。
担任の教師に尋ねてみたが知らないと言われて肩を落とす。運が悪いにも程がある。届けられたとしたら違う教師、もしくはどこかに置かれてしまったのだろう。最悪だ。
から初めて貰った形あるものなのに。
そう言う訳で、僕は一年生の教室へ向かった。ホームルームが終わってすぐの事だったので、まだ教室へ居るだろう。
僕より頭一つ分小さな子供たちは、僕の登場に驚きざわめく。教室にはジミーもいたが、真っ先に声をかけていいものかと考える。
『えと、トムくん、よね四年生の。どうしたのかな』
教室の入り口で佇んでいた僕に真っ先に声をかけたのは、リズ・フォークナー。確か、小林先生と呼ばれていた。
『少年探偵団に、お願いが』
話は早いと思って告げる。僕が日本語を理解していても喋らないことは有名だったようで、小林先生は少し目を丸めてから慌ててジミーや他の子供たちを呼んだ。
そして、僕が日本語を喋った様子をみて、困った事があったら呼んでねと言い残し、先生は教室を後にした。
『リドルさんがボクたちに依頼……ですか?』
『なんか事件か?』
そばかすのある少年、ミッチ・テニスンが不安げに僕を見上げ、大柄な少年、ジョージ・カミンスキーがくだけた口調で僕に尋ねた。
『僕のピアスが無くなった』
『ピアスって、耳に刺す奴だよね?リドルさんしてるの?痛くないの?』
エイミー・イェーガーが、ピアスと聞くなり吃驚する。ピアスホールに関してはもうあいているものだから仕方が無いし、学校内では身につけていない。関係ないものを持ち込んだという言及は受けそうだが、外国人はピアスをしていても仕方がないという風潮があるのでそこまで言われない気がする。一部の国では魔除けやお守りとして知られている他、女の子の証とされているが、イギリス等では特にそう言った風潮は無い。しかし日本からしてみれば外国人は外国人だ。
子供がピアスということで驚くものもいたが、僕の顔を見れば大抵納得される。

アニータ・ヘイリーは無表情で話をきいて、ジミーは僕を見て何か言いたそうにしている。おそらく僕が ではなくトム・リドルだからだろう。仕方が無い事なのだ、これは本名であり、どんなに世界が変わってもトム・リドルの名前は付き纏う。けれど は僕をトムではなく、自分の名付けた という名で呼んでくれる。だからこのくらいは平気だ。まあ、呼ばれて気持ちいいものではないが。

『久しぶりだね、コナン』
『オメー、 じゃなかったのかよ』
『渾名みたいなものかな。本名はトム・リドル』
ピアスの説明をする前にジミーに声をかける。もうジミーと呼べないのが残念だ。

『リドルさんはコナンくんの知り合いだったんですか?』
ミッチをはじめとする子供たちは僕とコナンのやり取りにわずかに驚愕した。
『新一兄ちゃんのクラスメイトの親戚なんだよ』
『ややこしいけどとにかく知り合いってことか?』
ジョージの言葉に、彼は本当に日本人か?と問いたくなったが、小学一年生はこんなものかと口を噤む。
『新一?……ああ、ジミーか』
新一とは、と一瞬考えたがそう言えばジミーはそんな名前だったと思い出して呟く。するとコナンは顔をひきつらせ、アニータはぷっと吹き出した。
ジミーって何?とエイミーが聞くので、コナンは仕方無さそうに説明した。
『こいつ人の名前を勝手に外国の名前にすんだ』
『おもしろーい!』
エイミーは楽しそうに笑い、ジョージは、じゃあオレたちもそうなんのか?と期待の眼差しで見て来た。確かに彼らのことは米国版の名前になっているが、そもそも僕は彼らの日本名を知らない。ミッチは僕らの名前知らないでしょうと嗜める。

まわりはどうやら米国版の名前が知りたいようで、順に自己紹介された。
元太、光彦、歩美には、ジョージ、ミッチ、エイミーと教えてやると喜んだ。アニータはエイミーが代わりに名前を教えてくれて、哀という名前だと知る。
『じゃあ、アニータ』
『格好良いね、哀ちゃん』
『悪くはないわね』
『じゃあコナンくんは?』
『コナン』
ジョージはつまらないとブーイングするが、コナンはコナンなのである。仕方が無い。それに、彼にはジミーという名前もあるのだから皆とそう変わらない。
アニータだけは分かっているのかくすりと笑った。

それより、早く僕のピアスを見つけてくれないかな。

2014-04-28