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たすけて、名探偵! 04 (第三者視点)

少年探偵団は、とある依頼を受けていた。それは、四年生のトム・リドルが失くしたピアスを見つける事。
ホームルームを終えたばかりの一年B組に彼が突然やって来たときは、教室内にいた誰もが驚いていた。それもそのはず、トム・リドルはイギリスからやってきた整った顔立ちの転校生というだけでなく、他者と関わり合う事を極力避け、英語しか喋らないというので有名なのだ。一年生やその担任をしている小林は実際に面と向かった事はなく、英語しか喋らないというのはただの噂にすぎないのだが、彼が口を開かない事は本当らしく、突然の来訪に戸惑いを隠せないでいた。
丁度先日トム・リドルの噂をしていた少年探偵団の仲間内でも、本人がやってきたということで目を見張る。その中でもコナンは、自分が探していた がやって来たので、一人だけ驚きの種類が違うのだが。





は少年探偵団に米国版の名前を教えてやると、事情の説明にうつった。現場を見る為に、一年生を引き連れて四年生の教室へ向かいながら口を開く。
「ピアスはいつも青色のケースに入れて、ポケットの中に入れているんだ。今日は掃除の時に机の中に入れておいて、帰って来たら無くなってた」
「それってよお、掃除の時に誰かが落としちまったんじゃねぇーの?」
の説明によれば、元太の答えが一番容易く導かれる。
「そこからの行方が分からないから探して欲しいんだ」
「クラスメイトたちには聞いたんですか?」
「落とし物なら担任に届けると思って聞いたが、なかったよ」
光彦の問いにも、 は丁寧に答えた。コナンはこの時、一番拾った確率の高いクラスメイトに聞かないでどうすんだよと口に出さずに突っ込んだ。
四年の教室へ着くと、もう生徒はまばらだった。一年の机よりも大きいが、給食メニューの表や委員会名簿などが貼られていることは他の教室も変わらない。コナンと哀は真っ先に掃除当番表を確認し、その当番だったと思われる生徒に声をかけた。
「青いケース?もしかしてこのくらいの?」
聞かれた生徒は手で大きさを現した。コナンと哀が一瞥すると、 はこくんと頷いた。
尋ねられた生徒は、 のピアスが入ったケースを見たらしい。
他の生徒が拾い、周りに誰のものかと聞いたが、知っている者はおらず、あとでクラスの全員に聞くという話をしていたようだ。そしてその事を忘れたと思われる。
「その人、持って帰っちゃったのかなあ?」
歩美は残念そうに首を傾げる。
「かもしれないわね……あるいは……机の中に入れっぱなし」
「あった!これだろ?」
哀が言った途端、拾った生徒の机覗き込んだ元太は無遠慮に手を突っ込んで青い小さなケースを取り出した。 は元太に近づきそれを受け取り開く。
中には黒く光る宝石のついたシンプルなピアスが二つ入っている。まぎれも無く がくれた の宝物だ。
こうしてあっさり事件は落ち着いたのである。



ついでだからと一緒に帰っていると、コナンが思い出したように口を開いた。
「つーかよぉ、オメーがもっとちゃんと他の生徒に声かけてりゃあっさり見つかったんじゃねーか?」
「たしかに。こんなんじゃこれからやってけないわよ」
哀も続いて、 をじとりと見る。
確かに、 の所為で放課後の時間を数分程無駄にしたとも言える。
「出来る事なら他の生徒と喋りたくなくてね」
「なんでなんですか?」
ため息まじりに言う に、光彦は首を傾げる。
「トムと呼ばれるから」
「名前で呼ばれるの嫌いなんですか?」
「呼び方は個人の自由だけど、僕はトム・リドルという名が嫌いなんだよ」
「じゃあどーすんだよ」
のどうしようもない理由に元太がつっこんだ。
「別に?どうもしなくていい。呼ばれる度に殴りたくなるわけでもないし。呼ばれないように生きてるから手を煩わせないよ」
「そ、そんなの寂しいよ!」
「寂しくない。僕を と呼んでくれる人が居る」
歩美が泣きそうな顔で言ったが、 は涼しい顔をした。
は、自分の世界は一人ではないと知っている。コナンに倣って と呼び始めた子供たちも、許容範囲の中に居た。だから、寂しいなんてことはない。

「それに、 がコナンの様子を気にしているから見に来ただけで、もうこんな面倒はかけないさ。ばいばい」

はそう言うと、道を違えて歩いて行ってしまった。
その背中に、光彦は凄い人でしたねと呟く。
「なあなあ、名前が嫌いって何だ?普通名前嫌いになるか?」
は父親と同じ名前なんだ」
元太は納得が行かないのか疑問を口にした。コナンは理由を本人に聞いた事があった為、周りの皆に話してやった。
「親父と同じ名前つけんのか?」
「海外では良くある事よ、親戚や親と同じ名前を付けるの。アメリカの四十一代大統領と四十三代大統領は親子で同じ名前だわ」
元太の頭上に沢山ある疑問符を払うように、哀は説明した。
「お父さんが嫌いってこと?」
歩美の問いには、コナンが肯定する。

を身ごもった母を捨てた男だというところまでコナンは知っていたが、それを小学一年生に教えるのも酷だと思い口を噤んだ。

2014-04-30