EndlessSeventeen


HQ 01(主人公視点)

鳥野高校に通うのは二回目だ。ぱっと見そんなに時は経っていないようなのに、知っている先生は誰一人いない。覚えてないだけかもしれないけど。

見知った廊下を、先生の後をついて歩く。
担任になった先生の話を聞いてると、俺は入学後すぐに怪我で入院していたらしい。一年間は課題提出でなんとか単位をとってテストを受けながら進級、今日が初登校とのことだった。
連れて来られたクラスは二年一組。転校生のように先生と一緒に黒板の前に立っている。
「えーと、ずっと怪我で入院してました です」
会釈してからぐるりと教室を見渡しても知り合いは居ない。前回も二年生だったからさすがに同じ学年に居るとは思っていないけど。
あのときは何年前なんだろうなあ、と思いつつ指示された席に座る。隣の席は坊主頭の少年だ。
適当に挨拶しながら座ると、目つきが悪く対応がそっけなかった。しかし話しているとすぐに打ち解けて、調子良く面倒見が良いタイプだったようだ。坊主頭もとい田中くんは甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてくれた。移動教室のときや昼食はもちろん三組の部活友達まで紹介される。
「ノヤっさん、こいつ !転校生じゃねーけどそんな感じ」
「俺は西谷夕だ、よろしくな !」
「よろしくー、えーーーーーと、野球……部じゃないの、かな?」
田中くんの頭を見て野球部かなって思ってたけど、こっちは坊主じゃないからどうなんだろうと自信が無くなって首を傾げる。俺の問いに一瞬ぽかんとしてから西谷くんは豪快に笑った。
「わはは!龍の坊主のせいか!!」
「俺ぁバレー部だっつーの!」
「なんだー、先入観もってたごめん」
田中くんの後頭部をじょりじょりと撫でながら謝るとちょっと怒られた。
「あ、じゃあ鳥養監督……」
以前通っていたときはバレー部の幽霊部員だった為思わずぽろりと名前をだす。
あれから何年経ってるか分からないのに名前を出すべきではなかったかもしれないと口を噤むが、しっかりと名前は紡いでしまった。
「なんだ、 、バレー経験者か」
西谷くんがにかっと笑ったので危ない発言ではなかったことにほっとする。当時はバレー部が有名だったころだし、そう気にする事でもなかったようだ。
「あの鳥養監督は去年から体調不良で今は孫の鳥養さんが見てくれてんだ」
田中くんが説明してくれたので納得して頷いた。
「今日の放課後部活あるから来いよ」
「いや俺全然運動してないから部活は……」
勢い良く話す二人にのまれて、俺は結局放課後に体育館まで引っ張られて行く事になった。
そもそも俺は、バレーボールという競技自体が苦手で、腕に当てたり打ったりするのがいちいち痛くて辛いのだ。前バレー部だったときも動体視力や運動神経を重宝されてはいたけどテクニック面がゼロだった為ほとんど試合にも出ていない。部員が大勢居たから俺が居なくても事足りていたし、部活仲間も俺のバレーセンスゼロな所は知っていた。

部室に来るころにはいつの間にか体験入部する事になってて、田中くんの体育着を渡される。
「え?なに?」
「部活遅れるから早く着替えろ! !」
「オラ脱げ!」
一分も経たずに着替えを終えた、豪快な二人組の追い剥ぎに遭う。
「何か騒がしいな……って、おい!こら!!!」
田中くんにセーターをたくし上げられて、西谷くんにベルトを外されている最中に部室のドアが開き焦った声が降り注ぐ。
「あ、大地さんチワス!」
「チワスじゃない!お前ら何やってんだ!」
西谷くんが手を止めて、にかっと笑っているが、ドアの前では呆然とした少年たちが数名居る。
大地さん、スガさん、旭さんとそれぞれ呼ばれているが、その呼び方からして全員三年生なのだろう。田中くんと西谷くんはその場で拳骨を受け正座で大地さんにお説教をされている。
俺はベルトを嵌め直しながら、スガさんと旭さんに謝罪と心配をされた。
「ごめんな、えと、 、だよな?」
「はい、大丈夫です。俺の尻は無事です」
!人聞きの悪いこと言うな!」
旭さんは面白いくらい顔を青ざめさせていた。西谷くんは俺のジョークを聞いて、説教中にも関わらず俺にヤジを飛ばし、大地さんにまた怒られるという悪循環に陥っている。
「ま、とにかく着替えすませちゃうべ。 はどうする?」
「俺はこのまんまで。見学だけで十分です」
「そーかわかった」
スガさんは面倒見の良さそうな人で、人懐っこい笑みを浮かべた。
ようやく全員に俺はただ見学に来ただけの人という認識をしてもらえてほっとする。



「なんであの人、こんな中途半端な時期に見学なの?」
「怪我で入院してたんだって」
俺が見学しているのを見て、色素の薄い髪色をした眼鏡で長身の少年が、そばかす顔の子と喋っていた。
っつったっけ、お前バレーやってたのか?じいさんのことも知ってんだろ?」
「バレー自体は苦手なんですけど、部活は入ってましたよ」
鳥養監督の孫が今は監督をしているらしくて、俺の隣に座って指示をしながらも時折話を振って来た。
「なんだそりゃ」
「上手に打てないんですよねえ……手が、ほら、痛いじゃないですか」
「それ思いっきり初心者の意見じゃねーか」
盛大な溜め息を無遠慮につくが、こういう扱いには慣れている。

大抵どの場所でも動体視力や瞬発力はずばぬけているけれど、今回は体力が無いらしい。階段を登っていた時倦怠感を感じたから分かっていた。それに加えて元々バレーするセンスが無いので大した力にはなれそうにない。
「バレー見てるのは好きなんですけどね。マネージャーならやりたいかも」
「ほー。そりゃあ、助かるな。今三年の女子一人だからな」
「そうなんですかあ」
俺が来年いるかは知らないけど、と心の中で付け足す。

「ゴールデンウィークに合宿があってな。ちょうどいいわ」

もしやるなら、という話だと思っていた俺はこの言葉の後にマネージャーとして紹介された。
バレー部に入るのは決まっていたことのようだ。
そして何故か田中くんと西谷くんには潔子さんには手を出さないようにと釘をさされて首をかしげるのだった。
潔子さんって誰。

2014-08-18