EndlessSeventeen


HQ 02(縁下視点)

二年生に進級して、バレー部には後輩が入って来た。エースや西谷の不在と、一年生の一悶着など、色々あったけれどようやく全員が集結した四月も終わりのころ、 が部活見学にやって来た。

見た事も無い顔に、俺たち二年も首を傾げたけれど田中のクラスに、ずっと怪我で入院してた生徒が復帰したという噂を聞いたのですぐに がその生徒だと分かった。田中と西谷はもともと勢いのあるタイプだったからか、初日だと言うのにうちとけている。
「マネージャーになりました。二年一組、 です。よろしくお願いします」
その日の部活終わりには鳥養監督にマネージャーとして紹介されて、えらく早い展開だと思った。
バレーの経験はあったらしいけれど、怪我で本調子ではないとか体力がないとか色々な理由があってマネージャーとして参加することになったのだとか。
清水先輩ひとりでは大変だろうし、これから合宿もあるから、とても喜ばしいことだった。
なんか流されているっぽい所もあったけど、柔らかい笑みを浮かべて何でも卒なくこなしているので嫌な事ではないのだと思う。菅原さんみたいに笑顔に花があると言うか、穏やかなタイプだ。

は体力が無いと豪語していた通り、時々水分補給をした後深く息を吐いていることがある。
「大丈夫?
「はい」
清水先輩に心配されてへらりと笑うけれど、その笑みはどこか力ない。よく考えれば病み上がりなのだから当たり前だろう。日に当たっていないのか色白だし、腕まくりをした腕とかは凄く細い。
清水先輩と一緒に居るとそれなりに男らしく見えるけど、俺たちの中に入ると途端に頼りなく見えた。

「あー!!!」
「ボゲ日向ァ!」

汗を拭いている最中上がった声に、一瞬にして走る緊張感。
あ、と思って、目をやると、 の後ろ姿とそこに向かって行くボールが見えた。
黒い髪の毛がふわりと揺れるのも、後頭部にボールがぶつかりそうなのも、すれすれであっさりと頭を傾けたのも、はっきりとスローモーションで目に映る。
ぱしん、という音がやけに大きく体育館に響いた。
後ろ向きのまま、 は片手でボールを受け止めている。
くるりと振り向いたとき、なんてことのない顔をして、駆け寄って来る日向と影山にボールを投げ返していた。
「スッ、スゲェェエェ!!!!カッケェェエ!!!」
「今ボール見てなかったっスよね?」
日向と影山は少し興奮気味に に詰め寄った。
「まぐれまぐれ」
いつもの、のほほんとした笑みで、 は二人をあしらった。
見ていた部員も一瞬あぜんとするが、まぐれだと言われてしまえば納得がいくので、あっさりと練習は再開された。しかし俺はあいた時間に を観察してみる。
が清水先輩のようにボールを弾く様子は一度も見られなかった。歩き回っているからなのか、ボールを上手い具合に避けている。
けれどほとんどボールの事なんか見ていないみたいで、飄々としているから全て偶然にしか見えない。それが逆に違和感だった。

「田中、 って体育で出てる?」
「ん?ああ、出てるけど、なんでだ?」
着替えている最中にふと気になって聞いてみた。怪我をしていたと聞くけど実際何が原因でどの部分をどれ程怪我していたのかは知らない。
力仕事もしているし走っている所も見たから治ってはいるのだろうけど。
「運動神経とか良いのかなってさ。今日のすごかったじゃん」
「あーあれか」
「まぐれじゃないのか?」
菅原さんがきょとんと首を傾げる。
「あのあとちょっと見てたんですけど、 一回もボール避けるそぶり見せてないんですよ」
「?」
「でも、全部避けてるんです。すれすれで」
俺の言っていることがわかったのか、先輩たちもぎくりと目を見張る。
「あいつ動体視力とか瞬発力はめちゃくちゃ良いっつーか……攻撃に強いんスよ」
ぽり、と田中が頬を掻いた。この間クラスメイトとドッヂボールをしたらしいが、それも全部避けていたという。
「じゃあ、バレー部に入っても良い線行くんじゃないかなあ」
「駄目ですよ は」
あれだけ良い動きができるなら、と東峰さんが関心するが西谷はきっぱりと否定した。
「この間龍とバレーやったら、すぐに腕を痣だらけにして泣いてたんで」
「お、お前らそんなことしたのか!?」
「本当に泣かせた訳じゃないっスよ!」
澤村さんがぎょっとして詰め寄るが、田中と西谷は慌てて弁解した。 は特に二人と仲良くしているが、そんなこともしていたのか。
あの白くて細っこい腕が痣だらけになったというのはなんだか可哀相だ。
「泣かせてなくても、痣だらけって可哀相だろ……慣れてないのに」
菅原さんも憐憫の眼差しを、今ここに居ない に向けた。

「おつかれさまでーす」

そんな時、ドアを開けたのは 本人だった。いつも体育館の掃除をしてくれているので後から来るのだ。
「おつかれっす さん。今日はすんませんっした」
「す、すんませんした!」
「え?なに?なんかされたっけ?」
日向と影山が真っ先に寄っていき、 に再度謝っている。何の事だか分かってない はきょとんとしてからふにゃりと笑っている。
「翔陽たちのボール、見えてたんだろ?
「真後ろに目なんかついてないよ」
西谷がふははと笑いながら に声をかけるが、飄々と躱される。しかし別に隠す事ではないのか、音がしたからのだと、分かっていて避けたことを認めた。
やっぱりまぐれじゃないじゃん、と皆で突っ込みを入れている。
「ど、ど!どうやったら出来るようになりますか!?教えてほしいです!」
「ボール避けるの教わってどうするの。ただでさえレシーブできないのに」
月島がぷっと笑って日向を馬鹿にした。
さんみたいになればもっとボール取れるようになれるかもしんないだろ!」
影山もそわそわと を見ていて期待している。まじ?と困っている はちらりと俺たちを見やる。
助けを求めているようだ。
「とりあえず着替えさせてやれよー」
その視線に気づいた澤村さんがすぐに助け舟を出してくれたので、すぐに一年は静かに帰り支度を整え始めた。
は澤村さんに会釈して、黒いジャージを脱ぐ。やっぱり細いんだよな。
って体重何キロ?」
「へ?」
俺と同様に を見ていたのか、菅原さんが何気なく聞いてみた。
「ごじゅう……」
「「「ごじゅう!?!?」」」
50という数字に近くに居た面々が目を剥く。
「55キロちょいくらいですかね」
「縁下って何キロだっけ」
「俺は66キロです」
「俺でも63キロあるから……」
菅原さんと俺と は大体同じくらいの身長だ。でも、 と俺って十キロも違うんだ。
身長マイナス120出来るというのは随分華奢である。
「ツッキーもそのくらい差あるよね」
「山口、今そんなこと言わなくて良いから」
山口が月島に声をかけて、部員の目がそちらに向かう。
「モヤシブラザーズだな」
「ギャハハ!お前たちのユニット名が決まったな」
「勝手にユニット組ませないでくれます?」
「不名誉すぎる」
命名した西谷とはしゃぐ田中に、月島はヘッドホンを首にぶら下げながら突っ込み、 はシャツのボタンを閉めながらぼそりと呟いた。

2014-08-18