EndlessSeventeen


H×H(主人公視点)

十七歳の誕生日の後にはまた十七歳の誕生日が来る筈だったのに、なぜだか俺は誕生していた。

病院みたいな所で看護婦さんみたいな人に育てられて、数年ある程度の情操教育を施されたのちに、森の中に建つ家に連れられ置いて行かれた。今日からここがあなたのお家よ、と言われたはいいけれど、中には誰も居ない。
またお決まりのように食料がいつのまにか補充される不思議な家に住むみたいだ。

精神年齢の分母が大きい所為で時が経つのもあっという間だった。
子供の足なので街に降りるには一時間かかったけれど、気分転換にもなるしここがハンターハンターの世界だというのも理解した。文字を教わった時にうっすら見た事があったけど、ハンターという職業や念という言葉を聞くまで確信は無かったのだ。
大体今は六歳くらいで、なぜそんな子供が外で念という言葉を聞いたかというと、実際に念使いの人にあったからだ。
川で釣りにふけっているところに旅人のような扮装をしたガタイの良いお兄さんがやってきて、俺は念使いなのかと尋ねてきたのだ。
念とは何かを教えてもらったあげく、俺にまったくオーラがないとか言われて、正直ちんぷんかんぷんになった。
見る人が見れば俺は無機物のようなもので、なおかつ念が身体に触れることも出来ないという。念使いの人が触れればその人も俺と同ように丸腰になる。それからありとあらゆる念が排除されるので、その人もまた念の攻撃は受けつけなくなるようだった。
見るからに異質だからなるべく念使いの居るところには行かない方が良いと言われたけど、俺には念が使える人と使えない人の区別がつかないので、お兄さんの言い付けは守れそうにない。

それから七歳の誕生日を一人で祝った。あと十年か、と思った所ではっとする。十七歳までしかこの世界に居ないような気がしたのだ。というより、自分が十八歳になるという概念がすっぽ抜けてしまった。それはある意味宿命のようなもので、なぜだか強く確信を持つ。
しかし十年は長い。七年も同じ地域に居られた今でも長いと思うようになった。一年ごとに変わる生活はめまぐるしさがあったけれど、今の俺はただ森の中で暮らしているだけだ。届けられる新聞と流れるテレビで下界の様子は知っているけど、まったく関係がない。お兄さんに言われてからは街に降りる回数はへらしたし、家に居ても何も不自由な事がないものだからのんきなものだ。
ところが、あるとき転機がやってきた。家から少しのところにある川で釣りをしていたときに、トランプの強襲を受けた。俺の身体にぺすんぺすん、とトランプが当たってパタパタおちる。けれど、岩や土にはトランプががっつり突き刺さっていた。
「あれ?なにこれ」
釣り竿を置いて、岩に突き刺さったトランプを引き抜こうとしたけどあまりに綺麗に刺さっているから抜けなくて、俺に当たって落ちたトランプを拾いに行く。歪めてみても、普通のトランプだし、岩に刺さっているトランプを軽く撫でてみても指は切れない。
「キミ、おもしろいねぇ」
「え?」
いつのまにか俺の後ろに居て一緒にトランプを観察していたのは、変なメイクをした人だった。あ、この人知ってる、と思いつつぽかんと見上げる。
「ちょっとごめんね」
目を細めてククク、と含み笑いをしているヒソカは俺の腕をとって、おやっと声を漏らす。その後いわゆるデコピンというやつをされたのだけど、軽い衝撃のみしかこない。
「いたっ」
「痛かった?」
「うん」
軽いけどばちんっと言ったのでちゃんと痛みがある。掴まれてない手で額をおさえたら、また興味深そうにヒソカが笑った。
「今、念使った?」
「ううん、使えてないよ」
ちょっと気味悪かった笑みは今度はにっこりした笑顔になる。使えてないよ、って言ってたので使おうとはしたのだろう。
今思うと、最初のトランプも殺す気でやっていただろうし、俺の特殊な体質がなかったら身体バラバラだったかもしれない。
「念のことは知ってるようだね」
「親切なお兄さんが教えてくれた」
「へえ」
別にヒソカに隠す気もなかったし、興味は持ってもどうこうしては来ないだろうと思い素直に俺に念が全く聞かないことを教えた。まあヒソカは身をもって体験してるわけなんだけど。
興味があるらしいヒソカを家に招待して、おやつやらお茶やらを出しながらしゃべり終えたところで、どうしてヒソカはこの森にいたのだろうと思い至った。もともといろんな所に行く人だから偶然ではあるのだろうけど、俺に会ったのは偶然なのだから、これからの予定もあるだろう。
「これから友達に会いに行こうと思っててね。そうだ、よかったら君も来ないかい?会わせてみたいんだ」
「ふうん、いいよ」
聞いてみた俺にヒソカはあっさり答え、誘い、俺もあっさりとそれに乗った。
「手を引いてあげたいところだけど、そうしたらボクが丸腰になっちゃうからごめんね」
「うん」
水筒をさげてとリュックサックを背負って徒歩で森の中を進む。こういう所は慣れているので、遅い以外には迷惑はかけないはず。
いつも降りる街とは違う道路に出て、ヒソカと一緒にバスにのった。そこから十分ほど走ったあたりで降りて、カフェについたらヒソカの言う『友達』であるクロロが優雅に座って本を読んでいた。
「遅い」
「やあ、ごめんね」
「こんにちは」
俺に構っていた所為で約束の時間を過ぎていたらしいヒソカは、クロロに開口一番で責められたけど全く悪びれない。俺が控えめに挨拶するとクロロは少し目を見張ってから苦笑する。こうして見ていると普通のお兄さんだ。
「こんにちは、俺はクロロ。君の名前は?」

「とっても面白い子でね、さっき見つけたんだ」
ヒソカに促されてクロロの向かいの席の奥に座る。そしてヒソカが腕を伸ばしてきてメニューをとって俺の前に広げた。
「お昼食べてないだろう、さっきのお茶のお礼にボクがご馳走するよ」
「ありがとー」
水筒を持っていたので喉は乾いてなかったけど、確かにもう昼を過ぎた時間だったので、ヒソカの優しさに甘える事にした。
「どこでこんな純粋な子供拾って来たんだ」
「森で一人で暮らしてたんだよ」
ヒソカとクロロはふすんふすんと鼻息荒くランチを選んでいる俺をよそに会話をしている。
ってば、念が全く効かないんだ」
「へえ」
クロロが興味深そうにこっちを見た時に丁度俺は顔を上げた。
「俺これ食べる」
グラタンを指さしてヒソカにおねだりすると、うんうんと親戚のおじさんみたいにあったかい目で微笑んで注文をしてくれた。
「……こんなに危機感が無くて大丈夫か」
「なんとかなるなる」
おひやが入ったコップをぺたっと触ると冷たくて気持ち良い。
クロロが酷くまともな事を言っているのを、俺はへらへら笑いながら流しておいた。
どうも、深く考えるのは苦手なのだ。
に触っている間は何も出来ないし、他の念さえも無くなるらしいよ」
「つまり、何が言いたいんだ?」
「手さえ握っていれば、君のその心臓に打たれた誓約は免除なんじゃないかなって」
「試してみろといいたいのか……もし万が一があったらどうする」
「試してみる価値はあると思うけどねえ、まあ君次第かな」
ヒソカとクロロが色々話している間、俺は熱々のグラタンをはふはふ食べていた。クロロはもう心臓に楔があるようで、俺はうろ覚えながらもなんとなく理解する。幻影旅団とは本当に別行動なのだろう。
「除念師とはまた違うけど、紹介してみようと思ってね」
ちびちび水を飲んでいた俺に、二人の視線があつまった。

2015-08-22

※ヒソカの記号は文字化けしそうなので省略しています。
(リクエスト/H×Hで転生)