古本屋さんで長編漫画を立ち読みしていた俺は、そろそろ脚と腰が痛くなってきたことと、ふいに見やった自動ドアの向こう側が夜だったことで、本屋を出た。
小 腹がすいてきたので、家に帰る途中にあるコンビニへ入って菓子をいくつか購入し近くの公園に入る。公園にある街頭には灯りがついて、人気なんてほとんどな いはずなのにブランコに座る影が見える。勢いよく振れているわけではなく、キィキィと音を立て足を地面についたまま気持ち揺らしてる、そんな感じの振れ 幅。
遠くて誰がいるのかよく見えず、俺は近づいてみる。人影の大きさからして子供だ。家出でもしたんだろうかと思ってさらに近寄ってみた。
「あ」
「?」
暗がりに目がなれ、近づいたこともありブランコの人の顔がだんだんとあらわになって俺は思わずその顔に声を漏らした。
俺の声に、今までぼんやりと翳っていた眸はくりっと丸められてこちらを見あげた。
「どーも、こんばんは」
一応挨拶をしつつ、隣のブランコにこしかける。
「こんばんは」
隣に座っている、黒一色の洋服を着て丸っこい黒い頭をした少年は、今までの人間じゃないような表情をくるりと変えて愛想よく笑って見せた。
菓子の袋に手を突っ込んで10円の棒状のお菓子を取り出す。
「たべるー?」
「……どーも」
一瞬黙ったあとにこやかに笑った彼は俺の差し出したお菓子を受け取る。
俺も自分のお菓子の封を開けて口に入れる。
さく、って音が静かな公園に響いた。
「お礼に飴あげるよ、お兄さん」
「あ、いいです。知らない人からもらっちゃ駄目ってみんなに言われるので」
「はあ?」
隣の少年は、ポケットからだした飴を俺に差し出す。俺が断ると少年は整った顔を思いっきりしかめた。
「あははうそうそ。ありがとう」
しかめっ面が面白くて笑いながら掌の飴を摘み取ると少年はぽかんとする。
「ていうか、君がお菓子持ってるなんて以外」
本当に、飴持っててしかもそれを渡してくるのは予想外だった。
「お兄さんは俺の何を知ってるの」
あきれたような顔。決して年相応ではないけど、でも彼らしい表情。
「名前すら知らないよー……君ここで何してたの?出家?」
「せめて家出って言ってよ。ちがう、ただぼうっとしてただけ」
「ふうん、君は」
「折原臨也だよ」
「臨也くんは、いつおうち帰るの」
やっ ぱりあの情報屋さんの臨也くんでした。この真っ黒の服といい人を小ばかにしたような笑みを浮かべる一面といい愛想のよい笑みといい原作どおりの人の子供時 代って感じだ。っていうかなに、子供の頃からこんなにひねくれてたんだ。ああでも高校生の段階であんなことしてたんだから生まれたときからこうじゃないと 間に合わないか?
「さあね。それよりお兄さんも名前教えてよ」
「え、やだあ」
なんか調べ上げられそうだもん、っていうと臨也は目をまん丸にしてから笑い出した。
「お兄さんって何者なの?」
アハハという愉快で少しうるさい笑い声の隙間から臨也は問いかけてくる。
「お兄さんは年齢不詳の十七歳」
「ああ……永遠のってやつ」
くすりと人を馬鹿にした表情。うわかわいくない。
「臨也くんってばにくたらし!」
きめ細かですべすべのほっぺを引っ張ってみる。
あれ、簡単に引っ張れた。避けられなかった。
「いひゃいよ」
痛いよ、といっているのだろう少しだけ眉をしかめる臨也。
「……護身術とか習っといたほうがいいんじゃないの?」
「なに、急に」
「いつか自販機が飛んできたときの為に、避けられるようになっておきなね」
まだ戦闘能力はそんなでもないのかな、小学生くらいのようだからそうなのかもしれないけど。将来が心配だ。俺が手を伸ばして頭を撫で回すのも避けられない臨也。ぐりぐりと目が回るくらい激しく頭を撫で回し、ブランコから立ち上がった。
「ばいばい、臨也くん」
「あ、ちょっと!名前……!」
「今度な、今度!」
2010-08-17