01 未来が怖い
生きた記憶も、死んだ記憶も、生まれた記憶も持って生まれた俺は、と名づけられた。昔とは名前が違うから少し戸惑いを覚えたけれど、と呼ばれて気付くのに遅れて反応できなくても赤ん坊だった俺に疑問を抱く人は居なかった。そして、いつしかという名前にも慣れて反応できるようになったころには、首が据わり、ママやパパなら柔らかく言えるようになっていた。
「フレッドちゃん、ジョージちゃん、ちゃん、良い子にして待ってるんですよ」
ママが額にちゅっとキスを落とし部屋から出て行ってしまった。
俺たちは三つ子だった。
フレッドとジョージという名前を聞いたときから嫌な予感がしていたけれど、弟のロンが生まれて更に驚いた。しまいには妹ジニーも我が家にやってきた。
———ああ、これ、知ってる。
そう思ったけれどどうすることもできなかった。
俺が前に生きていたころ、とある本がベストセラーとなって大反響した。それはハリーポッターシリーズだった。その本はあらゆる言語に翻訳され、映画化までされた。読書はそこまで好きではなかったが、その児童書の発売当初に丁度適齢だった為親や友達、先生までもが勧める為読んだのだ。
分厚いながらも、文字は大きめで読みやすく、すぐに物語へ引き込まれた。夢中になって読み終えて、何度か読み返したことがある本だ。もちろん、最終巻まで読んだ。
死んだ時は驚いたけど、生まれたときも驚いた。そして家族にも驚いたし、自分にも驚いた。
死んだ原因は事故だった。駅のホームに落っこちて電車に轢かれて、俺は一瞬で騒音と共に消え去った。生まれたときはもちろんママのお腹から、双子と一緒に。
(俺がいるから、三つ子なんだけど、俺にしてみたら彼らは双子だ)
眠気やだる気が中々取れない俺を見下ろした顔は端正な顔立ちの兄と、ヤンチャそうな顔の兄と、利発そうな兄の三つ。ママもパパも兄も双子も、赤毛だった。俺ももちろん赤毛になっていた。そして眸はブルー。
(前は、ブロンドと灰色の眸だった)
顔立ちはそんなに変わっていないように思う。赤ん坊のうちから見慣れてきてしまったからなのかも分からないけど、鏡をみて、ああ俺だと思うくらいだ。
最初はこんな未来を知っている世界で生きていくなんて不安だったけれど生活しているとこちらの色に染まるように気にしなくなってきた。
(事が起こるのは大分先だし)
歳の離れた兄のビルやチャーリーは大人しく聞き分けの良い俺を可愛がってくれたし、パーシーはなんだかんだで俺に自慢話をしつつも色々なことを教えてくれた。年齢的には俺のほうが上で学力もあるところなのだが、何せここは魔法使いの家だ。今まで魔法なんて見たことなかったし、ましてや使うことなんてなかった俺には見知らぬことばかり。
フレッドとジョージはお腹の中に居た時から一緒なのだから俺にひっついてきたし、歳の近い弟のロンは、フレッドとジョージにいじめられると俺の後ろにまわったし、ジニーは俺に絵本を読んでもらいたがった。
新しい家族には段々と慣れて、魔法のある生活がごくごく普通になった。
慣れてきたので、俺は自分を守れるように頑張った。
弟のロンが1歳のときに、闇の時代は幕を閉じたとされていたけれど、俺は再び辛い時代がくることを分かっていたし、自分が戦わなくてはならないだろうということも分かっていた。
読書好きではなかったけれど、嫌いでもなかったし生きるためにたくさんの書物を読んだ。うちはあまり裕福ではなかったから、滅多に新しい本を買えなかったけど、ビルの部屋やパパの書斎に潜り込んで補った。あとは本屋さんでパラパラとめくった本を必死で読み取る。
ホグワーツで主席のビルには沢山勉強を教えてもらったり、パーシーと一緒に勉強をしたりしていたから、双子達には時折怒られた。一緒に遊びたいようで、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら俺を引っ張って連れて行くのだ。
ロン同様に悪戯の的にされかけたけど、なんとか逃げているうちに俺は双子の悪戯を殆ど避けられるようになった。つまりロンのみが悪戯の的だった。
時々泣きついてくるので、双子を止めたりもしたけど、大抵は止めさせなかった。
これは彼らの愛情表現であり自己表現だったし、ロンを鍛えるのにもなった。そして見守るのは俺なりの愛情表現だった。
前の家族も、今の家族も自分の家族であるという認識はすでしていたから、俺は皆を大切に思っていた。
物語の内容を知っているとはいえ、あまり手出しをしたくないと言うのが本音だった。けれど、パパが襲われたり、ロンが幾度となく危険な目にあったり、ビルが人狼になりかけたり、ジョージの耳がなくなったり、フレッドが死んでしまう。それを見ていなければならないのがとても辛かった。
双子が、怪我をしてしまうのが1番きつい。
一緒にお腹から出てきたことも、ずっと傍に居たこともあって、俺が一番大事にしてるのは双子。
だから、どうしても接するのが苦手なのかもしれない。
勉強の所為にして、双子と遊ぶのを控えてきた。だって、ジョージが耳を失ったら胸が張り裂けそうになるし、フレッドが死んでしまったら身を切られる程に苦しいだろう。
これから待ち受けている未来が、何よりも怖い。
Sep.2011