02 双子≠三つ子
ホグワーツ魔法魔術学校に入学した。
帽子を被った途端にグリフィンドールと叫ばれる双子とは違って、俺は少しだけ帽子と話をした。
『不思議な子だ、迷ってしまうなあ』
(そうかな……)
『知識もあるし、勇気もあるようだ。時には狡猾にもなれる』
(じゃあ双子と一緒で)
『双子?三つ子じゃないのかい?……しかしまあ、いいだろう』
「グリフィンドール!」
グリフィンドールの席へ向かうとフレッドとジョージが俺をぐいっと引っ張るので二人の間に座った。
「遅かったじゃないか!」
「俺達はすぐ決まったのに!」
口々に話しかけてくるけれど俺は碌な返事もせずに、騒ぎ立てるのを聞いていた。
「「グリフィンドールじゃなかったらどうしようかと思ってた!」」
「まあ何でも良いじゃん……結局グリフィンドールなんだし」
ダンブルドア校長が何か言ってたりする間も双子は俺の腕を両脇から掴んでこしょこしょと話しかけてくる。
ようやく食事の許可が出たのでポテトをつまんだりジュースを飲みながらまだ何か言ってる双子を受け流した。
それから、双子は持ち前の悪戯センスを駆使して学校中で騒ぎを起こした。減点をされることもしばしばあったけど、人を楽しませるのが大得意な二人は当然人気者になった。
俺はというと、悪戯に参加もしないし静かに本を読んでいるので有名にはならなかった。
いつしか、ウィーズリーは双子とされ、俺の存在は同じ寮生ですら薄れていった。でも、友達が居ないと言うわけでも、暗いというわけでも、無視されているわけでもない。
ただフレッドとジョージの血を分けた兄弟だとは思われなくなったということ。
ウィーズリー家の特徴である赤毛だったけれど、珍しいわけではないし、双子とそっくりな容姿をしているわけでもない。外で遊びまわって生傷の耐えない幼少生活を送ってきた双子と、部屋の中で黙々と本を読んでいた俺とじゃ体格が違かった。俺は軟弱でとても細くて、日にも殆ど焼けないからそばかすもない。
大して目立った行動もしないとすれば、俺がフレッドとジョージの兄弟だとは誰も思わなかった。
そんなある日、談話室のソファに沈み込んで大量に本を読み漁っていた俺に元気良く話しかけてきた双子。
「「!」」
「ん」
なるべく本を読み続けたかったので一瞥もくれずに軽く返事をするが、フレッドが俺の本を取り上げ、ジョージが俺の腕を引っ張り上げて身体を起こしたので二人の顔を見上げた。
「え……」
「「も手を貸してくれよ!」」
あくまでも丁寧に、かつ勢い良く本をほっぽったフレッドはジョージ動揺俺の空いている方の腕を掴んで、立ち上がった。おのずと俺も立ち上がらせられて、いきなりのことに驚き、ぼんやりと二人を交互に見やった。
「なにに」
「もちろん」
「悪戯だよ!」
ずかずか歩き談話室を出ようとする二人のぴったりと息の合った言葉に、ぴしりと固まって歩くのをやめた。けれど腕を組まれているのでたとえ足を止めても、俺は引き摺られていくことになった。
何がしたいのか、俺を含めた三人の姿をきっちりと相手の前に見せてから悪戯専門店で買ったグッズをぽいぽいと投げ始める。廊下を滅茶苦茶に汚し、悪戯のターゲットもぐしゃぐしゃに汚れたところで二人は俺の腕をぎゅっと掴んで放さないまま寮へ戻って、俺をソファに解放した。
「……まさかお前までこんな馬鹿な真似をするとは思わなかった……」
「俺は何もしてないんだけど……?」
当然のようにその噂は兄であるパーシーにも行くし、何度か目撃もされているので、俺はため息と多少の侮蔑を込めた眸を向けられて叱られた。兄やママの言うことを聞かない双子は、もちろん俺の言うことだって聞かないのに。
「無理矢理つれてかれるんだ」
一度だって悪戯グッズをなげたことも、杖を振るったことも、知識を貸したことも無い。
「少しは抵抗しろ」
「ええ……めんどくさい」
パーシーは大きなため息を吐いた。
俺の面倒くさがりは生まれたときからで、家族の間でも有名だ。ママに女物の服を着せられても、双子に変な薬を飲まされても、ロンの未熟な魔法の練習台になって頭をピンクにされても、大して抵抗せずぼうっとしているからだ。
動くことも、考えることも、そこまで面倒ではないが、抵抗することが一番面倒くさい。流れちゃえばいいんじゃない。
「それよりパース、この問題おしえて」
宿題をやっていた俺はわからない訳ではなかったがパーシーのご機嫌取りのために教えを乞うた。パーシーは自分の優秀さを人に知ってもらうことが好きだし、頼られるのも好きだ。だから勉強を教えてもらって、そのあとにありがとうと言うのが一番良いのだ。
「仕方ないなあ……」
今度はため息ではなく、笑うような息を吐いたパーシーは俺の宿題を見てくれた。
「「!フィルチのところへ行くぞー!」」
図書館からの帰り道、借りてきた本を待ちきれずにパラパラと捲り始めていた俺の前から双子がやってくる。そして俺の返事を聞かずに、俺の脇に手を差し込んで両腕を抱えてずるずると引き摺る。
後ろ向きで歩くのが面倒なので、双子の力に任せて、本を読みながら引き摺られた。
「フィルチ発見!」
「いくよ?」
本を読みながら壁にへばりついて身を隠す。双子は逃げる準備に、俺をぎゅっと掴みなおして体勢をつくった。
ぱらり、と本を捲り文章を読むのに徹して黙っていれば、双子は嬉しそうに悪戯グッズをフィルチに当てる。バーンと音がして煙が噴き出したと同時にすっくと立ち上がり学校中を逃げ回った。
「「二手にわかれよう!」」
そう言ったくせにフレッドもジョージも俺の腕を放さない。
「、一緒に行こう」
「俺もと一緒に行きたい」
「どっちでもいいから」
いつも手を放すのも掴むのも同時だから片方が放すことなんてありえなくて、結局三人そろって逃げ回った。分かれたほうが楽なのに。
掴まることはなかったが、いつもより倍は逃げ回ってとても疲れた。
俺は元々体力がそんなにないから、ぐるぐると引き連れまわされて疲労困憊だ。
「つかれた……」
「「は走ってないじゃないか!」」
寮に戻ってきてはあとため息を吐くと双子が噛み付いてくる。
当然俺は殆ど走ってない。二人が俺をずるずる引き摺りながら走ったのだ。
「俺悪戯付き合わなきゃだめなの?」
しゃがんでいた俺は床に手をついてよじよじとソファに掴まり、体を預ける。
「「だめ!」」
「えええ……」
「知ってるかい?」
「フレッドとジョージ・ウィーズリーは双子だって言われてたんだよ」
「知ってるよ」
「「なんでそんなに落ち着いていられるんだよ」」
本のページをぱらりと捲ると、双子がそろって声を上げる。双子だと有名になっていても俺は別にどうでも良かったのだけど、双子にとっては自分達は三つ子なのだから嫌だったみたいだ。
「俺達は三人で一人だぜ?」
「皆にを紹介してあげないと!」
フレッドとジョージが順々に分担して言葉を発する。相変わらず息の合った二人だ。
「「フレッド・ジョージ・・ウイーズリーは三つ子の悪戯仕掛け人さ!」」
そして二人は毎回悪戯に俺を引き連れていくようになり、瞬く間にホグワーツの悪戯仕掛け人は双子から三つ子になってしまった。
「ミスターウィーズリー……どうにかできないのですか」
俺はマクゴナガル先生から、たびたびそう言われるようになった。
もちろん、俺にはどうすることもできない。
Sep.2011