04 兄の泣き顔
僕には沢山の兄が居る。その中でも厄介なのはフレッドとジョージ。あいつらは悪戯好きでよく僕をいじめるんだ。と三つ子だとは、とうてい思えない。
は、よく僕を助けてくれる。でもいつもじゃない。
どうして時々しか助けてくれないのかと尋ねたら、がんばれって言われた。は一番優しくって一番身近で、一番便りになる。でも一番、考えていることがわからない。
そんなは、ホグワーツで悪戯仕掛け人として名を馳せているらしい。行動力の"こ"の字もないが悪戯仕掛け人だなんて、どうせ嘘だろうと思って僕は入学した。
フレッドとジョージが僕に嘘を教えたのだろうと思ったけど、は本当に悪戯仕掛け人として有名だった。
でも悪戯をしている場面をみて、やっぱり嘘だったことに気がついた。はフレッドとジョージに脇から捕まえられて本を読んでいるだけだ。
爆弾や魔法が飛び交う中、は表情一つ変えずに、本のページを捲っていた。
ぱらり、またぱらりと。
逃げる時もただ引っ張られていて無表情だから、その光景がどこかシュールで面白い。
「あれって、本当にロンのお兄さん?」
ハーマイオニーとハリーはそろって首を傾げた。があまりにもフレッドとジョージと似てないからだろう。たしかに、最初は生徒達にも双子だって思われてたみたいだし。
でもだって、赤毛だし眸の色は一緒だし、そばかすのできやすい体質だ。体型に関しては、フレッドとジョージみたく外で遊ばないから二人に比べて細いだけだろう。
小さな頃からフレッドやジョージと遊ぶのは決まって僕で、はパーシーと勉強したり、ママの手伝いをしたり、パパの書斎で本を読んだりすることが多かった。
その様子にフレッドもジョージもつまらなそうに頬を膨らませて無理矢理を引っ張ってくることもあったけど、やっぱり時々しか付き合ってくれなかった。日にも当たらないからそばかすもほとんど無いし、小食だから全然肉もつかない。子供の頃からこれだから、近頃ますますフレッドとジョージとの体格に差が出ている。
「は、多分パーシーとかビルに似てるんだ」
「へえ」
「じゃあ成績が良いのね」
ハリーはただ頷き、ハーマイオニーは少し嬉しそうに口を開いた。
「昔からは僕たちとは遊ばずにビルとかと遊んでたんだ」
「三つ子なのに?」
「うん、ってもしかしたらフレッドとジョージのことあんまり好きじゃないのかも」
こころなしうんざりしたような顔で抱えられているをちらりと盗み見ると、ハリーもハーマイオニーもああと頷いていた。
ハリーが、賢者の石を守るために戦った。僕は自分なりにがんばった。チェスに勝つために犠牲にはなったけれど、無事に石を守ることができて、力になることができた、僕は嬉しかった。とても、誇らしかった。
でも、保健室のベッドで目を覚ましたときに僕は自分の行動を少しだけ責めた。
普段表情をあまり崩さない静かなが僕の手を握って、泣き腫らした目で僕を見下ろしていたからだ。すんすんと鼻を啜って、目の周りをごしごしと擦り、ひんやりとした手で一生懸命僕の手を温めようと擦っていた。
「ロン!」
目をあけた僕と目が合うなり、は泣き止むどころかぶわっと涙を零した。
女々しいとか、大げさだとか、そんなことはこれっぽっちも思わなかった。今まで自分が悪戯されても(殆ど避けていたけど)薬を飲まされても、風邪で辛くても、ママに怒られても泣いたことがなかったが今僕の身を案じて泣いてた。
———兄を泣かせたのは初めてだった。
「よか……よか、った……」
僕の手を頬に寄せて心底ほっとする顔で、唇を震わせながら笑った。
が笑うのは本当に本当に笑いたい時だけだ。
「、ごめん……」
指先がの大粒の涙に触れた。
「ううん。なにも、してあげられなくて、ごめん……ロン」
僕らが勝手にひっそりとやった行いについて、知る由も無いはずのがこんなに罪悪感にまみれた顔で言った言葉の意味を、僕はずっと気付くことができなかった。
僕の髪の毛に指を伸ばして顔から払いのけ、そっと様子を見る、いつも以上に優しいにドギマギした。
「ロン!目が覚めたの!?」
突然声がして驚いてそちらを見ると、ハーマイオニーがこっちに走ってきていた。
「あら、!」
「やあ……あー、ハーマイオニー、皆を呼んできてくれないかな……俺この顔じゃいけない」
困ったように呟いたに、僕もハーマイオニーもはっとした。
「フレッドとジョージにからかわれちゃう」
「そんなことないわ!」
「ん、でも、お願い」
ハーマイオニーは、真剣にを励ましていた。はくるくるしたハーマイオニーの頭を撫でて照れたように笑った。
「これ、内緒だよ……」
自分の顔を指差して、は保健室から去っていった。
Sep.2011