harujion

ハルジオン

07 あいでころして

フレッド、ジョージ、俺の三人で店を開いた。
手助けをしたハリーを責めるものは誰も居なかったし、言うことを聞かない双子にはママの小言なんて一切耳に入らない。
それに商売は繁盛しているから迷惑はかけていないはず。

双子は製品開発に日々精を出しているので俺は事務や会計を任されている。発想力や向上心は双子のほうが上だし接客も二人がするので、丁度良い役割分担だった。
とにかく店は順調で開発も良い傾向にある。WWWに専念して行けば更なる向上が見られるだろう。
けれど俺達はホグワーツに通っている。
悪戯用品の市場調査もしたいし、クィディッチもやりたいからなのだとか。

店を閉めていても、通販はやっているから売り上げはそこそこをあった。加えてホグワーツ内でこっそり売ったり実験をしたりするなど市場調査も順調だった。
新しい悪戯用品の開発をする傍ら双子はクィデッチに勤しんでそれなりに楽しくやってきた。
それなのに、ドローレス・アンブリッジが双子にクィデッチを永久的に禁止した。
分かっていた。だからこれから起こることもわかっている。
少し、楽しみにしていたのだ。ドローレス・アンブリッジに沢山迷惑をかけて学校を去るのを。けれど双子はぐっと唇を噛んで何もしなかった。数日経っても、一週間が過ぎても、何もしない。俺は耐えかねて、口を開いた。

「なんで?」
「ん?どうしたんだよ
フレッドはきょとんと首をかしげ、ジョージは不思議そうに俺を見上げる。今は悪戯用品の開発をしていて二人はそろって鍋を見つめていたのだが、そんなことをしている場合じゃないだろうに。
「市場調査は十分やったし、クィデッチはもうできないのに」
なんでいるの?口に出さずに首を傾げた。原作とは違うじゃないか。
双子はちらりと互いの顔を見やってから、同時に俺の顔を複雑そうに見た。遠慮がちにおずおずと口を開いたのはジョージだった。
は……授業を受けたいだろうと思って」
拍子抜けした。思わず目を丸めるくらい。
「俺達、がいないとWWWまわんないしな」
「うん、がいないと駄目だ」

フレッドとジョージは顔を見合わせて頷いた。

———いつも俺の都合なんて考えないで悪戯に巻き込んでいくくせに。
俺は、もう守ると決めていた。自分よりもこの愛しい人たちを、優先すると。だから持っている力は存分に貸すし、きちんと傍に居ようと思っていた。
こんな時ばかり、俺を気遣う双子に、ぎゅっと胸が締め付けられた。
いつもどおり、俺の腕を両脇から抱えて、飛び立ってしまえば良いのに。
馬鹿で、いとしくて、とても優しい俺の兄弟。

自分の命が惜しいけど、もっと惜しいものがあった。
共に居ることがとても心地よいから、この空間を失いたくない。
「……そう」
じわりと滲む涙をこらえるのが精一杯だった。
悟られないよう、長い前髪でさりげなく隠して、俺はそっぽを向いた。
「その気遣いをもっと早く発揮できていたらよかったのに」
いつものように少し辛辣なことを言って背を向ける。
「それはできない!」
と一緒がいいっていったろ?」
部屋を出て行くときに、とうとうぽろりと涙がこぼれた。
ああ、この子たちのことが、だいすき。


家族限定だったけれど、俺は力を貸せるときは貸してきた。それは原作に歪を作らない為だった。
今は俺が居る所為で歪ができている。それをどうにかするためには、原作のあの騒動を自分から起こせば良いのだ。


涙などなかったように振り向き、俺は魔法をかけた。フレッドとジョージの荷物を全てまとめてトランクに入れて、WWWへ転送した。いままで見ていた鍋も一瞬で消え去るとフレッドとジョージは慌てる。
「あ、あれ!?荷物が消えたぞっ?」
「送った」
「「……何だって?」」
もう用は無いとばかりに杖をローブの中へ仕舞って踵を返す。
定位置である二人の間に来て、腕をぎゅっと掴んだ。そして歩き出すと二人はわけが分からないという顔のまま着いてきた。

「「どうしたんだよ、?」」
「悪戯しようよ」
「「え!?」」
廊下を足早に歩き、アンブリッジの部屋まで来る。途中に多くの生徒が居たけれど、俺はそんなこと気にせず、部屋の扉に向かって杖を突き出し無言呪文をかけた。一瞬でドアが粉々に砕かれ、目を丸めたアンブリッジと説教中だったハリーの姿が目に入る。

「ミスターウィーズリー!?!?」
アンブリッジの甲高い声はとても慌てていた。
「もう……ここで学ぶことはありません、やりたいこともなくなりました」
「「?」」
そう言いながら、双子からくすねておいた悪戯用品をばらまいた。廊下は泥沼のようにぐちゃぐちゃになり、アンブリッジには花火を投げつけてやった。
髪の毛がぼさぼさになっていてとても気分が良い。
両脇にいるフレッドとジョージは俺の言葉にはっとして、様子を窺うように俺を見ていた。
そして、最後にまた杖を振りかざして口を開く。
「アクシオ……箒よ来い」
途端、アンブリッジの部屋に釘で打たれた2人の箒がガタガタと暴れて此方に飛んできた。フレッドもジョージも驚きながらそれをキャッチする。

「校長先生、俺学校辞めます」

嫌味のつもりでウインクして、自分が使うための箒を取り出した。ロンから勝手に借りて今まで魔法で隠していたものだった。
「ねえ、三つ子の悪戯仕掛け人、ホグワーツで最後の悪戯だよ」
ぽん、と二人の背中を叩くとたちまち楽しそうに笑う。
不思議と、誰も邪魔する人は居なかった。かけつけたマクゴナガル先生でさえ、見守っていてくれた。遠くにスネイプ先生の苦い顔が見えたけど一瞥するだけにした。

フレッドもジョージも追加で悪戯を仕掛け、WWWの店の名前を出して箒にまたがって飛んだ。
俺もそれに倣って宙に浮き、敬礼を示したピーブスに笑いかけ、弟妹を始めとする生徒たちの顔をぐるりと見てから遠くの空へ三人揃って飛び立った。

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Sep.2011